幕間 港にて
※※※※※※※※※ 1332年10月下旬 ※※※※※※※※※
今年も野分の季節がやってきた。
今年の野分は肥後の東側から北へ抜けたため風の影響は少なかったが、雨台風であったようで強い雨が数日降ることとなった。
八代郡は、球磨川が一部氾濫したが、想定内の氾濫であったため田圃への被害は少なかった。
その他の肥後国内は、一部氾濫があったものの治水前と比べると被害は軽微であった。
10月頭から始まった稲刈りは、治水によって作付面積が増えたことや豊作だったこともあり、先ほどやっと終わったところだ。
これから冬までに脱穀を終わらせなければならないため、村々では総出で作業を行っている。
そんな中、八代の港にバリスタの洋上での試射実験を終えた城隆俊と藤がいた。
「城様。試験は一応成功とみてよいでしょう。」
「そうだなぁ。成功は成功だが、3台同時に発射すると船があれだけ揺れるのは改善の余地があるかもしれぬ。」
「船の揺れはバリスタだけでは難しいでしょう。船もバリスタの反動に耐えられるようにせねばなりません。」
「そうだな。船大工にも改良指示を出しておくか。ただ、九郎様が戻られないと改良の方向性を決められぬ。そろそろお戻りになられる時期なのだがなぁ。」
「そうですね。早く戻ってきてもらいたいです。」
城隆俊と藤は、八代の港を城へ向かってのんびりと歩き始めた。
周りには店舗が並んでおり、色々な物を売っている。はずれには出店もちらほらありおいしそうな塩饅頭や握り飯を売っているのが見える。
「城様。あそこの茶屋は今評判の饅頭があるそうです。寄ってみませんか。」
「寄ってみるか。」
2人は茶屋へ入り、休憩することにした。
薬草茶と評判の饅頭を頼み、しばし待っていると湯気の立った茶と饅頭が運ばれてきた。
「この饅頭は、水飴を使って餡を甘くしているそうです。その分、値が張りますがおいしいです。」
藤は饅頭を小さく切り取り、口に運びながらそう言った。
「美味いな。ここは九郎様が甘味の研究のために甘味好きを集めて作っている店だからなぁ。九郎様の補助金が入っているからこの値段で出せるが、他では難しかろう。」
「そうですねぇ。ちょっと高いですけど頑張れば庶民でも手が届く値段になっているので、お祝い事とかで良く注文が来るそうですよ。」
「そうなのか。この値でも庶民が買えるとはここも裕福になってきたなぁ。」
「九郎様のおかげですね。私達が八代郡に来たときはここは寂れた漁村でしたから。」
「そうだな。数年でここまで大きくなるとはな。九郎様の統治手腕は素晴らしい。」
「九郎様の考えを形にしていくのは苦労しますけど、きちんと結果が出ますからね。」
「あぁ。氷川に作った水車小屋とかさっき試射したのとかな。形ができると楽しいが作っている時は苦しいよな。」
「そうなんですよ。あるていどの形を作って専門部署に引き渡すまでがとっても大変です。でも水車小屋のおかげで麦や白石を粉にすることが簡単になりました。
九郎様が麦粉を使ってうどんなるものを作ろうって言っているんですよ。戻ってこられたら取り掛かることになると思うのですが、今から楽しみです。」
「うどんかぁ。九郎様がお出かけになる前に作られたお好み焼きも美味しかったから期待が高まるな。」
「そうですよ。もっとも九郎様はそーすがイマイチとか仰っておられましたが私は自然薯の摺りおろしのフワフワした食感が好きですね。」
「自然薯を畑で作れないか茜殿が頑張っているようだがなかなか難しいようだ。この饅頭のように店で売り出すにはまだまだ時が必要だろうな。」
「それは残念です。私は九郎様に拾っていただくまで河原で日々の暮らしで精一杯だったのであの頃ならなんでも食べらた気がしますが、九郎様に美味しいものを教えて頂いているので段々ぜいたくになってきているので今は無理です。」
「そうだな。九郎様に使えるまでは俺も実家で兄貴達の陰で肩身の狭い部屋住みをしていたからなぁ。その時は麦飯と汁か漬物の生活だったな。親父から九郎様の側仕えをしないかと言われたときに承諾していなかったら、まだ部屋住みしていたかと思うとぞっとするよ。」
「あははは。それも厳しいですね。私も今から河原生活に戻れと言われても戻れませんから一緒ですけどね。」
「そろそろ迎えが来る頃だろう。名残惜しいが休憩は終わりだ。九郎様が戻られる前に出来ることは片づけておこう。」
「はい。もうひと頑張りですね。」
城隆俊と藤は饅頭を食べ終わり、店を出た。
迎えを待っていると遠くから忍び衆の男が駆けてきているのが見えた。
その男は、城隆俊の前まで来ると息を切らせたまま話し始めた。
「はぁはぁ。葦北郡の方で一揆の気配があります。こちらに来るかは不明です。」
「なに一揆とな。葦北郡は、水害も出ており、今年の収穫はかなり厳しいと聞く。一揆が食べ物を求めて八代郡を目指す可能性もあるな。今の話、留守居の菊池頼隆様は知っているのか。」
「菊池様のもとには別のものが知らせに行っております。」
「分かった。俺も菊池頼隆様のもとへ向かうとしよう。藤、開発班とともに古麓城へ先に戻れ。」
「分かりました。お気をつけて。」
城隆俊は、馬を手配すると数名の護衛とともに菊池頼隆の元へ向かった。
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