2章

1話 統治開始

※※※※※※※※※ 1228年 冬 ※※※※※※※※※


八代郡を任されてから2年が経過した。

八代の海岸に白石(石灰石)の岩山があることを知った僕は、工作班を派遣し、掘り出しをさせている。

掘り出した白石は益城郡の砦に送り、硝石の作成をさせている。

僕もうろ覚えだからうまくいくといいが・・・

また、白石から肥料を作る研究もさせている。こちらは大体覚えていたのでしっけさせて腐らなければ大丈夫だろう。


治水も始めているが、球磨川は直ぐにどうこう出来ないので霞堤を作りつつ、大規模な災害が起きにくくはした。基本は氷川メインだ。

治水に合わせて水車も建設し、試運転している。

まずは水車も小型のものを作成し、白石を砕くためとして運用を開始した。

いまはもうちょっと大きい水車製造とギアの作成を進めている。

水車の回る力で臼を引くとかできないと小麦等を粉にするのが大変なんだ。

気軽にうどんやパンを食べたいしね。


他にも商人の金吾を通じて松浦党の一族のうち2家を取り込むことに成功した。

金吾の護衛と色々なテスト船の試乗を依頼している。

現当主は形勢不利になったら裏切りそうだけど、2家の子供達を寺子屋で学ばせるようにしているから、代替りした後は忠誠心を持ってくれると信じたい。

あれ(寺子屋)は洗脳教育だよね・・・ 忠誠心を持ってくれることはありがたいけど。

船大工も紹介してもらったので外海で活動できる帆船と近海のみだが荷を多く載せられる500石船を開発してもらっている。

帆船の技術者は大金をはたいて倭寇経由で元の技術者を連れてきてもらった。

これで竜骨を用いた頑丈な帆船が作れるはずだろう。

羅針盤他の航海に必要な道具も密輸している。とっても高くついたが発明するよりは安いと信じよう。(願望)

あまり帆船の方はあまりうまくいっていないようだが、500石船の方は形になってきた。ぜひとも後3年以内に両方とも数隻製造までこぎつけたい。


そうそう八代の南に城を作っている。まぁ、後世の名和氏が作る「古麓城ふるふもとじょう」と同じ場所なんだけどね。

こっちは石垣造に空堀など数々仕掛けをつくっているので鉄砲の無いのこの時代だと難攻不落の城になるかなと考えている。

これを見に来た親父殿に菊池にも作れと言われたので山鹿郡と菊池郡の境にあった山を切り開いて築城中。

築城後の数年間は僕に任せてもらうことを条件に請け負った。

八代の城については、鎮西探題の北条英時様には、八代郡に作る城は領地返却時に引き渡すことで了承をもらっている。その辺は抜かりないよ。


元弘の乱で菊池氏が鎮西探題軍に敗れることがなくなればいいかな。

両城共にしっかりと籠城できるよう井戸建造や食糧庫などの設備を整えておこう。

鎌倉時代の攻城戦って水を断つことが多いんだよね。千早城籠城戦も籠城側は水と食料をふんだんに準備してたみたいだしね。


さて今日は港の視察だ。新しい帆船の試作機ができたらしいしね。

港に到着すると船大工の棟梁とその配下たちが慌ただしく出港準備を進めていた。棟梁がこちらを見つけて礼をしようとしていたので止め、そのまま作業を進めてもらう。

何回も作業を優先してほしいと言い続けていただけあり、配下の者達はそのまま作業をしている。良い傾向だ。


さて今日は試作機は、3本のマストに三角帆をつけたキャラベル船だ。かの有名なコロンブスが使ったらしいが、これで世界を回れるとは思えない。もっと大型だったのかなぁ。


さて出航になった。僕も乗りたかったけど皆に押しとどめられて港からの見学となる。船が沈むことや航行不能になることが多いから、試運転は泳ぎが特に上手な者を選定して乗船しているらしい。

まぁ、新しいことには失敗は付き物だしね。慎重に行ってほしい。


1刻ほど海を眺めていると無事に帆船が戻ってきた。戻ってきた船長の話では逆風での切り上がりはいい感じだったが、追い風の時の速度は横帆船の6割程度だったらしい。

棟梁は不満がありそうだが、横帆船の時は切り上がり性能はほぼ皆無だったよね。

切りあがり性能はそのままに追い風時の速度をもう1割上げたいだって。

まぁ速度は大事だけどさ。

来年には数隻作って実戦配備したいからチューンアップはほどほどにしてね。


そうそう倭寇経由で入手した水軍で使える火箭の帆船からの試射はどこいった?

