4章
1話 八代帰還
※※※※※※※※※ 1330年10月下旬 八代港 ※※※※※※※※※
長かった船旅も終わり、やっと八代港へ降り立った。
「八代よ。僕は帰ってきた。」
「九郎様、何をぶつぶつ言われているのですか。」
「いやぁ。やっと地元に帰ってきたなぁと思ってさ。八代群を出発してから色々ありすぎたから。」
「確かに・・・。(九郎様が首を突っ込むせいで大変だった気がしますが・・・)」
「秋 どうしたの。」
僕は不穏な空気を感じておそるおそる秋に問いかけた。
「・・・いえ。そういえば、八代港も建物がだいぶ完成していますね。あそこの建物が完成していますし、こちらでは建物を新しく建て始めていますよ。」
秋が露骨に話をそらした気がするが、話を戻すことで藪蛇になっても困るので僕は話題に乗っかることにした。
「出発前は無かった屋台が幾つかできているね。僕が援助して作った甘味処も繁盛しているみたい。良かった。」
水飴を普及させるために僕がオーナーをしている甘味処になぜか行列ができている。いくら僕が補助してほぼ原価で販売しているからっていっても、庶民のプチ贅沢くらいの価格帯だったと思うんだけどな。
後から茜にでも店の状況を聞いてみようっと。
「ほう。甘味処か。今度俺も連れて行ってくれよ。」
船から降りてきた阿新丸が興味深そうに店を眺めながら言ってきた。
後ろには大膳坊賢栄も控えている。
「後日な。まずは僕の屋敷に戻ってからだよ。仕事たまっているんだろうなぁ。なぁ秋、このまま兄上達に丸投げして逃げちゃおうか。」
「あははは、そんなことを言っていると茜が迎えに来て連行されますよ。私達が港に着いたことは既にお屋敷へ連絡が行っているでしょうから。」
「そうだな。せめてゆっくりと町を見物しながら戻るとするか。」
そんなことを言いながら、新しい町を見物しながら進んでいると前方から馬が数頭駆け寄ってきているのが見えた。
先頭の馬に女の子が乗っており「九郎様~」と大声をあげている。
「秋が余計なことを言うから茜が迎えに来ちゃったじゃないか。」
「ひっど~い。茜にチクっちゃおう。」
「やめて。」
僕達がバカなことを言い合っている間に茜が目の前で馬を止め、降りてきた。
「九郎様、秋、おかえりなさい。ご無事でなによりです。」
「ただいま、茜。皆も変わりはない?慌てて迎えに来たように見えたけどどうしたの?」
「そうでした。竹崎惟氏様が屋敷に来られています。急いでお戻りください。」
「お爺様が来ているって。なんだろう。急いで戻るか。僕は先に戻るけど秋は阿新丸達に八代をゆっくり案内してあげてから屋敷に向かって。」
「承知しました。」
僕は、茜の用意した馬にまたがり屋敷へ急ぐのであった。
・・・ 九郎の屋敷 ・・・
茜に急かされて屋敷に戻ってきた。
戻ってきてしまった。
お爺様が来ているってことは何か厄介ごとだろうなぁ。
茜か兄上達にぶん投げれないかなぁ。
そんなことを考えているうちに広間へ到着した。
「お爺様、ただいま戻りました。」
「おぉ九郎、無事に戻ってこれたようで何よりじゃ。京はどうだったかの。」
「京は色々とおも「竹崎様、九郎様に緊急の用があるのではなかったのですか。」
「そうじゃったそうじゃった。菊池武時様からの依頼での、玉名郡の大野氏からの救援依頼を手伝ってほしいそうじゃ。」
「わざわざ八代郡から遠征しなくても、近くの菊池郡に親父殿の兵がいるじゃないですか。」
「武時様は、陸から押し寄せる一揆勢に対応するようじゃが、海からも海賊どもが襲撃にきておるようじゃ。九郎には海から押し寄せる者共を撃退してほしいと依頼が来ておる。肥後の武士は陸では強いが海はからっきしじゃからのう。」
「僕も海戦はしたことありませんよ。」
「松浦党の一部を取り込んでおろう。祖奴らに任せられんか。」
「確かに松浦党の氏族である佐々氏清に頼めば何とかなるかもしれませんが。対象範囲が広すぎて対応しきれるとは思えませんが・・・」
「武時様からは玉名郡の防衛依頼じゃからそのあたりを頼む。本当は九郎からの土産話を聞きたいところじゃが収穫時期で仕事が溜まっておる。後は任せたぞ。」
「あっ お爺様。僕も・・・」
行ってしまった。僕も仕事溜まっているのは一緒なんだけどなぁ。
茜 そういえば兄上達や城隆俊はどこにいるの?
帆船の製造状況やクロスボウの改造状況を聞きたいんだけど。
え、葦北郡からも救援依頼が来てそっちに行っているって。困るなぁ。
呼び戻せない?
