3話 訴訟状

※※※※※※※※※ 1330年12月 ※※※※※※※※※



元捕虜達は開拓民としてそれぞれの開拓地へ、武士達は寺子屋へ放り込まれてから一月が経った。

開拓民達は、それぞれの地でやっていく目途が立ったため、家族を呼び寄せたい旨を九郎へ伝えてきていた。

九郎としても人が増えることは歓迎しているので、希望している開拓民を一度家族の元に戻し、家族の同意を得たうえで戻ってくる手配をすることとした。

武士の中でも家に埋もれている兄弟や従兄弟がいるものはその者達へ手紙を出してもらい、勧誘はしないが、仕事があることを伝えてもらっている。


手配が済み開拓民の一部が家族のもとへ帰っていく。

家族の合意が取れた場合は1週間後に戻ってくることになっている。

もし戻ってこなかったとしてもこの一月で行った作業は無駄にならないように考えるつもりだ。



・・・・・



1週間たって大半の家族が戻ってきた。

半分も戻ってくればいいやと思っていたので大成功だと思う。

戻ってこれなかった者は諦めよう。というか複数家族を引き連れて戻って来ている者もいるため、戻ってこれなかった者の田んぼを有効活用することとした。

まだ開拓者が足りないのだが、どうしようもできないので今は放置だ。

やれることから頑張ろう。


武士も5人ほど増えた。いずれも三男以下の者であり、家を継げない者達だ。

まず寺子屋へ放り込んで鍛えるつもりでいる。



・・・・・


半月ほど後、寒くなってきたころ流民が20名ほどぞろぞろとやってきた。

話しを聞いたところ、菊池領へ行けば飯が食べられると聞いてきたそうだ。

開拓するなら飯を保証するといったところ、それで良いから居させてほしいそうだ。

なんでも野分の影響と一揆の後始末で農村への税の取り立てが激しくなり暮らせなくなったところに噂を聞いて逃げてきたそうだ。

僕は、親父殿からその話しを聞かされたが、親父殿と共謀して『農民から話を聞いてはいない』『流民を保護して開拓民としてやとっただけ』ということで開拓民を雇ったということで領内の意思を統一することで流民達にも合意を取った。

うち以外で戸籍管理をしっかりしているところはないだろうから、表向き問題ないようにしておけば何とかなると思う。




※※※※※※※※※ 1331年1月 ※※※※※※※※※



慌ただしい年末年始を駆け抜け、新年が始まった。

今年の春に元弘の乱が始まるはず。今上はすでに反乱準備をしているかもしれないけどね。

佐渡島から一緒に来た大膳坊賢栄には英彦山の修験者を通して京や鎌倉の情報を探ってもらっているが遠すぎるのでタイムラグがひどい。

2月遅れの情報がもらえるだけましなのかもしれないが・・・


そうこうしていると1月も終わろうという時に親父殿から呼び出しを受けた。



「親父殿、お呼びとお聞きし参上しました。」


「おう、よく来たな。九郎。」


「手紙には「来い。」としか書いていませんでしたが、何があったのですか?」


「ちょっと面倒なことになってな。九郎の知恵が借りたい。」


「私の知恵ですか・・・」


「規矩高政、少弐頼尚、北条英時よりこのような手紙が来た。」


「はぁ、拝見します。」


僕は、3人からの手紙をそれぞれ読んだ。

規矩高政、少弐頼尚からは、住民を返せという苦情の手紙、北条英時様からは捕虜はともかくその後はやりすぎだ。

九郎を説明のため鎮西探題へ寄越せ。というものであった。

2月の中頃に鎮西探題へ出向く必要があるようだ。


やりすぎたかなぁ。


僕がぼそっと呟くと親父殿が状況を説明してくれた。


「九郎が捕虜を一度返したじゃないか。その時にその者達が本埜村で九郎をえらく褒めており、菊池郡、八代郡の豊かさも吹聴して回っていたみたいで、それを聞いた村人達が冬に食べ物がなくなり、飢え死にするよりはと逃散して流民となり肥後国を目指したらしいのじゃ。

特に今年は野分の影響で食べる物が少ない家も多いと聞くし、開拓をすれば食べ物を恵んでもらえる菊池郡が夢の国に見えるらしいのじゃ。

そう言った訳で捕虜の家族が来た後にも100名以上の流民が両土地から流れ込んでおる。」


「さすがにそれはやりすぎじゃないですか。」


「流民として来る者は拒まないと決めておるではないか。流民は一部八代郡にも送っておる。知っているだろう。」


「確かに流民が増えたなぁとは思っていましたが・・・ 」


「お前に鎮西探題への対応は任せたぞ。」


そう言うと親父殿はそそくさと広間を出て行った。


「ちょっと親父殿。あ~あ 行っちゃった。」


はぁ、これは親父殿に嵌められたかな。どうやって切り抜けよう。

戻って対策を練ってから鎮西探題に出向こう。

僕はトボトボと領地に戻るのであった。



※※※※※※※※※ 八代群 九郎の館 ※※※※※※※※※



広間に僕と頼隆兄上、隈部時春、茜、秋がいる。城隆俊と藤は帆船の試運転、阿新丸は雪のところへ領主のサポート兼勉強に行っている。

あいつは雪と一緒に隈部の爺さんに領主修行で扱かれているらしいけど、遊びに行っているだけな気もする。

困った時に恋に現を抜かすなんて、全く友達思いでない奴だ。

それはともかくどうしよう。

皆さん、いい案ありませんか?


「流民を受け入れただけでどこから来たのかも分からない。で押し通すしかないですよ。」


茜さん、それはそうだけど押し通す以外にも案があれば選択の幅が広がるではないでしょうか。


「逃げたという農民の戸籍を貰って調査するというのはどうでしょう。」


秋さん、確かに。戸籍なんてまともに作っていなさそうだしね。


「いえいえ。戸籍は人頭税の根拠となるため人数だけは把握しているはずだ。頻繁に更新しているとは聞かないので、どこまで正確化は分からぬが、ある程度は整備されている。」


う~ん、さすがは頼隆兄上。意外と戸籍はあるのか。でもこちらに来るときに偽名を使ってたら分からないよね。


「九郎様も意識されていなかったように逃散した農民達が偽名まで考えていないのではないでしょうか。」


隈部時春の言うことにも一理ある。

仕方がない。出たとこ勝負になってしまうけど、基本路線は流民を受け入れただけ、逃散した農民を受け入れてはいない。

農民達が逃散したと言っているが、どこの誰がいなくなっているのか把握しているのか。夜盗になっているのではないのか。

といった辺りで反論してみよう。


会議は続いたが良い案がこれ以上の出なかったのでお開きとした。


良い案が浮かばないまま、鎮西探題へ向かうこととなった。

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