2話 京からの手紙

※※※※※※※※※ 八代の屋敷 ※※※※※※※※※


屋敷に戻ると武澄兄上、武舜兄上がいた。

3人の兄上と港からそのまま付いてきた隈部宗春、雪とともに評定の間に移動する。


ん?雪さん、お仕事は?

こっちの方が面白そうだって?興味本位で付いてきちゃだめだよ。


「わらわ付いていっちゃ駄目なの?」


駄目じゃないけど・・・

付いてこれるとわかったとたんにニパァと良い笑顔を返してくれる。

その笑顔 嫌いじゃないけど・・・


それに御爺様にも見分を広めるために付いて行けって言われてる?

だから宗春爺さんも付いてきてるのか。横で楽しそうに眺めてるし・・・

この爺さん元親父殿の所の重臣で頼りにしているから来ちゃダメって言いにくいな。

仕方が無いか。やばい内容なら親父殿が入っちゃダメって言うだろうし。

何かあっても秘密にしてもらえるだろう。


評定の間に入ると既に金吾が入り口に控えていた。


「九郎様、京の帝より手紙が届いております。」


金吾がそういうと一人の僧が現れ、上座へ座った。

皆 頭を下げているので僕もあわてて頭を下げる。


「|帝<<みかど>>の使いとして参った。|禅恵<<ぜんえ>>と申します。帝からの言上をお伝えします。・・・」


そういって使者の僧は手紙を読み上げると手紙を僕に手渡した。

確かに桐の紋が記されている。確か後醍醐天皇から使用するようになったんだっけ?

読んでみると石鹸など献上品についてお褒めの言葉が綴られており、最期にこの功績により官位を授けるので上京するようにと書かれている。


献上品は全て御爺様と親父殿の名前で行っていたはずなんだがなぜ僕に?

御爺様が僕の名前も入れて献上していたと。そうですか・・・

禅恵様は、これから親父殿と御爺様にも同じ手紙を届けてくるのね。


また、上京するにあたり禅恵にサポートさせるから頼ってねと小難しく書いてある。

今日のしきたりなど全く分からないからこれは助かる。


でも、鎌倉時代って武士は鎌倉幕府を通さないと官位が貰えないんじゃなかったっけ?

