幕間 ご近所トラブル

※※※※※※※※※ 菊池頼隆の屋敷 ※※※※※※※※※



城隆俊が急いで菊池頼隆の屋敷に向かった。


「隆俊。よく来た。ワシにも一報は入っておるが詳しい内容は分かっておるか。」


「いえ、まだです。忍び衆が情報を集めておりますが、まずは留守居の頼隆様に判断を仰ごうかと思い参上しました。」


「そうか。情報が集まるのを待つ間に兵を集めよう。隆俊、そちは球磨川のほとりに防衛陣を構築し、兵を準備せよ。」


「かしこまりました。」



※※※※※※※※※ 防衛陣建築地 ※※※※※※※※※



物見の者が戻ってきて城隆俊へ報告している。


「城隆俊様。前方から10名ほどの集団がこちらに向かってきます。」


「敵か?」


「いえ。女人もいましたので、避難民ではないかと思います。どういたしましょう。」


「避難民であれば俺が行って保護しよう。そこの者達、付いて来い。」



・・・・・



向かってくる集団に近づくとその中から鎧を着た武者が一人、こちらへ向かってきた。


「菊池殿の手のものとお見受けする。我らは田ノ浦村から逃げてきた。匿っていただけまいか。」


「拙は城隆俊。菊池九郎様よりこの地を任されている。まずは休憩できる場所を用意しよう。ただ緊急時につき今からそなたには事情を聞きたいが、よろしいか。」


「承知。姫様のことよろしくお願いいたします。」


・・・・・


保護した者達を避難場所へ送り届けるよう指示し、やってきた菊池頼隆と一緒に武士から状況を説明してもらった。

どうやら野分の影響で不作となったが地頭が年貢を厳しく取り立てたため一揆が発生したらしい。

地頭は一揆勢に追われ行方不明、その家族が数名の家臣に守られて逃げてきたようだ。


菊池頼隆は、菊池郡も数年前までは同じように一揆があり、一揆と鎮圧を繰り返していたなぁと昔を少し思い出していた。


現実に戻ると目の前の武士が不思議そうな顔をしていたが、気が付かなかったことにして今後どうしたいのかを武士に尋ねるのであった。


「姫様が管理している2村がそれぞれに一揆を起こしました。地頭様と嫡男様は一揆勢に討たれたと聞いています。まずは一揆勢を鎮圧し、村を取り戻したいと考えています。」


「村を取り戻した後、誰か跡取りが残っているのか。」


「9歳になる姫様がおられますので、養子を取って盛り立てていこうかと。」


菊池頼隆は、少し考えたのち話し出した。


「そうか。親父殿に確認が必要となるが、うちから養子を出す条件で手伝いをすることで良いか。」


「私の一存では決められませんので、姫様に確認してからとなります。」


「其れで良い。こちらでも親父殿に確認しておこう。」


武士は、姫様に確認するために避難場所へ行った。


「さて隆俊。今の話はどう思う。」


「良い話ではありますが、菊池武時様次第かと。」


「そうよな。まずは親父殿に手紙を書くか。隆俊は、このまま防衛陣を完成させてくれ。話しがつき次第、一機鎮圧に向かう。」


「分かりました。」



・・・ 1日後 ・・・



菊池武時の庶子が養子として入ることで決着したため、城隆俊は、菊池頼隆の弟である菊池武澄と共に田浦村へ向かうことになった。


田浦村手前までは特に抵抗もなく進み、田浦村に入ろうかとするところで一揆勢と遭遇し睨みあることとなった。


「一揆勢に告ぐ。抵抗を止めて降伏するなら今まで通りとしよう。抵抗するなら家族共々皆殺しとする。」


「どうせ降伏しても見せしめに殺されるだけだろ。」「「そうだ。そうだ。」」


一揆勢は気勢を上げ今にも打ちかかる態勢を取った。

菊池頼隆は、『このままではまずい』と思い、大声を張り上げた。


「聞けぃ! 田浦村の地頭の家に菊池家から養子が入ることとなった。養子が入れば開墾が進むぞ。知っているだろう、八代郡の発展ぶりを。

八代におられる菊池九郎様は、従うものには優しいが、反抗する輩には厳しい。あくまで反抗するというのならその家族まで皆殺しにするだろう。

さあ、どうする。」


一揆勢は気勢を削がれ、お互いに顔を見合わせている。


「確かにあの旗、菊池の家紋だな。八代郡に物売りに行ったときに見たことがある。」

「じゃあ、あの武士の言っていることは本当か。」

