幕間 弩弓
※※※※※※※※※ 古麓城 ※※※※※※※※※
完成したばかりの古麓城の表御殿に城隆俊と藤が座って周りを見回していた。
「城隆俊様。やっと完成しましたねえ。」
「そうだな、藤。石垣等、まだ作業途中の個所もあるが何とか大まかには終わったな。今月中には砦から秘するべき開発施設をこちらに移す作業も始まる。
もうひと頑張りといったところだな。」
「九郎様は、今頃 佐渡島へ着いた頃ですかねぇ。」
「そうだな。秋からの手紙には9月に佐渡島へ出立するとあったからもう着いたであろう。師走前には戻られるだろう。」
「九郎様。無事に戻られるかなぁ。九郎様は争いごとを好まないのに争いごとを呼び込むから。」
「確かに。京でも寺社と揉めたそうだからな。ただ九郎様は運が良いのと機転が利くのでうまく切り抜けるであろう。」
「そうですね。そう言えば、九郎様の命でクロスボウを改良している者達から試作品ができたとの連絡がありました。見に行かれますか?」
「そうか。九郎様が要望されていた弩弓かな。九郎様から開発者がせっつかれていた弓だ。どの様なものか気になるな。行こう。」
そういうと2人は連れ立って出来たばかりの開発施設を訪れるのであった。
・・・・・
【クロスボウ】日本で廃れた武器。廃れた原因は、和弓に比べて製造、維持にコストがかかること、馬上弓が武士の作法となったことからわざわざ農民で弓兵を作らなくなったことだと言われている。
九郎は、現代知識を生かし、作業班に遠距離攻撃手段を持たせるため、クロスボウの改造に力を入れていた。
そんなクロスボウの実験場所に城隆俊と藤がやってきた。
さっそく開発責任者が試作品を持ってきて説明を始めた。
「これがクロスボウを改良したものか。手で持ち運ぶには少し大きいのではないか。」
「城様、これはこのように戦地まではバラバラにして運びます。戦地についたときに組み立てて使うものです。」
「わざわざ組み立てて使うのか。手間がかかるな。」
「手間はかかりますが、威力は今までのクロスボウの倍以上あります。また、統一した様式となっていますので、破損した場合でもその部分のみ取り替えることで再使用できるようになっております。」
「威力が上がっているのか。早速、撃ってみてくれ。」
「はい。」
開発者の一人が組み立てから射撃までを行う。その後に今までのクロスボウを使用して射撃を行う。
確かに今までのクロスボウと比べて威力が上がっているようだ。
「威力は上がっているようだな。ただし、九郎様が求めておられる威力には達していないようだ。もう少し研究が必要だな。」
「はい。これ以上大きくし威力を上げることには成功しておりますが、持ち運びはできなくなってしまいました。そちらもご覧になりますか。」
「うむ。見せてもらおう。」
開発者が大きな車輪のついた板に乗せられたクロスボウを持ってくる。
現代でいうバリスタである。これも九郎からの依頼として車輪とともに作成したようだ。
「これは大きいな。持ち運べるのか?」
「はい。車輪を付けておりますので持ち運ぶことはできます。ただ九郎様が言われたのは、籠城用の強い弓の開発でしたので、遠くまで持ち運ぶことはできません。
また、九郎様からは船に乗せられるように言われていますので、この大きさとしています。」
「ほう。船に乗せるのか。」
「はい。船に複数備え付けることで海戦に強くなるだけでなく、海から陸を攻撃しやすくなります。」
「面白いな。撃ってみてくれ。」
「はい。」
先ほどの開発者とは別の者が出てきてアームを回し、弓を張る。城隆俊もアームを回してみたがそれほど力が要らないようであった。
巻き終わったアームを固定した後、大きな矢をつがえ目標へ発射した。
プシュッ ドガン
目標物を貫いた矢は大きな音を立てて城の壁にめり込んだ。
矢はかろうじて城壁で止まっているが、もう少し強ければ城壁を貫通していただろう。
城隆俊は、大慌てで城壁まで走り、壁の向こう側を確認した。
城壁の上から覗き込んだところ壁の向こう側には人はいなかったようだ。
開発班からこの一帯に近寄らないように指示が出ていたらしい。
藤は知っていたのか、城隆俊の慌てぶりを面白そうに見ている。
「この弓は今の威力が最大か。」
城隆俊は、気を取り直して開発責任者に問いかけた。
「いえ、6割ほどです。最大威力にすると数発しか台と弦が耐えられませんのでこれからの課題となっております。」
開発責任者は、悔しそうに答えた。これで6割か。ただこの調子だとちょくちょく実験して城の壁を壊しそうだ。
そのうちけが人も出るかもしれない。
九郎様から城を預かっている身としてはそれは見逃せない。
「そうか。この弓の実験は、場内で行うと被害が大きいので船で沖に出てから行う様に。
船の責任者には話をしておく。船戦用の弓だと言えば嫌とは言わんだろう」
「承知しました。」
武士であれば長弓を使ったほうが威力はともかく速射性能は高い。
九郎様の作る武器は工作班に持たせるためのものか。
この平和の世にいったい何と戦うつもりなのだろう。
これからの激戦を知らない城隆俊はそう思い首をひねるのだった。
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