7話 内謁

※※※※※※※※※ 宿坊 ※※※※※※※※※


京土産を買ったり、寺の茶坊主に闘茶の作法を習ったりして過ごしている。

闘茶とは、鎌倉時代後期に始まったお茶を飲んで産地を当てる遊びだ。

面白そうなのでやってみたが、特徴のある茶を当てる位しか出来そうにない。

この時代の格付けチェックみたいだと思うが、僕の場合は映像から消えるかその直前まで追い込まれるだろうと思う。

この時代の流行は知っておいたほうがいいらしいし、まぁぼちぼち当たればいいかな。


土産として塗り物の櫛や西陣織っぽい反物を買った。

西陣織の西陣って応仁の乱に由来するらしいから、まだ無いんだよね。

弟達にも笛や小さな太鼓などを土産に買っている。

どうせなら京都っぽい土産を買いたかったけど、観光地じゃないからあんまりいいのが無かった。

この時代の京の土産ってなんだろな。


そうそう、阿新丸に聞いたら鶏がいるらしいので、数羽譲ってもらえないか交渉してもらっている。

雄鳥2羽と雌鶏10羽位なら譲ってもらえそうな感じっぽい。

これで卵が食べられる。生卵は衛生管理が悪いので食べれないけど、卵焼きや目玉焼きは食べたい。

京では鶏は時を告げる神聖な鳥として敬う対象になっているそうなので、卵を食べるのは肥後に帰ってからこっそりとかな。

鶏自体は、数を増やすことを優先しないとなぁ。


内謁の日取りは、阿新丸の一族で叔父にあたる|日野俊基<<ひのとしもと>>が伝えに来てくれた。

今上天皇が配慮してくれたらしく3日後に行われるようだ。


内謁に参加するのは、御爺様と親父殿と僕の3人だ。

雪もついてきたがったけど流石に無理だ。幸春爺さんも止めてたし。

それでも護衛の中に含まれて門までは行けることになったみたい。

阿新丸は行くとも行かないとも言ってなかったけど、あいつも来れるわけないよね。



※※※※※※※※※ 3日後 ※※※※※※※※※



とうとう内謁の日が来てしまった。

日野俊基様に先導されて内裏の小部屋に通された。

ここが内裏の中かぁ。

鎌倉幕府に権力を奪われて苦労していると思っていたけど意外と奇麗だな。


前方を見ると御簾がかけられており、うっすらと向こうの部屋が見えている。

親父殿、御爺様、僕の3人は御簾から数メートル離れた場所に通された。

俊基様は、御簾の脇に座られた。

反対側にはなぜかすました顔で阿新丸が座っている???

あいつなにやってんだ。


あの御簾の向こうに今上が来られるのだろう。


俊基様から平伏するように指示があり、僕等は平伏した。

この時代の座り方って楽坐っていって足の裏通しをくっつける座り方なんだけど、慣れないと座りにくい。

現代風の胡坐は楽坐の簡易版らしい。この座り方の練習は大変だったが、本番は何とか座れたな。

御爺様曰く長時間は膝と腰が痛くなるらしい。

僕は若くてよかったよ。


俊基様から今上が来られたことを良く通る声で告げられる。

あれ、2人だけ?内謁とはいっても側近の方々は出てくるんじゃないの?

そんな疑問をよそに今上が御簾の奥に来られた様な気配が感じられた。


今上は、御簾越しにこちらを見られているようだ。

ん?御簾がすれているような音がする。


人が歩いてきているが、誰だろう?


「そなたが九郎か。ようやく会えたの。」


すぐ前で声が聞こえたので思わず顔を上げたら、白い絹の礼服を着た壮年の男性が立ってこちらを見ていた。

その男は、黄櫨染の着物を着ており、背はそれほど高くなく、立派な顎髭を蓄えがっしりした体格をしている。

また、ふくよかな顔をしているが目の奥に強い光が見え、見るものを圧倒する威圧をだしている。

誰だろ?と思わず見つめていると俊基様が「おっほん」咳払いとともに平伏するように促してきた。


やべっ これ今上じゃん。とりあえず平伏しとこう。

やっぱ頂点にたつ人にはオーラがあるんだな。


「そうかしこまらずとも良い。ここには俊基の他に誰もおらん。のぅ 俊基。」


「はっ 嫌しかし・・・」


「儂が良いと言っておるのじゃ。ここでの無礼はなかったことにしておけ。」


「はっ」


「今まで怪我をすると傷が膿んで、酷いときには死に至っておったのじゃが、九郎から貰ろうた石鹸のおかげで傷が膿むことがなくなったのじゃ。

特に祥子の怪我をした時であった故、助かったぞ。

おかげで祥子は傷跡も残らず、きれいになった。のう、祥子。」


今上は、僕の手を取り感謝を述べられた。

えらく大らかな方だなぁ。


「お役に立てたのなら恐悦至極にございます。」


「ほれ、祥子からもお礼を言わんか。」


「九郎様。ありがとうございました。」


御簾の奥から可愛らしい女の声が聞こえる。声の感じからして僕と同じ年くらいかな?


