2話 捕虜
※※※※※※※※※ 菊池城 ※※※※※※※※※
僕と頼隆兄上は親父殿に呼び出され、菊池城へとやってきた。
これは従軍の褒美がもらえるのかな。
大広間へと向かいながら僕は期待に胸を膨らませるのであった。
「よう来たな。こっちへ座れ。」
大広間につくと上座に親父殿と武重兄上が座っている。
重臣たちはいないの?と思ったが、親父殿の前に座るように言われたので、部屋の中央より親父殿よりの場所に座った。
「九郎、頼隆、この度は大儀であった。」
「「ははっ」」
僕達は、坐礼の姿勢をとった。
「それでな九郎。ちと困ったことが起きてな。」
「なんでしょう?」
「先月、玉名郡の大野氏の求めで援軍に行っただろう。あれで捕まえた捕虜から情報によると肥後守護の規矩高政と肥前守護の少弐頼尚の村の者だということが分かったのだ。」
「では、その2名に対して捕虜の買取と戦費の保証を要求しましょう。」
「既に行っておる。じゃが勝手にやったことと言って払う気がないのじゃ。」
「鎮西探題へ訴え出ては。」
「それもやっておるが、今一つ反応が悪くての。さすがに肥前守護と肥後守護を敵に回して戦をするわけにもいかぬが、このままでは家臣に示しがつかぬ。そこで九郎にも北条英時様へ訴えてほしいのだ。」
「う~ん。何ができるかわかりませんがやってみましょう。親父殿に確認ですが、何かしらの利益が取れればよいのですよね。」
「金が取れれば一番良いが、無理なら他の利益でも良い。」
「その言葉を忘れないでくださいね。」
※※※※※※※※※ 1週間後 鎮西探題 ※※※※※※※※※
僕は、北条英時様へアポイントを取り、大宰府にある鎮西探題へと向かった。
僕が広間に通されると北条英時様一人がそこに座っていた。
「九郎、よく来たな。」
「北条英時様、お久しぶりでございます。」
「九郎は、毎回問題を起こすなぁ。」
「問題児みたいに言わないでください。皆が困った時に頼ってくるのです。私が問題を起こしているのではありません。」
「お主が首を突っ込んでいるのだろう。」
「お戯れを。そこまで言われるのであれば今回の件は解決する腹積もりがあるのでございますか。」
「ない。義息子の規矩高政も少弐頼尚も今回の件は民が勝手にやったことで地主にはかかわりのないことと言い張っておる。お主の父、菊池武時は、迷惑を掛けられたのだから戦費を払えといっており、両者の主張は平行線をたどっている。」
「捕虜については何と言われているのでしょう。」
「少弐頼尚も高政も菊池の好きにすればよいと言っておる。」
「そうですか。では御二人に捕虜の処遇については一切関知しない旨の証文を書いていただく事は出来ますでしょうか。」
「その位なら書かせよう。菊池武時にも戦費の保証は必要ない旨の証文を書いてもらうことになるが良いかな。」
「承りました。」
「では早速手配しよう。九郎、何を考えているかはわからぬが、あまり両名をいじめる出ないぞ。」
北条英時様はそういうとカラカラと笑いながら広間を後にするのであった。
※※※※※※※※※ 菊池城 ※※※※※※※※※
九郎は、菊池武時の私室に武時と2人で向かい合って座っている。
「九郎、で首尾はどうだ。」
「はい、金銭の保証はなし、捕虜は我が方で好きにしてよい。となりました。
また、このことについて証文をお互いにしたためることとしています。」
「大分、不利な条件ではないか。何か策はあるのか。」
「いえ、菊池郡や八代郡は人手不足で流民もほとんどいません。捕虜も元は農民や武士なのでこちらで開墾に従事してもらおうかと。
また、捕虜の中には家族がいるものもいるでしょうから、生活が安定したら家族を呼び寄せることができるようにしてあげようかと思っています。」
「確かにな。治水により開墾できる土地が増えたが人がおらずに開墾できていないからな。小作人として働かせようというわけか。」
「いえ、農民として扱います。小作人は地主に搾取されながら働くため、逃げ出さないように見張る必要がありますが、農民であれば自分の農地を自分で耕し、税を納めた残りを自分のものとすることができます。
