3話 処刑

※※※※※※※※※ 雑太城 ※※※※※※※※※


本間泰宣の部屋で泰宣と息子の三郎が言い争いをしている。


「父上、阿新丸を討つことの許可を頂けませんか。」


「しつこい。許可は出来んと言っているではないか。諦めい。」


「ですが、父上。阿新丸を生かしておいては、鎌倉殿の為になりませんぞ。必ず災いを齎す存在となりましょう。」


「ならぬ。鎌倉からの命は日野資朝の処刑のみ。他はない。」


「それは阿新丸が佐渡島に来ていることを知らないからかもしれません。一度、お伺いを立ててみてはいかがでしょう。」


「しつこい。日野資朝は本日処刑するのじゃ。全てが終わるまでお前は部屋で謹慎しておけ。

誰か、こやつを部屋に閉じ込めておけ。」





「・・・後々の災いを取り除く為なのだ。なぜ理解していただけぬ・・・」


本間三郎は、近習を予備、密かに準備した手勢と共に抜け出すのであった。




※※※※※※※※※ 半時後 雑太城近くの河原 ※※※※※※※※※



日野資朝が後ろ手に縛られて茣蓙の上に座らされている。

周りには誰もおらず、ただ川のせせらぎだけが聞こえてくる。


「日野資朝殿。鎌倉殿の命じゃ。悪く思うなよ。最後に言い残すことはないか。」


「辞世の句を家族に伝えてくれ。

『四大本無主 五蘊本来空

 将頭傾白刃 但如鑚夏風』」


「承知した。せめて苦しまぬようにしよう。やれ!」


『阿新丸 家族は任せたぞ。』


日野資朝 享年41歳 史実より1年早い死であった。




※※※※※※※※※ 宿坊 ※※※※※※※※※


「日野資朝様が処刑されました。」


小助の配下の者から連絡がきた。


「そうか。惜しい方を失った。気は乗らぬが阿新丸に伝えねばならないな。」


僕がそう言って阿新丸の元へ向かおうとしたときに小助が慌てて部屋に飛び込んできた。


「九郎様。本間三郎が手勢を率いてこちらへ向かっております。狙いは阿新丸様かと。」


ん?なぜに阿新丸を狙うんだろう。


「配下の者からの連絡では、日野資朝様処刑に合わせて阿新丸様を無きものとすることで後顧の憂いをなくす狙いがあるそうです。

本間泰宣からは止められていたそうですので、本間三郎単独の行動かと。」


「分かった。ここは本間家のおひざ元だから迎え撃つのは下策だな。阿新丸を連れて逃げるか。

阿新丸を急いで呼びに行こう。」


僕は、阿新丸達と共に逃げ出すのであった。



※※※※※※※※※ 4半時後 山中 ※※※※※※※※※



なんとか追っ手を振り切った僕達は、山の中の洞窟で一休みしていた。


「そうか。父上は逝ってしまわれたのか。」


僕は小助の配下とともに日野資朝様の最後を阿新丸に説明した。


「九郎。本間家は父の仇ではあるので恨みはあるが、さらに恨めしいのは父の処刑を命じた鎌倉幕府だ。俺は何としてでも鎌倉幕府を討ちたい。手伝ってくれないか。」


「阿新丸。今の人数では返り討ちが関の山だ。悔しいだろうが今は生き延びて機会を待つべきだ。肥後に一緒に来い。時期が来れば一緒に鎌倉殿に目にものを見せてやろうではないか。」


僕は優しく阿新丸を説得した。

阿新丸は何かを耐えるように考えていたが、しばらくして呟くようにこう言った。


「そうだな・・・。小勢で鎌倉に攻め入っても犬死するだけだな。まずは逃げ出すことを優先すべきか・・・ 九郎、世話になる。」



「それでこそ、新しい御屋形様に相応しい英断であります。」


突然、阿新丸の後ろから声が聞こえてきた。

隈部時春や小助が慌てて僕を守ろうと戦闘態勢に入った。


「あいや。待たれい。拙者 大膳坊賢榮と申す。日野資朝様に仕え、日ノ本の出来事を日野資朝様へ伝える役割をしている者たちの棟梁であります。」


大膳坊賢榮と言えば、阿新丸を佐渡島から脱出させた功労者だったかな。

日野資朝の草(忍者)だったのか。

どうりで日野資朝様が朝廷や鎌倉幕府の内情に詳しかったわけだ。

本当に惜しい人を亡くしたなぁ。


「それで大膳坊。僕達をここから脱出させる手段はあるのか。」


「はい。ここから南へ下った所に小舟を用意しております。敦賀港まで行けば九郎様を迎えに来た船と合流出来るでしょう。」


「さすがは日野資朝様の手の者だな。道案内は任せる。」


「はっ」


こうして僕達は、大膳坊の手を借りて小舟を隠してあるという南へ向かうのであった。



※※※※※※※※※ 同時刻 本間三郎 ※※※※※※※※※



「阿新丸はまだ見つからぬのか。」


阿新丸を追って城下町へ来ていた本間三郎は、操作を行っている配下に向かって怒りを見せた。


「はっ 増員して捜索に向かっておりますが未だ見つかっておりません。」


「最後に取り逃がした場所は?」


「雑太城の南の山です。」


「むむむ このままでは阿新丸に逃げられてしまう。南の海側を捜索せよ。俺も出るぞ。」


本間三郎は、配下の止めるのも聞かず、阿新丸捜索のため飛び出した。

配下たちは、三郎に何かあってはと急いで追いかけるのであった。



※※※※※※※※※ 南 船着き場付近の藪の中 ※※※※※※※※※


「阿新丸様、あそこに船を置いております。」


大膳坊のいう方を見ると確かに小船が数隻浮かんでいる。

まぁ、詰めれば全員乗れるだろう。


あそこまで行けば脱出できるぞ。

もうひと踏ん張り頑張ろう。


って思ってたのが悪かったかな。


「いたぞ。こっちだ!!」


追手の兵士が2人、声をかけているということはもう数人増えるかな。

何とか逃げ切らなきゃ。


「九郎様。ここは私が」


隈部時春がそう言って2人を足止めするために前に出た。


「時春頼んだ。阿新丸。あそこまで急ぐよ。」


「おう。」


僕達は、隈部時春に兵士を任せ、小舟へ急いだ。


「こっちだ。」


後ろからは兵士の声が聞こえてくる。

小舟までもう少しというところで、僕よりちょっと年上の少年が飛び出してきた。


「阿新丸。僕が成敗してやる。」


そういうと刀を抜き僕に突っ込んできた。


うげっ。僕が阿新丸と間違われてる。

とっさに横に飛んで初撃は躱したが、少年は体制を整えて追撃しようとしてきた。


「阿新丸は僕だ。僕が相手をしよう。」


僕がどうやって逃げようか考えていると、横から阿新丸が僕と少年の間に割り込んだ。

阿新丸かっこいい!!


僕は阿新丸と少年が向かい合っているのを見て、一息ついた。


周りを見ると隈部時春が後ろから追っていた兵士3人を小助とともに対応している。

秋は、クロスボウを使って兵士の牽制をしているようだ。

大善坊が、僕の方へ寄ってきているのが見える。


「大善坊。阿新丸の加勢を頼む。」


「いやぁ。加勢したいのは山々ですが、拙者は武芸は全くでして。」


「その錫杖は飾りか。」


「飾りです。」


こいつ言い切りやがった。

大善坊が使えないことが判明したが、僕も武芸は全くだ。

とりあえずクロスボウを構えて、阿新丸の相手の少年を牽制しよう。

これ以上の追手が来る前になんとか振り切らないと。

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