3話 京へ行こう
※※※※※※※※※ 1230年 初夏 ※※※※※※※※※
田植えも終わったし、京都へ出発だ。
500石船が3隻完成したので船で京まで向かう予定としている。
親父殿、御爺様と護衛を宇土で乗せ、八代で僕が乗る。
その後、博多で鎮西探題 北条英時様に挨拶した後、瀬戸内経由で行く予定だ。
そうそう金吾も博多から乗ってくる。上京に付き合ってくれるようだ。
船旅は天候の影響を受けやすいので半月ほど余裕のある日程にしている。
まぁ、ある程度順調にいけば予定の一月前に着くと思うんだけどね。
さて目の前では船に献上品や食料等を積み込む作業が進んでいる。
今回、僕に同行するのは秋と隈部時春、なぜか隈部宗春爺さんと雪だ。
護衛の兵として時春が選別した工作班の精鋭200名が同行することとなる。
この200名と親父殿達の護衛の兵にはお揃いの胴丸を拵えた。時春たち指揮官には大鎧だ。
親父殿や御爺様はそれぞれ上京用に鎧を新調したらしい。
見た目は大事だよね。
茜と兄上達は、領地の面倒を見てもらうことになっている。
親父殿が上京するので重役と武重兄上は同行できず、代わりの取り纏めとして宗春爺さんが同行するらしい。
ちなみに雪の領地は、隈部家の家人が代理を務めるようだ。
さて出発の時間だ。船酔いしなけりゃいいなぁ。
・・・・・
堺に着いた。僕は船酔いしなかった。成長したかも。
まぁ、今回は船が大きいために揺れが少なく、天候に恵まれたこともあり波が穏やかだったことが良かったのだろう。
博多を出てから順調に航行し、1月程で到着した。途中で村上党などとの交渉があったようだが、全て金吾が渡りを付けてくれていたようで、親父殿や御爺様が挨拶に向かうぐらいだったので僕は本当にすることがなかった。
したことといえば「暇だ、暇だ」と煩い雪の相手をしていたくらいだな。
堺って昔の大商業都市だと思っていたけど現代と比べるとこじんまりしている。
それでも肥後国に比べると大都会だし、博多と比べてもかなり大きいけどね。
禅恵様の紹介で堺の近くにある真言宗の寺に数日宿泊してから京へ上ることになっている。
まぁ寺といっても門前町まである立派なお寺だけどね。
お布施も多めに渡してあるからある程度好き勝手しても良いとも言われている。
さて今日は金吾の紹介で河内地方の土豪に会うことになっている。
なんでも500石船を見て、惚れ込んだので購入したいという要望らしい。
僕は金吾に断るように言ったのだが機内で有力な散所(輸送業)を取り纏める人物だそうで、一度会って欲しいとのこと。
まぁ時間もあるし、金吾の頼みでもあるので会ってみることにした。
商談場所は先方から指定された小料理屋だ。
護衛の隈部時春はブツブツ言っていたが、金吾の紹介だし変なことにはならないだろう。
雪が着いてきたいといったが、流石に断った。商談に連れていくつもりはない。
御爺様は、保護者として同席してもらうこととした。
※※※※※※※※※ 堺の小料理屋 ※※※※※※※※※
僕の目の前には、小柄な男と僕より少し上くらいのの子供が座っている。
子供も烏帽子を被っているので元服はしているようだ。
まず、目の前の小男が話しを話しを始めた。
「|楠木正成<<くすのきまさしげ>>と申します。此度は急な面会依頼にもかかわらず、場を設けて頂き、誠に申し訳なく。こっちが嫡男の正行でございます。」
「楠木正成が長男、|楠木正行<<くすのきまさつら>>と申します。」
うへぇ。楠木公かよ。そういえば河内出身だったっけ?
ここいらの散所のボスって聞いてたからてっきり商人が来ると思っていたよ。
確かに楠木正成の前半生って悪党とか散所の取り纏めとか説があったけど・・・
「竹崎惟氏でございます。こっちが孫の九郎です。商いは全て九郎が行っているので、商談は九郎が承ります。」
「菊池九郎にございます。」
楠木正成は、目を見開き驚いた顔をしている。目で金吾に確認したようだが、金吾も肯いた為、今度は僕をじっと見つめている。
横の楠木正行は、吃驚したというより、興味深そうに僕と楠木公を交互に見てニコニコしている。大物かな?