また、私達の領地は、治水と農地改革により米の出来が他より良く、税も1割程他の領地より安い。
他の領地に噂が広がれば食うに困った農民がこの地へ流れてくるでしょう。その為の撒餌として今回の捕虜を使います。」
「また、壮大な計画を立てたものだな。分かった。今回の件は全て九郎に任せる。捕虜についても九郎に渡すことにしよう。すぐに取り掛かれ。」
「承知しました。」
・・・ 捕虜収容所 ・・・
僕は捕えられている30名の捕虜の前にいる。
まずは農民出身者を集めてもらったので痩せている者が多いように見える。
「君達の処遇が決まった。少弐頼尚、規矩高政両名ともお前達が勝手にやったことにであり、捕虜の買取りをすることはないそうだ。」
僕が宣言すると捕虜達がざわざわしだした。想定通り動揺しているようだ。
「こちらで裁定してよいということであるので裁定を下す。
君達には2つの道を用意しよう。
まず一つ目は、肥後国内の開拓地で開拓作業を行うことだ。条件として来年秋までの食料と畑仕事をするための道具、肥料の提供、住む所の提供だ。
家族がいるものは家族分も食料を提供するので家族を呼び寄せてもよい。
2つ目は、奴隷として博多へ売りに出されることだ。我々と共に歩きたくない場合はこちらとなる。
どちらが良いかは、これから開拓地候補の一つを見に行くのでそれから決めるとよい。」
ざわざわしている捕虜達を引き連れ、開拓地候補を見に行くのであった。
開拓地候補は、川の側ではあるがここ数年の野分でも被害が発生しなかった場所である。
ただ、開墾する者がいないため草が生え放題となっている。ここを開墾できれば10反は作れそうだ。
農民出身の捕虜達は思ったより条件が良かったことに吃驚しているみたいだ。
何か聞きたそうにそわそわしているが、口に出そうとしてやっぱりやめている様子が見える。
僕は助け船を出すことにした。
「そこの者、言いたいことがあるなら言ってみろ。」
「へぇ。ここの土地は田んぼを作るのによさそうに見えますだ。なんで放置されているのでしょう。ここに来るまでに農民は一杯いたように見えましたし。」
「いい質問だ。答えは簡単で人が足りていないからだ。ここ数年で治水に力を入れたおかげで耕作に適した土地は増えた。
しかし、農民の数は劇的に増えることはないので足りていないのだ。
今ならこの様な耕作に適した場所を開拓地として渡すことができるのだ。」
一人が質問をすると他の者も質問をし始めた。
「来年までの食い物を頂けるそうですが、どのくらいなのでしょうか。」
「そうだなぁ。小次郎、一般的にどのくらいあれば1年もつのか。」
僕は一般的な一年分の食糧の量を小姓の小次郎に聞いた。
「そうですね。大体2俵半でしょうか。」
「そうか。では一人当たり2俵半渡すとしよう。」
僕がそういうとざわめきが大きくなった。
前向きに考えてくれだしたようだ。
「家族を呼んでよいとのことですが、海の向こうから幼い家族を呼ぶことは難しいです。どうにかできませんか。」
「ううん。船を出してやろう。向こうの村に見つかるのはまずいのでどこに船をつけるかは考える必要があるか。」
「私は漁師をやっていましたので船を出していただけるのであれば何とかしましょう。」
ほう、大分前向きに考えてくれるようになったみたいだな。
「質問はもうないか?それでは戻るとしよう。3日以内に回答を出せ。回答がない場合は奴隷として商人に売ることとする。」
僕はそう言うと元の道を歩き出した。
後からの報告によると全員が開拓をすることを選択したみたいだった。
僕は、開拓民達に家を準備し、家族を呼び寄せたい者たちについては城隆俊と藤に船での輸送を検討させるのであった。
・・・・・
残りの数名は、武士であった。
武士といっても武士の次男や三男などで家を継ぐこともできず、外に働きに出る場所もなく燻っていた者ばかりであった。
そのために九郎が勧誘するとホイホイと従うことになった。
この者達は、まず寺子屋へ放り込まれ読み書きと九郎への忠誠心を植え付けてから工事班や領地の警護に回すこととした。
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