この時代の武士って北条一門でも上位者じゃないと官位を持っていなかったから本当にもらえればすごい権威いなるはずだ。

後から禅恵様に確認してみよう。


承ったことを伝えると禅恵様は、手紙をもう一つ取り出した。

何でも禅恵様のお師匠様である文観様からの手紙だそうだ。


読んでみると僕の領地で治水工事を行っていることを聞きつけたらしく、禅恵様に教えてほしいとの事であった。

その為に初めに八代郡へやってきて港や街並みを見て回ってから屋敷に来たらしい。

京の都にも劣らぬ賑わいって言われたけどお世辞だよね。京は10万人程度いて日本一のはずだしね。

文観様って用水事業など土地開発に多大な功績がある方だったよね。確か後醍醐天皇の側近だったはず・・・ うろ覚えだけど。

そんな方と縁ができるのであれば出来る範囲で伝授しておこう。

ゴマを擦っておけば京に上った時にも融通を聞かせてくれるかもしれないしね。


文観様の手紙に対しても了承したことを禅恵様に伝え、この場は終了となった。


この後は、禅恵様と共に私室へ移動し、今後のことを話し合うこととした。


・・・ 九郎の私室 ・・・


この場には禅恵様と僕だけだ。

部屋の外には護衛の隈部時春と小姓の小次郎はいるけどね


「禅恵様、鎌倉幕府では領主が官位を授かることを承認制になっており官途奉行を通さずに任官すると処罰の対象になります。この折衝は済んでいるのでしょうか。」


「いやぁ 今上は鎌倉幕府を嫌っておりまして、調整はしておりません。これから折衝となります。」


「それも禅恵様が?」


「えぇ 文観様より折衝も含めて権限をいただいておりますれば、私の方で勤めさせていただきます。」


「分かりました。禅恵様には何か手立てはあるのでしょうか。」


「いえ 特にはありませんが、まずは鎮西探題を訪ねてみようかと思っています。それで駄目なら直接鎌倉まで出向こうかと思っています。」


「鎮西探題ですか。鎮西探題 北条英時様にご縁をいただいておりますので、まずは英時様に面会できるように取り計らいましょう。その時は私もご一緒します。」


「かたじけない。」


お礼で官位を貰うはずなのに僕が官位を貰うための調整をすることになってしまった。

これってお礼なの只々苦労が増えただけじゃないか。

そんなこんなでまた博多まで向かうことになるのであった。

まずは先触れの使者を出して面会予約を取らなきゃなぁ。秋 頼むよ。


まぁ禅恵様が御爺様と親父殿に手紙を届けてからだからまだ先だけどね。



※※※※※※※※※ 半月後 菊池城 ※※※※※※※※※



城の一室で親父殿、御爺様、武重兄上と4人で顔を合わせるなり親父殿が話し出した。

禅恵様は、時春が護衛して茜の案内で菊池郡と益城群を視察に行っている。


「九郎、大変なことになったなぁ。知恵を出せ。」


いや あなたと御爺様のせいで僕まで巻き込まれたんだけど・・・

横を見ると御爺様がニコニコしている。この顔は何も考えていない時の顔だ。

僕に丸投げするき満々だな。

仕方が無い。案を出すか。


「まずは鎮西探題である北条英時様と面会し、鎌倉にいる執権殿に許可を貰う必要があります。許可が下りればその後に上京し官位を貰う段取りとなるでしょう。

上京の段取りについては禅恵様が取り仕切ってくれますので、禅恵様の教え通りに出来るようになりましょう。」


「うむ。では北条殿との交渉は任せたぞ。」


ん?なんか変なことを言いだしたぞ。


「親父殿は行かないのですか?」


「博多は性に合わん。九郎と禅恵様に全て任そう。」


それって丸投げじゃ・・・

前回の北条英時様との打ち合わせを見ていると親父殿が行っても話が進まなそうだからなぁ。

仕方が無い。行ってくるか。


「分かりました。面会に行ってきます。博多に行くにあたり護衛の頭が時春だけだと足りないので武将と追加の護衛の兵を貸してください。」


「うむ。武重と相談して決めてくれ。」


こっちは武重兄上に丸投げかい。

まぁいいや。とっとと進めよう。


結局、追加する護衛武士の取り纏めは隈部時春の兄がしてくれることになった。

ほぼ身内の方が護衛だとやりやすいかな。

危険なことはない予定だけど。



※※※※※※※※※ 1229年春 博多 鎮西探題 ※※※※※※※※※



僕は、鎮西探題内の1室で北条英時様へこれまでの経緯を説明した。

禅恵様は、横で聞いているだけだ。

説明してくれるんじゃなかったんかい。 言えませんけど・・・


英時様は、神妙な顔で聞いていたが、僕が話し終えるとにわかに笑い出した。


「九郎殿はいつも何か問題を抱えておる。見ている分には面白いのう。」


「英時様、面白がっている場合でもございません。それで執権様へは取り次いでいただけましょうか?」


「うむ。そうよなぁ。よし、昨年 九郎殿より送ってもらった酒樽。あれを2樽で手を打とうではないか。我ながら良い考えじゃ。」


うへっ ここにも飲兵衛が居たよ。

でも酒で解決できるなら仕方が無いか。


「分かりました。今年の酒が出来たらお届けいたします。それから少ないですが、酒をお持ちしておりますのでお納めください。」


「これは忝い。」


英時様は、嬉しそうに酒を受け取った。この人は、本当に酒が好きなんだな。

禅恵様がうらやましそうに見ているが、僧侶って酒は駄目じゃなかったっけ?

戦国時代に僧房酒があるくらいだから酒は飲んでも良いのかもな。


「執権殿へも官位の申請に合わせて進呈したい。もう少しないか。」


「もう余りありませんが、持ってこさせましょう。」


今残っているのは親父殿と御爺様の分らしいがこっちが優先だ。今年の分が出来るまでは待ってもらおう。

全くあの2人は売り出す予定分まで飲んでしまうからな。少しは我慢してもらおう。

そんな訳で酒と引き換えに北条英時様に鎌倉の執権殿への官位申請代行を依頼できたので良しとしよう。


後から親父殿と御爺様にグチグチと愚痴を言われました。解せぬ。


まぁ 色々あったが、鎌倉の執権殿より許可も貰え、来年の夏に上京し官位を貰うこととなった。



・・・・ 九郎が帰った後 鎮西探題 ・・・・


「英時様、なぜあのようにあの小僧に気を使われるんですか?」


「藤原、直接やりあったお前なら感じておるであろう。あの小僧の異常さを。

あの小僧は菊池郡、益城群、八代郡と肥後中の誰も開墾できなかった土地を開墾しておる。

あの小僧の才は菊池だけでは収まらん。今のうちに鎌倉幕府内に取り込めるよう差配しておく必要がある。

神童のままで終わるか、大空へ羽ばたくかはまだ分からんがな。」


「菊池を初めとする地方豪族は鎌倉幕府に良い感情を持っておりません。力を持つ前につぶしておいた方が良いのでは?」


「そのくらい対処できなくては鎮西探題は勤まらん。まぁ見ておれ。既に惣領の菊池武時には九郎の元服時の烏帽子親になることを打診しておる。色よい返事を貰えておらぬかったが今回の件の見返りとして承諾するそうだ。

そのうちに儂の娘と婚約させ、身内として取り込むことを考えても良いかもしれん。」


「そこまでお考えでありますか。承知いたしました。」


「そこでの、藤原。もう一つの手を打つため、お前は九郎殿について京へ上れ。六波羅探題との繋ぎを任せる。」


「ははっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る