2話 お見舞い

※※※※※※※※※ 宿舎にて ※※※※※※※※※



阿新丸へ今後の相談をするために、僕の泊っている部屋に来てもらった。

部屋には僕、阿新丸、秋がいる。隈部時春と小助は、部屋の周りに人が近づかないように見張ってもらっている。

まずは、阿新丸に現状を説明し、どうしたいかを聞いてみた。


「九郎、俺は親父に会いたい。そして出来るなら親父を救い出したい。」


まぁ、処刑されるって言われたらそう思うよなぁ。

日野資朝次第だけど、まずは阿新丸と会わせてみてからだなぁ。


「じゃあまずは阿新丸の親父さんに会うことを最優先にしよう。親父さんに会うことと救出することができるように計画を考えようか。」


見張りをしていた小助を呼んで、阿新丸と親父さんを合わせるための打ち合わせをすることにした。


・・・・・


「手順をまとめると、まずは入り込んでいる侍女を通して阿新丸が忍び込む日を親父さんに伝える。忍び込む日になったら小助が阿新丸を連れて屋敷に忍び込む。

屋敷に忍び込むのは小助、阿新丸、僕の3名。隈部時春達は屋敷周りで待機。何か問題が発生したらすぐに対応できるようにする。

これで良いかな。

忍び込むのは月の無い日にしたいから4日後とする。

阿新丸。親父さんと面会できるのは長くて半刻だ。心の準備をしておけよ。」


「分かっている。父上を説得できるように準備しておくよ。」


「後は、今まで通り雑太城に日参しておいてくれ。くれぐれも鎌倉からの使者が来たことを僕らが知っていると気が付かれないようにしてくれよ。」


「分かった。」


本当に分かってるのかなぁ・・・

まずそうだったら阿新丸を引きずってでも逃げ出そう。

阿新丸には悪いけど命あっての物種だしね。



※※※※※※※※※ 雑太城 本間泰宣の執務室 ※※※※※※※※※



一人の男と少年が向かい合って座っていた。


「父上。日野資朝の息子である阿新丸が隠岐島内に居るというではありませんか。鎌倉殿から日野資朝を処刑せよとの命が下っていますので、後顧の憂いをなくすためにも阿新丸も一緒に始末してしまいましょう。」


「三郎よ。流罪人に瑕疵が無いのに処刑することですら異例の事態じゃ。さらに島に来ておるからと言って罪のない和子を処刑するなど出来ん。」


「そうですが、父上。日野資朝は今上の側近。阿新丸は父が処刑されたことを知ったら我らに復讐を企てるかもしれませんぞ。」


「あんな子供に何が出来る。三郎よ、冷静に考えてみよ。この話はこれで終わりじゃ。」


本間泰宣はそういい捨てると、部屋を出て行った。


「父上、阿新丸の傍にいるのは肥後の神童と呼ばれている菊池九郎ですぞ。小勢とはいえ何をして来るか分からない。

父上には後からお𠮟しかりを受けるかもしれないが、阿新丸を討つ手筈を整えておいたほうが良いだろうな。」


本間三郎はそう呟くと部屋を後にした。



※※※※※※※※※ 四日後、夜 ※※※※※※※※※



おぉ、阿新丸が本間泰宣に怪しまれずに四日が過ぎたよ。

毎日日参してたけど門番に追い返されていたようだから、企みがばれる確率は低そうだったけどね。

そんなこんなでやってきました庵の裏口。

忍び込むのは、阿新丸、小助と僕だ。

阿新丸に密偵が付いたままになっているので、宿舎に阿新丸の代役を立て、隈部時春達にフォローしてもらっている。

この一月の間に数回身代わりを試してみたが、気が付かれなかったので今回も大丈夫だろう。


この庵って処刑が決まった罪人の庵なのに定期的な見回りだけで、常駐の警備人が居ないんだよね。

10年前に流刑になっている人だからいまさら逃げ出さないって思ってるかもな。

忍び込みやすくていいけどね。


まずは先に潜入している侍女の助けを借りて忍び込む。

特に小説のような事件もなく阿新丸の親父さんの部屋まで辿り着くことができた。


「日野資朝様、阿新丸様をお連れしました。」


侍女が部屋の中に向かって声をかけると部屋の中から「入れ」という渋い声が聞こえてきた。



・・・・・


阿新丸とガタイの良い渋い中年のおっさんが対面して座っている。

このおっさんが阿新丸の父親 日野資朝である。

僕は阿新丸の斜め後ろに座っており、それ以外は外の警戒にあたっている。


「阿新丸、よく来たな。大きくなった其方に会えて父は嬉しいぞ。」


日野資朝はそういうと阿新丸に近づくように手招きした。


「私も父上にお会いできて嬉しゅうございます。」


阿新丸は日野資朝へ目の前まで近づき頭を下げた。

しばし日野資朝は、優しい目で阿新丸を見つめていたが、阿新丸を引き寄せ、頭をなでながら、阿新丸の近況や家族の近況を阿新丸に尋ね始めた。


阿新丸は初めは恥ずかしそうで嫌がっていたが、日野資朝がやめないので困った顔をしながら質問に答えていた。


僕はじっと気配を殺して親子の対面を見守っていたが、後ろから小助が小声で囁いてきた。


「九郎様。そろそろ半時が経ちます。本日はこのぐらいで引き上げるべきかと。」


「うん。分かったよ。」


「阿新丸。名残惜しいだろうが、そろそろ時間だ。また、忍び込めるように手配するから今日のところは帰るぞ。」


「九郎 ちょっとだけ待ってくれ。父上に伝えておくことがある。」


日野資朝処刑のことかな。時間無いから次回に回してほしいのにぃ。


「父上。鎌倉から本間家へ『今上が何か企んでいそうだから父上を殺せ』と命令が来たとのこと。私達で逃走を計画しますので一緒に逃げましょう。」


「そうか。今上がな。阿新丸、父は逃げん。父は今上の身代わりとしてこの地へ来ておる。父が逃げると今上に迷惑がかかる。それは分かるな。」


「はい。ですが、殺されてしまっては今上の為に働くこともできなくなってしまいます。」


「そのようなことはない。私がここで居なくなると今上に対する鎌倉からの監視が緩むかもしれぬ。それにお前が居るではないか。お前は父が居ないことを物ともせず、立派に育っておる。また、九郎殿という良き友も居る。

この父に変わり、今上の理想とする日ノ本を作り上げてくれ。

良いな。」


「父上!」


阿新丸は、目に涙を浮かべているが必死に泣くまいと上を向いている。


「九郎殿。阿新丸の良き友としてこれからも頼んだぞ。」


「承知しました。」


僕は、ただ頭を下げることしか出来なかった。



・・・・・



数回、面会を繰り返しているうちにその日を迎えた。

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