「八代の殿様は、神の子だと聞いたことがある。逆らうと天罰が下るかも。」

「暮らしが良くなるんなら、何でもええ。引き下がるか。」


一揆勢の中から体の大きい男が進み出て来た。


「俺は権兵衛。この一揆の頭をしている。今、言われたこととこの冬の食い物を頂けるのなら解散しよう。」


菊池頼隆は、それに答えた。


「よかろう。食料は、兵の分も必要なので今ある分の1/3を渡そう。残りは後日人数を確認してから戸別に渡すことで良いか。」


「良い。」


「権兵衛には、もう一村の鎮圧を手伝ってもらいたい。ここを任せられるものは他にいるか。」


「喜助に任せましょう。」


「こちらは弟である菊池武澄を残していく。武澄頼んだぞ。」


「承知しました。兄上。」



菊池頼隆、城隆俊は、2/3の兵を率いて隣の村に向かうのであった。


・・・・・


隣村についたが、権兵衛の説得により先ほどと同じ条件で一揆を解散することとなった。


「さて城よ。俺はここで一揆解散を見届けるので、周囲を見て回ってもらえないか。工作班が到着する前に状況を見ておくことで少しは助けになるだろう。」


「そうしましょうか。私は南側から回りましょう。」


「うむ。頼んだぞ。」


城隆俊は、野分による村の被害状況を見て回ることとした。


・・・・・


「ここも堰が崩れているな。」


城隆俊は川の土手が壊れているのを見て溜息をついた。


「こうもあちらこちらで堰が決壊しているとはな。これではこの村以外も被害は大きそうだ。他でも一揆が起こっているなんて事はなければ良いが・・・」


城隆俊は、他も同じようになっているのではと思ったが、九郎様の領地以外は手を出すことはないと考え、目の前の状況把握に努めた。

数刻歩き回ってある程度は把握できたため、一度 菊池頼隆の元へ戻ることにした。


戻ってみると陣地で人が忙しそうに動いている。

嫌な予感はしたが、ままよっと城隆俊は戻ることにした。


「菊池頼隆様。城隆俊戻りました。」


「おう、戻ったか。どうだった。」


「複数個所で堰が決壊していました。あれを復旧するのは手間がかかりそうです。」


「そうか。そちらの工作班の人間に場所を教えておいてくれ。終わったら声をかけてほしい。」


「承知しました。」


・・・・・


決壊個所を伝え終わった城隆俊は、菊池頼隆に声をかけた。


「頼隆様。伝え終わりました。」


「そうか。問題が起きたこっちへ来てくれ。」


菊池頼隆はそういうと陣地の奥にある天幕の中へ城隆俊を迎え入れた。

天幕の周りには、兵が配置されており物々しい雰囲気を醸し出している。

天幕の中には菊池武澄も来ており、憂いのある表情をしている。

城隆俊は、何か重大なことが起きたかと身構えていると、菊池頼隆が話し始めた。


「良い知らせと悪い知らせがあるがどちらから知りたい。」


「では、良い知らせから。」


「良い知らせは、九郎が八代の港に着いたと連絡があった。」


「九郎様が戻られたのですか。ご無事で良かったです。で、悪い知らせとは何でございましょう。」


「筑後国三池郡で兵を集める動きが出ているらしい。肥後国を狙ったものかどうかはわからぬが。」


「三池郡ですか。肥後守護の規矩高政様の領地だったかと思いますが、そのような方が肥後を攻めますか。」


「それは分からぬが、規矩様より親父殿へ兵糧の追加供出命令が来たのを供出する理由がないと断った後から兵を集めているらしい。

何でもかなり高圧的に命令されたようで親父殿は大そう怒っているそうだ。」


「それが悪い知らせですか?」


「いや続きがあるのだ。三池郡の兵に対して警戒しなければいけないのだが、収穫時期真っ最中ということもあり、親父殿には出せる兵がない。

そこで工作班に警戒をするように命令が来ている。」


「う~ん。ここの村のこともあり、兵を出すのは難しいですね。一旦、八代に戻り九郎様と相談するべきではないでしょうか。」


「そうだな。武澄、ここのことは任せたぞ。米は藤殿と相談して必要量を八代へ持ってくるように依頼してくれ。」


「承知しました。兄上。」


村のことを菊池武澄と藤に任せ、菊池頼隆と城隆俊は八代に戻るのであった。

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