第6話 魔法少女になりたい
5月7日、日曜日だというのに教師をしている両親たちはリモート授業で授業を再開するために出かけて行った。俺の父親もダンジョン関係で仕事があるとかで出かけて行った。緑は、今日も朝から来ていて、親たちを送り出した後に俺の家の台所で、俺の前でテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。
「直人、スキルオーブって何?」
「どうしたの?」
「私にいくつかスキルオーブを使ったじゃない。でもネットでスキルオーブって話題になっていないからさ。」
「レアなドロップアイテムみたいだよ。俺みたく数えきれないほど毛玉を駆除しないと残らないみたい。モンスターを斃した瞬間にスキル取得に使用されてオーブの形で残らないこともあるみたいだ。」
「私に使ったのは、『鑑定』・『格納(アイテム)』・『身体防御』・『身体強化』・『生命力感知』・『生命力操作』・『空間感知』・『空間操作』・『魔力感知』・『魔力操作』・『暗視』・『視力強化』の12個だよね。」
「ああ、12個目を使った時に『格納(ハーレム)』が発動して慌てて緑を起こしたら、説教されたというわけだ。」
「『ステータスメニュー』の使い方は分かったけれど、スキルは名前だけで説明がないから教えてくれない?」
「なんかスキルを扱うための素質を取得するだけで、すぐにスキルが使えるわけではなさそうなんだよね。」
俺は、毒を食らわば皿までで残りも寄こせと言われることを予想して、まだ緑に使っていない分のスキルオーブを出しながら、緑に『世界の叡智』に接続できてから分かったスキルに対応するコメントを説明した。
・『鑑定』
ダンジョン産のアイテムを鑑定する。
知識に応じてダンジョン産以外のアイテムでも鑑定できる。
・『格納(アイテム)』
アイテムを格納する。
容量は習熟度次第で、一定以上の生命力があるものは格納できない。
・『身体防御』
物理現象や魔力現象から身体を防御する。
・『身体強化』
物理現象や魔力現象に対する身体能力を強化する。
・『生命力感知』
生命力を感知する能力。
・『生命力操作』
生命力を操作する能力。
『肉体疲労度』や『精神疲労度』を回復したり、身体を修復したりできる。
・『空間感知』
空間を感知する能力。
・『空間操作』
空間を操作する能力。
魔法の効果を発揮する範囲を定義する。
・『魔力感知』
魔力を感知する能力。
・『魔力操作』
魔力を操作する能力。
・『暗視』
暗い場所でも、生命力、魔力、音などから視覚情報を得る能力。
・『視力強化』
視力を強化する能力。
遠くを見たり、小さなものを見たりすることができるようになる。
・『魔法-加速』
オブジェクトまたは力点に力を加えて加速する。
・『魔法-減速』
オブジェクトまたは力点に力を加えて減速する。
・『魔法-励起』
一定範囲にある素粒子の運動エネルギー量を増やす。
・『魔法-減衰』
一定範囲にある素粒子の運動エネルギー量を減らす。
・『魔法-加熱』
一定範囲にある分子または原子を加速することで加熱する。
・『魔法-冷却』
一定範囲にある分子または原子を減速することで冷却する。
・『魔法-電磁場』
電場や磁場を操作する。
・『魔法-重力場』
重力場を操作する。
・『魔法-抽出』
一定範囲にある分子または原子を抽出する。
・『魔法-拡散』
一定範囲にある分子または原子を拡散する。
・『魔法-圧縮』
一定範囲を力場によって圧縮する。
・『格納(ハーレム)』
パートナーとなる異性を己の夢の中に格納する。
条件を満たすと『格納(共有)』を使えるようになる。
・『格納(共有)』
『格納(ハーレム)』で格納したパートナーとアイテムを共有する。
「使っていないのは、魔法系のスキルオーブで11個になるかな。『格納(ハーレム)』ほかの物よりレアみたいで、在庫はないよ。あっても、おそらく緑にはもう使えなくなっていると思う。」
「淡く光っていて綺麗なのね。あっ、触ったら消えて何か暖かいものが流れ込んでくる。」