天下の楠木公に見つめられるとちょっと照れるなって今はまだ全国的には無名なんだよな。
じっと見られっぱなしも居心地が悪いので話しかけることにした。
「楠木様。商談があると聞いておりますが、どのようなご用件でしょうか。」
一応、商談内容は金吾から聞いているけど、本人にも確かめてみないとね。
楠木正成は、はっと我に返った様な顔をした後、取り繕うように話し始めた。
「私は散所の頭をしておりまして、最近は全国から堺への物資輸送依頼が多くなっており、少々もたついていた。そこへ九郎殿が乗ってこられた500石船と見つけ、これだと思った次第です。あの船は、帆も大きく船足も早そうだ。あの船を利用すれば今以上の荷運びが出来るようなるとかんがえている。
どうかあの船を売ってもらえないか?」
「あの船は試作品でして今回が処女航海となってます。10年以内には量産できるように考えているのでその頃までお待ちいただきたい。」
「それでは遅い。すぐにに売ってもらえないか。今ある試作品の船でも良い。」
「申し訳ないですが、あれ試作品でして問題がある可能性が高いですのでお売りすることはできません。
量産出来たら楠木様に優先的に販売することを約束することでいかがでしょうか。
今回の航海が順調にいくのであれば数年後には販売できるかもしれません。」
「・・・仕方がないか。1隻でも販売できる船が出来たら連絡をいただきたい。値段に色を付けて買い取ろう。」
「あの船にそこまで拘らなくとも畿内であれば今の船を量産すれば十分なのでは?」
「うむ。まぁ船は数を増やせばよいのだが、船乗りは簡単に増やせぬのだ。」
楠木正成が少しうなだれた感じで呟いた。
「確かに・・・ あの船は今までの船と違い航行する為には風を読むことが必要となります。船員を育てるのも大変ですよ。」
「そうか・・・ そうだうちから船を操れるように人を出すから鍛えてもらえないか。
もちろん報酬は支払おう。」
「その位なら・・・」
「よし、決まりだ。どこに向わせれば良い?」
楠木正成が食い気味に迫ってきた。
「半年後に八代まで来ていただければ準備しておきますよ。」
「承知した。その時にはこの正行も同行させよう。正行良いな。」
「承知しました。父上。」
楠木正行がのんびりした感じで答えていた。
本当にこの人はのんびりしてるのかも。
それにしても楠木正成様は、えらく気合入っているなぁ。こりゃあ粗相のないように受け入れ準備をしてもらうために八代郡へ手紙を出しておこうかな。
後は城隆俊と藤がうまくやってくれるだろう。
楠木正成様と正行様は、とりあえずは納得した様子で帰っていった。
数年後には同じ南朝方として戦う間柄になるはずなので、ここで顔をつないでおけたことは大きいんじゃないかなぁ。
活躍の場が畿内と九州だから会うことが少ないかもしれないけどね。
楠木正成様は、建武の新政時に菊池家を擁護してくれたという逸話があるので個人的に好きということもあるんだけどね。
今回の商談は、どえらい人物が出てきてビビったけどうまいこと行ったんじゃないかなぁ。
※※※※※※※※※ 河内 楠木邸 ※※※※※※※※※
「父上。堺に停泊している船に甚くご執心なされていましたが、そんなに凄い船なのですか?」
「そうだぞ 正行。あの船は今までの和船とは違い、外国との交易に使われてもおかしくない船だ。俺は荷下ろしの様子を見学していたが、兵200人と多くの物資を下ろしてもそれほど喫水線が変わっておらんかった。
まだまだ載せることができるのであろう。あの船に満載の荷を載せたら一体どのくらい載ることになるのやら。
正行も知っておる通り、俺は今上天皇より討幕要請の親書を受け取っておる。
来年にも事を起こすことになろうが、あの船があるだけで戦の仕方が変わるかもしれん。
お前は八代に赴き、しっかりと船の扱いを習得してこい。」
「承知しました。」
※※※※※※※※※ 半月後 羅城門 ※※※※※※※※※
やっと京についたぁ。
堺でのんびりしていたこともあるけど、堺から京までって結構遠かったなぁ。
新幹線なら一駅 数十分なのに・・・
ずっと馬に乗っていたからお尻が痛いよ。
早くゆっくりしたいよ。
そうは言っても人通りも多い街中に入るので馬をゆっくりと歩かせるしかない。
本当は京の町を迂回して北の宿坊へ向かったほうが良いのだが、六波羅探題へ到着したことを知らせるためにも京の町に入ってから宿坊へ向かったほうが良いらしい。
面倒なことだ。
2条通りあたりに来るとなにやら騒がしくなってきた。
親父殿や御爺様は六波羅探題へ挨拶に行ってしまったので、何かあったら僕が対処しなければならない。
面倒は嫌だなぁと思っていると様子を探りに行かせた斥候が戻ってきた。
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