「九郎は、薬に詳しいのじゃな。祥子なんじゃが、昨年から足の病に罹っておって段々歩きにくくなっておるのじゃ。何か良い薬を知らぬか?」


「わかる範囲であれば。ただ、実際に症状を見てみないと分かるかどうかも見当がつきません。」


「確かにのう。おい、祥子。ちょっとこっちへ来い。」


「今上。裳着前とはいえ内親王様を御簾の外に連れ出すのはいかがかと・・・」


日野俊基様が今上に苦言を呈している。


「良い。俊基、阿新丸 あっちを向いておれ。」


「「はっ」」


そう言って2人はそれぞれ壁側へ向き直った。

これ大丈夫なのか?そう思って親父殿たちのほうを向くと親父殿たちも自主的に壁側を向いている。

全く役に立たない保護者だ。僕も後ろを向こうっと。


「これ、九郎。お主まで他所を向くと状態を見ることが出来んじゃろ。こっちゃ向け。」


「そうですね。では。」


僕が向き直ると腰まである長い黒髪を持つ楚々とした少女が女御に付き添われたっていた。

見るからに足が浮腫んでいるようで立つことがやっとの状態に見える。


あぁ、これ脚気の可能性が高いなぁ。貴族って白米を食べる習慣があるからビタミン不足で脚気になりやすいんだったっけ?

脚気って椅子に座った状態で膝を叩いて反応を見るんだった気がするけど、僕にはわかりそうにないな。

脚気には玄米食が良いとされているけど、貴族の方々には難しそうなので、糠を炒って薬として飲んでみてもらおうかなぁ。

後は玄米クリームでも作ってみて続けやすいほうを選んでもらおうかな。


「そうですね。治るとは言い切れませんが、試してみたい薬があります。薬の材料にしたいので精米を行っている場所を教えて頂けませんでしょうか。」


「ほう、そうか。では、阿新丸、九郎を案内せよ。」


「はっ」


「九郎よ、頼んだぞ。儂の力になってくれ。」


「はっ 承知いたしました。」


「菊池武時、竹崎惟氏 良い子を持ったの。」


「あり難きお言葉。嬉しく思います。」


「頼りにしておるぞ。」


「「はっ」」


今上は、ひとしきり感謝の意を述べられると、御簾の内に戻られた。

その後は、俊基様が今上から贈られる官位他の目録を朗々と読み上げた。

読み上げ後は、今上が御簾の奥から退出し、内謁は終わりとなった。


今上に直接お言葉をもらった上に官位を貰ったからか親父殿の朝廷に対する忠誠心が爆上がりしている気がする。

勅が出たら無理そうな勅命でも従いそうだ。

やばいな。元弘の乱のあおりで親父殿が死ぬ未来を変えることが難しくなりそうな気がする・・・

今以上に備えないといけないかなぁ。



※※※※※※※※※ 調理場 ※※※※※※※※※



ちょっと先のことは置いておいて、まずは薬を作らなきゃ。


僕は今、食料この中で玄米が入った俵の前に立っている。。

ぬかもここにあるようだ。

この時代の朝廷って財政が厳しいって聞いていたけど、食べることには困らなさそうに見える。

まぁ戦国時代と違って鎌倉幕府が最低限以上の援助はしているだろうしね。


料理番が後ろに控えており、僕の助手をしてくれるようだ。


フライパンは無いけど柄のついた小型の鉄鍋はありそうなのでそれでぬかを煎ってもらおう。

もう一人の料理番には玄米を煎ってもらい玄米クリームを作ってもらうこととする。

僕が居なくても作れるようにしておかないとね。


ぬかは煎るだけだし、玄米クリームも玄米を煎って、別鍋で水を沸騰させ、沸騰した湯にいった玄米と塩を入れ、半時ほど弱火で煮込むだけだしね。

粥を作っているようなものだね。



・・・・・



玄米クリームができた って 阿新丸!お前が食ってるんじゃねえよ。

「うまい もう一杯」って何のCMだ。

祥子様に献上するのだからもう食うな。

毒見しなきゃって言っても、既に1杯食ってるから問題ない。

温かいうちに持ってって来い。


僕に催促され、阿新丸は薬の入ったお櫃を持って部屋を出て行った。

まったく油断も隙もありゃしない。


そんなこんなで僕の内謁は終了した らしい。

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