「取得済みのスキルのスキルオーブ以外は、触ると使われてしまうみたいだ。もともとレアなうえに、第三者に物証を提供するのが困難で、効果が分かりにくい。」
緑は面白がって、次々とスキルオーブを使っていった。
「創作物のように『ファイヤーボール』とか『ファイヤーランス』とかすぐに魔法が使えるわけじゃないのね。ちょっと残念。」
「そうでもないぞ。俺の場合、早期に『身体防御』や『身体強化』が使えるようになったから、ダンジョンから生還できたと思う。『生命力操作』の治癒能力も重要だ。」
「それで、どう使うの?」
「今、何か暖かいものが流れ込んでくると言っていたけれど、それが『魔力感知』で感じた魔力みたいだ。それを体に循環させてイメージすれば、『身体防御』や『身体強化』、『生命力操作』による治癒が使えるみたい。他には、コーヒーカップの中身を意識して魔力で温めるイメージをすれば、温め直すことができる。それ以上は試していないかな。」
緑は、手を握ったり開いたりしながら首をかしげている。
「なんだか難しそうね。話題にならないのもわかる気がする。」
「両手をこっちに出してくれる?新陳代謝の向上をやってみるよ。」
緑が差し出してきた手を握ってやり、魔力を流して、体を活性化させて美しくなるイメージをしてやった。緑の全身が淡く光った。
「暖かい……これがあなたの魔力なのね。なんかポカポカしてきた。いいわねえ。体から嫌なものが出ていく感じがする。」
緑は恍惚とした表情をしていたが、しばらくすると緑のお腹がギュルギュルッとかわいい音を鳴らした。汗をかき始めた緑は、何かもじもじして慌てだした。
「直人、ちょっと待って、何か来ちゃう。やりすぎだから、止めて。」
緑は俺の手を振り払うと、乱暴に部屋の外に出ていった。緑の気配を追ってみるとお花摘みに駆け込んだようだった。そこから出てきたと思ったら、家に帰ってしまった。緑が怒っているのを感じて、30分ぐらい反省していたら、急に緑の機嫌が良くなったのを感じて数分すると戻ってきた。
緑は着替えていた。上気した感じからすると風呂にでも入ってきたのだろう。俺が目を見張ったのは、肌の透明感が増して艶々しており、髪の艶も増して、それだけでなく全体がどこかすっきりして、エステのフルコースを受けて垢抜けたような印象を受けたからである。
「綺麗だ。」
見惚れて呆けていたら、判決が下りた。
「直人、言うことはそれだけなの? とっても気持ち良かったのだけれど、その後に、脂汗でベトベトにはなるは、お花摘みに行きたくなるは、大変だった。」
「ごめん。わかりやすいように魔力多めで、ちょっと強めにやった。」
「まあ、あなたの様子を見ても、ひどい目にあった甲斐はあったようね。ところで、悪意が無かったのは分かっているけれど、このまま、ただで済むとは思っていないわよね? 手を出しなさい。」
俺は、当然のように緑に仕返しをされて、彼女と同様にトイレに行った後に風呂に入ることになった。
風呂から戻ったら、緑は何か納得しているようだった。
「直人だって、多少はましになったじゃない。あっポツンとあったニキビが治っているね。」
「何事もやりすぎは良くないね。自分にかけた時には、これほどの結果ではなかったのになあ。」
「また私を実験台にして手加減なしでやるから、そういう目にも合うの。」
「それより緑は魔力度がだいぶ下がっているけれど大丈夫なの?」
「ちょっと怠い。これって鍛えれば改善するのかな。あなたと同じぐらいの魔力を使ったはずなのに、あなたには余裕があって私にはないということは、魔力量が違うってことでしょう。」
「『ステータス』には、全体の容量に対する割合しか表示が無いからなあ。」
「『魔力感知』で絶対量がわかるのにね。」
「想定されている使い方が違うのかもしれない。慣れれば済む話だと思うけれど。」
「試すにしても、回復系と、温め直しと冷やし直しぐらいかな。」
「うまく使えば、便利そうね。」
その後二人で読書に勤しんでいたら、学校から5月8日からリモート授業で授業を再開することを通知するメールが届いた。
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