8話 その後

※※※※※※※※※ 内謁の3日後 ※※※※※※※※※



煎りぬかと玄米クリームを献上して翌週にも帰ろうとしたが、祥子内親王の病状が良くなるまで待てと言われて1月程度残ることになった。

まぁビタミンを直接接種しているわけではないから直ぐに結果でないよね。

いつになったら帰れるのだろう。はぁ。。。


親父殿と御爺様、隈部宗春、雪は領地のあれこれがあるので数日後には帰りの途に就くことになっている。

いいなぁ。


阿新丸は相変わらず毎日遊びに来て雪と剣術の稽古して帰っていく。

当然、飯も食べていく。

今日も今日で昼からやってきて雪と剣術の稽古をしてる。


終わったのかな。こっちにやってきたぞ。


「九郎、話しがある。」


んっ?阿新丸が珍しく真剣な顔をしている。


「腹が減ったのか。甘味はないぞ。」


「いや違う、食い物の話ではない。俺の親父の話だ。俺の親父は今上の側近であったが俺が小さいころに鎌倉幕府に佐渡島へ流刑にされている。

その親父の具合が良くないようなので俺が代表として見舞いに行こうと思っている。

だが、母に大反対されており、行くための条件としてしっかりとした護衛を付けることになっている。

今を時めく九郎が護衛として来てくれるなら母も納得するだろう。

どうか俺の護衛として佐渡島へ行ってほしい。」


「お前なぁ。僕が護衛についたくらいで何ができるんだよ。それに、今は祥子内親王様の薬師として京に居なきゃいけないんだから、後一月は動けないよ。」


僕はあまり行きたくないなぁと思いながら断りを入れた。


「そこを何とか頼む。出発時期についてはこちらも用意もあるので早くて一月後だ。

まだ夏だし、二月後までなら冬までに間に合うはず。

だから頼む。この通り。」


「う~ん。二月あれば薬師の役目も終わると思うけど・・・

お前 護衛料払えるの?」


「そこは出世払いで!」


阿新丸は、嫌がる僕の着物の裾をつかんで必死に頼み込んでくる。

護衛料出世払いってこいつ出世したっけな?

そういえば、阿蘇家を帰参させるための使者として肥後に来るんだったような・・・

でもあんまりメリットないんだよなぁ。

時間ないんだよなぁ。Xデーまで2年切ったし。


「謁見時にお世話になったのだ。九郎、ついて行ってあげなさい。」


親父殿が部屋に入ってくるなりそう言った。

親父殿は内謁後からどうも朝廷や日野家への肩入れが大きくなっているように見える。

あまり良い傾向ではないなぁ。


「はぁ 親父殿の命であれば従いますが、領地をまる1年空けることになります。」


僕は、渋い顔をして答えた。


「領地はお前の工作班も居ることだし、何かあっても兄の頼隆に任せておけばよかろう。」


「そうですけどね。城の縄張りも確認したいですし、流石に今年いっぱい出ずっぱりなのは厳しいですよ。」


「それであるなら、俺らが乗って帰った後に船を佐渡島へ向かわせよう。

そうすれば今年中に肥後へ戻って来れよう。

阿新丸様には肥後経由で京へ戻っていただくことになりますが、よろしいですかな。」


「佐渡島へ行けるのであれば問題ない。九郎の領地も見てみたかったしな。」


阿新丸は佐渡島へ行けそうなのでにこにこしている。

肥後経由で京へ帰ることも問題なさそうだ。

ちょっとでも渋ったら話を白紙に戻そうかと思ったのになぁ。


「善は急げだ。母上に許可を貰ってくる。」


僕の渋い顔をものともせず、阿新丸は外に飛び出していった。

供のものが慌てて阿新丸を追いかけている。

あいつの護衛は大変そうだなぁ・・・


佐渡島へ行くことが決まってしまったし、国元の城隆俊や茜や兄上達へ手紙を書いて持って帰ってもらおう。


ん?阿新丸?佐渡島?


何かあった気がするけど思い出せない。

まぁいいか。



※※※※※※※※※ 1か月後 内裏小部屋 ※※※※※※※※※



僕は今日、祥子内親王の容体をチェックしに来ている。

もちろん2人きりになろうはずもなく、祥子内親王のお供として女御が2人控えている。


「祥子内親王様、足の浮腫は少し良くなったようですね。」


僕は男なので触診は出来ないけど、足のむくみが良くなっているように見えたので聞いてみた。


「そうですね。少し足が細くなった気がします。足の痺れもたまにしかありませんし、歩くことも楽になってきたように思います。」


祥子内親王様は、にこやかに返答された。

僕は和やかに雑談を行いながら、祥子内親王様の状態を確認した。

祥子内親王様は、僕に気を使っていただいているのか楽しい会話が続く。

祥子内親王様も楽しんでもらえていたらいいなぁ。


お体の状態だが、ここまで良くなれば後は体力を付けていけば問題くなるだろう。


「そうそう。九郎殿におそわった”らじお体操”も毎朝しています。初めのころに比べて楽にできるようになりました。」


へぇ~ 慣れてきたのかな。機会があれば第2も教えてみようかな。


「祥子様。そろそろお稽古のお時間でございます。」


女御が祥子内親王様に伝えてくる。


「あらまぁ。もうそんな時間?楽しい時間は早く過ぎるのね。

九郎殿はもう少ししたら領地に戻られるのでしたかしら。」


「北周りになりますが、明後日に出発する予定です。」


「そうですか、寂しくなりますね。そうだわ、局、私の化粧箱を持ってきてくれない。」


呼ばれた女御がしずしずと赤地に金蒔絵のついた箱を持ってくる。

祥子内親王様は箱を開け、中に入っていた赤地の櫛を1本取ってきた。


「これをあげましょう。」


「いえいえ、滅相もない。こんな貴重なものを頂くわけにはいきません。」


「貰ってちょうだい。私のお礼の気持ちだから。」


祥子内親王様は、櫛を僕の手に押し付けてくる。


「ありがとうございます。家宝とさせていただきます。」


僕は、恭しく櫛を受け取ることにした。


「内親王様。お時間です。」


「分かっています。今から向かいますよ。それでは九郎殿。またいらして下さいね。」


祥子内親王様は、僕ににっこりと微笑んでしずしずと出ていかれた。

いいなぁ。ああいうのを大和撫子って言うんだろうなぁ。


僕は幸せな思いを抱いたまま、宿坊に戻るのであった。



・・・・・ 宿坊 ・・・・・


「九郎。待って居ったぞ。母上に挨拶してから佐渡島へ行こうではないか。」


・・・せっかくいい気分だったのに、待ち構えていた阿新丸に捕まり日野家へ連行されるのであった。

ちっとは余韻に浸らせろ~

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