もう手紙は出した。それなら明日中には返答あるかな。
それまではのんびりしようっと。
どんっ
なにこれ?僕の決裁が必要な書類?茜の決裁で完了にしちゃっていいよ。
え、急ぎ分だけ。他にも一杯あるけど持ってこようかって。
いいよ。これを頑張って片付けるよ。
結局、夜まで書類整理にかかりましたとさ。とほほほほ
※※※※※※※※※ 翌日 ※※※※※※※※※
頼隆兄上と城隆俊が遠征から戻ってきた。
報告を聞いたがうまく纏まった様だ。
兵達もほぼ無傷で帰ってきたが、疲れが残っていそうだったので八代郡の居残り組と交代し、八代郡の警備に残ることになった。
頼隆兄上が戻ってきたので、海軍を頼隆兄上に任せようとしたが、頼隆兄上は船酔いするらしく断られてしまった。
頼隆兄上は、一部の兵を率いて飽田郡に兵糧の補給基地を構築してもらうこととした。
地頭との折衝も頼隆兄上がやってくれるらしい。そんなに船に乗りたくないのかな。
僕は仕方なく城隆俊と秋と共に玉名沖合に帆船4隻と帆船に曳航された箱舟多数で向かうことにした。
補給基地に箱舟を半分程残しておくために、宇土の港へ向かうと遠目から兄上達が何者かと戦っているように見える。
急いで向かうと港に10隻ほどの小型船があり、船から陸へ攻め込もうとしているところであった。
「頼隆兄上を援護するぞ。」
僕がそう言うと、城隆俊が帆船の腹を港に見せるように船に指示した。
どうするのだろう?と見ていると船の腹の3つの窓が開き、「撃てっ」という掛け声とともに中からバリスタが発射された。
4隻の船から発射された合計12発の矢は2/3ほど敵の小型船に命中し、大きな水しぶきを上げて船を破壊していった。
破壊の程度はまちまちだが、命中した船のうち半分ほどは浸水しているようで船乗り達が海へ逃げている様子が見える。
無事だった船も何が起こったのか分からないようで、船員が右往左往しているように見える。
「おおっ 凄い。」
僕が感心していると横にいた城隆俊が、
「あれが新型バリスタです。飛距離は伸びていませんが、射出角度を変更出来るようにし、角度を調整し発射することで、命中率が大幅に上がりました。
ただ、今日みたいな波が穏やかな日は良いですが、荒れた日には全く当たりませんし、一斉射撃をすると揺れが更に酷くなります。
そのあたりは今後の課題です。」
「いやいや、十分だよ。少しでも荒れていると海には出撃したくないよね。」
「まぁそうですね。ですが必要となるかもしれませんので訓練はしておこうと思います。」
城隆俊は何を目指しているのかな。日本で海戦ってそんなにないよね。
源平合戦の屋島と壇ノ浦の戦いくらい?
僕達がのんびり話しているうちに2撃目の矢が発射され、敵船が半分以下になっている。
逃げようとした船もいたようだが、追撃を受けて次々に破壊されているようだ。
陸のほうも船がやられたことで混乱した敵を頼隆兄上達が討ち取っている。
勝負はもうついたかな。
溺れている兵を救出するよう周りの船に指示を出し、九郎は陸に向かうのであった。
※※※※※※※※※ 有明海上 ※※※※※※※※※
頼隆兄上へ捕虜を引き渡し、尋問などは任せることにし、僕と城隆俊は、救援依頼の来ている玉名郡へ向かうことにした。
玉名郡へ着いたが特に戦船はなく、平和な状態だったので、先に出発している親父殿の軍へ伝令を出し、状況を確認することとした。
・・・・・
伝令が手紙を携えて戻ってきた。
手紙は菊池武重兄上からで手紙によると親父殿は菊池郡の北側の警戒をしており、援軍には武重兄上が大将として来ているそうだ。
武重兄上からは、10隻ほどの戦船がちょくちょくちょっかいを出しに来ているので撃退してくれとのことであった。
それって宇土港で退治した海賊じゃないかなぁ。
宇土港の頼隆兄上に捕虜にした海賊が玉名郡を襲っていた海賊と同じか確認してもらうよう手紙を出そうっと。
頼隆兄上からの手紙では、結果として同じ海賊が有明海で暴れまわっていただけであったようだ。
あの海賊どもは有明海を挟んで反対側の藤津郡から食料を求めてきていたらしい。
どこもここも食糧難なんだな。
船の上で過ごすこと半月、何事もなく過ぎ、武重兄上は一揆勢を駆逐したとの連絡が入った。
後の処理は親父殿と武重兄上に任せることになったので、宇土港経由で八代港に帰ることになった。
そして何事もなく半月が過ぎた。
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