第2話 ステータスメニューとダンジョンからの脱出

 一度、RPGのゲーム世界的な状況だと認識してしまうと、脳裏に浮かんだタブレット端末の画面を操作して情報を取得できるようになった。

 『ステータスメニュー』のトップメニューには、『ステータス』・『特殊スキル』・『スキルランク確認』・『格納(アイテム)』が並んでいた。

 『ステータス』を見ると、『肉体疲労度』・『精神疲労度』・『魔力度』・『空腹度』・『睡眠欲求度』・『性的欲求度』といったものが100分率のゲージで表示されていた。一方でゲーム的な器用値、敏捷値、知力値、筋力値、生命力、精神力といったものは表示されていなかった。

 『特殊スキル』には、『鑑定』・『格納(アイテム)』・『身体防御』・『身体強化』・『生命力感知』・『生命力操作』・『空間感知』・『空間操作』・『魔力感知』・『魔力操作』・『暗視』・『視力強化』が並んでいた。詳細を表示しようとすると『世界の叡智に接続していないため表示できません』となっている。おそらく、暗いところでの視覚が強化されてよく見えるようになったのは『暗視』の効能で、遠くのものがはっきり見えるようになったのは『視力強化』の効能だろう。

 『スキルランク確認』についても、『世界の叡智に接続していないため表示できません』となっていた。名称的に、スキルのランクを確認するのに『世界の叡智』に接続して問い合わせる必要があるようだ。『世界の叡智』とは何なのだろうか?

 『格納(アイテム)』に注目すると、財布、携帯電話、チョコバー、シリアルバー、スポーツドリンクなど、失くしてしまったと思っていたものが列挙されていた。池に落ちた時に何かを踏み潰した感触があったが、その時にスキルを得て、格納したという扱いであるようだ。さっそく、シリアルバーとスポーツドリンクを呼び出すと、アイテムリストから消えて、右手にシリアルバーが、左手にスポーツドリンクのペットボトルが出現した。もちろん、コンビニで俺が購入した銘柄の商品である。保管したいと念じると、それらが消えて再びリストに掲載された。携帯電話を出してみたが、圏外なうえに、時計の時刻が狂っていた。コンビニから出て2時間以上は経っているはずなのに0時からほとんど時計の時刻が進んでいなかった。スポーツドリンクは冷たいままであったし、いわゆる時間停止をするアイテムボックスであるようだ。


 残っているスキルオーブを見ると、取得済みの特殊スキルに対応する物には、何のスキルオーブか分かるようになっていた。突いても弾けないので、念のため格納しておく。残りのスキルオーブを突いていくと、『魔法-加速』・『魔法-減速』・『魔法-励起』・『魔法-減衰』・『魔法-加熱』・『魔法-冷却』・『魔法-電磁場』・『魔法-重力場』・『魔法-抽出』・『魔法-圧縮』・『魔法-拡散』の項目が特殊スキルに追加された。最後に残っていた他の2倍以上の直径があるスキルオーブを突くと、『格納(ハーレム)』が追加された。もっとも、詳細説明は例によって『世界の叡智に接続していないため表示できません』となっているので、深く考えないことにする。

 物は試しと、気休めに部活の合宿でやらされた疲労拡散の気功術をやってみる。息を吸いながら大地から力を吸い上げて、吸い上げた力を体内に巡らせ練り上げ、体表から疲労とともに拡散し、余剰分を息を吐きながら頭頂から吐き出す。これをゆっくりと何回か繰り返す。中学の時は迷信だと思っていたのだが、現在やってみると効果があったようで、筋肉に溜まっただるさが抜けるとともに、服が急速に乾き始めた。ステータスを見ると、肉体疲労度と魔力度が下がっていた。魔力を使って肉体の疲労を回復し、ついでに服に残っていた余計な水分を拡散したということなのだろう。実際にスキルで何かできそうだということは分かった。何より服が乾いてくれたことはありがたい。


 空腹を覚えたので、シリアルバー取り出して齧り、スポーツドリンクで流し込んだ。もともとゲームを長時間ノンストップでやるために、食事時間短縮のために購入したものなので不健康なのだが、手持ちがこれしかないので仕方ない。明るくなるまでのんびりすることにする。もっとも、眠気を感じるたびに毛玉の集団に襲われて、撃退するというのを3回ほど繰り返すことになった。


 4回目の毛玉の群れの襲撃を撃退したところで、周囲がだいぶ明るくなってきていた。俺が落ちた池に流れ込んでいる水路があって、その水路を遡っていくとひときわ大きな黒い塊に見えていたものの方につながっているように見えた。大きな黒い塊は、目測で高さが50m近い大きな大木で、その下に鳥居が見えた。鳥居という人工物に何かヒントがあるのではないかと考え、水路沿いにそちらに移動することにした。

 水路沿いに歩いていくと、けっこういろいろな存在がいることが分かった。

 幅2mほどの水路には透き通ったきれいな水が流れていた。大型の鯉や鯰に、鮎や鱒に似た魚や、小さな小魚もいた。浅瀬には亀や蟹やザリガニの類がいた。

 草原には、鼠、兎、狐といったものがそれぞれ大小複数の種類がいるようだ。動物の密度が高いようで、少し離れたところによく見かけた。それ以外には、夜間に襲ってきた毛玉がいるが、大地から魔力を吸い上げてその力を威嚇として放ってやると、それらは俺から逃げていった。


 面白いものも拾った。何かに呼ばれたような気がして、周囲を警戒していたら、木刀が地面から生えていた。杖の代わりにでもと掴んでみると、体から魔力が吸いだされるとともに、プチッと根が切れる感触がして『刀樹をテイムしました』の通知が頭に浮かんだ。全長が1mぐらいで、鍔の部分が瘤になっていて中央に宝石のようなものが見える。上身(かみ)が80cmほどあり、身幅が4cm近くあって、棟の部分が緑色の樹皮で包まれていた。木材というより鉄材という感じの重さだったが試しに振ってみると、手に吸い付いて、振りやすく、風切り音が心地良かった。水路の土手に生えている萱のような植物を標的に魔力を込めて横に薙いでやれば面白いように切れた。見た目は木刀で刃はついていないのだが、面白い。鑑定してみると『刀樹の木刀』と表示され、アイテムとして格納できたので、護身用に格納して持って行くことにした。捨てていこうとすると刺されそうな意思を木刀から感じたのは気のせいだと思っておく。


 俺が落ちた池から1時間以上は歩いただろうか、鳥居に近づくと、鳥居の近くにハンドマイクを持った警察官がいた。他にも人影がいくつかあり、警察官が呼び集めているようだった。

「おーい、そこの人。聞こえていたらこちらに来なさい。」

「行方不明者の捜索に関するご協力をお願いします。」

などと、繰り返していた。

 近づいていくと、別の警察官が現れて腕をがっしりと掴まれた。

「あなたの氏名と住所、現在の状況を説明してください。」

「相場直人です。市立飯縄高校の1年生です。」

「住所と氏名などをこれに書いてくれるかい。」

「はい。ここは何処なんですか?」

 書いていると、質問された。

「それは分からないのだよ。ダンジョンのようなものに捕らえられて、行方不明者が大量に発生している。すぐに外に出られるから、君の状況を説明してくれるかい。」

「深夜に高校の近くにあるコンビニで買い物して帰ろうとしたら、いきなり暗闇の池に落ちたのです。明るくなってから、この鳥居が遠くから見えたので、ここに来ました。」

「何かに襲われなかったか?」

「バスケットボールぐらいの大きさの毛玉のモンスターに襲われました。接触されたままだと体力か何かを吸い取られる感じがしましたので、群がってきたのを片端から何十匹も近くにあった石に叩きつけて倒しました。倒してしまうと消えてしまうのがモンスターらしいところです。」

「ここに来るまでの間に他に誰かを目撃しなかったか?」

「いいえ、誰も目撃していません。」

「さあ、よく生きて帰って来られた。もう少しの辛抱だ。ついてきなさい。」

 鳥居の向こう側には直径20mぐらいの円墳があって、石室の入り口が剥き出しになっていた。その石室の中に入っていった。見た目以上に奥行きがあるなと思ったら浮遊感を感じて、もうしばらく行くと出口が見えてきた。出口の外にも鳥居があった。その脇に式典なんかで使われるテントがあって、野戦病院のようになっていた。簡易ベッドに寝かされている人も数人見える。医師による簡単な問診による健康チェックがあった。弁当とお茶のペットボトルを渡されて、解放された。念のため数日は自宅待機して、何かあったら連絡するようにと連絡先のメモを渡されたので帰宅することにする。


 12時間ぶりに帰宅した自宅で、夜更けに出かけるからそんな目に合うのだと、母親に泣かれて懇々と説教されてのは言うまでもない。どうやら、自分が思っている以上に親から大切にされていて、親に心配をかけていたようだ。大変申し訳ない。

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