なに?試射してみたけど命中率が悪すぎるか。

火矢の方が使いやすそうだからクロスボウに火炎筒を付けたタイプで調整中か。

まぁ今後の課題だな。


じゃあ処女航海も問題なく終わったし、ちょっと乗せてよ。

今日は波も穏やかだし、風もちょうどいいくらいだから一回ぐるっと回ってくるぐらいならいいでしょ。


そこへ隈部時春の祖父で3つ隣の領主の補佐 隈部幸春と末妹で領主の雪が近づいてきた。

雪は僕の一つ上の9歳だ。1年間寺子屋で勉強し成績優秀で卒業したと時春からは聞いている。

ちょくちょく僕の屋敷に遊びに来ては茜や秋と何やら話しているのを見かける。

茜に聞くと領地経営と農業について質問に来ているらしい。

勉強熱心だ。

時春曰く、男勝りで剣術の腕も良いらしい。控えめに言って僕よりちょっと上だそうだ。

きっと瞬殺されるレベルなのだろう。一緒には修業しないようにしよう。


「ワシと雪も船に乗せてくれませんかな。」


「いいけど、試運転中だから何かあるかもしれないよ。」


「ワシは泳ぎは達者ですし、雪も浮くことは出来ますから大丈夫ですじゃ。」


「じゃあいいよ。雪には僕と同じで鹿の胃袋で作った浮袋を付けてもらおう。これがあれば海に投げ出されても浮いていられるよ。」


僕は雪に浮袋をかけてあげた。


さて出航だ。青空が広がり海風が気持ち良い。

竹筒に麦茶を入れて川の水で冷やしているので、海を眺めながらゆっくりくつろごうと思っている。

釣竿を作って持ってくればよかったかなぁ。


・・・・・


思いっきり船酔いしました。現代の高速船やフェリーなんかとは桁違いに揺れるね。

船員さんとかこの中で普通に歩いているし、ちょっと遊覧船感覚で乗ってみたいだとか考えが甘かったOrz・・・

一緒に乗った人のうち時春と宗春と秋は船酔いしていたけど茜と雪は平気そうだった。

茜君、雪君 キミ達も船に乗るのは初めてだったよね。なんで平然とおやつを食べれているの?


「さぁなんででしょう。おやつは別腹だからじゃないですかね。あっ 九郎様、おやつ食べないならもったいないから私が食べて差し上げますよ。秋の分もね。」


僕と秋は食べ物の匂いもきつかったので、茜と雪に全部食べてもらった。太るぞ。


「きちんと運動していますから大丈夫です。大丈夫ですよね?」


知らん。


「九郎様、後で一緒に剣の修業をしましょう。」


気分が悪いからまた今度・・・


そうこうしている内に、陸地に戻ってきた。帆船は、喫水の関係で港に横付けできないからここから小早に乗り換えて陸に向かう。

この不便さ解消も今後の課題だ。


さて半時もすると船酔いもだいぶ良くなった。

海軍総大将の人選は船酔いをしないことが第一条件だな。

これも今後の課題だ。


船の試乗の後は港町の視察だ。

八代に港と港町を建設しているのだが、港町というより倉庫街になってきている。

倉庫にすべて漆喰を塗って横浜の赤レンガ倉庫ならぬ城レンガ倉庫を目指そうかな。

白石が足りなくなるから駄目ですか。そうですか。

倉庫街の整備は、金吾と秋に担当してもらっている。金吾は過労で頬が虚仮てきてきているが、金吾をはじめとした博多商人には便宜を図っているので協力してもらわないとね。

大体、金吾が1人で欲張ろうとするからだよ。他の商人にも深く入ってもらえばいいのに。

えっ 商売人にはここは踏ん張りどころという時期がある?今がその時期だ?

まっ まぁ頑張り給え。倒れないでね・・・


港周辺は倉庫街だが、少し内側に入ると宿屋や屋台が並ぶエリアとなる。

ここの屋台には僕も出資している。美味しいものが食べたいからね。

内陸から野菜を持ってきてぬか漬けとか鯖とか鰯とか良くとれるみたいなのでぬかだきを作ったりもして屋台でおにぎりと合わせて弁当として販売している。

手軽に食べられると忙しい商人や旅人に人気があるらしい。

本当は焼き鳥とかお好み焼きとかもしたかったけど原価が高すぎて誰も買わないって言われたので断念した。

開墾がひと段落したら鶏舎を増やそう。小麦粉は水車を増やしていけば何とかなりそうだから後は予算と職人かな。


そうそう、屋台の西側に職人街ができつつあるらしい。水車とか城とか作っていて職人が足りないから、うちの領地は仕事がいっぱいあると思われているようだ。

益城郡の砦にいる藤から砦の職人を増員してほしいと嘆願書が来ていたんだっけ?

茜 身辺調査して問題なさそうな腕の良い職人をスカウトしておいて。

スカウト?ああ 雇って藤の所に配備しておいてってこと。

どんな職人が良いかは、藤に確認しておいてね。


「それって私に丸投げじゃないですか。」


できる秘書は違うなぁ・・・ 今度、天婦羅を作ってあげるからさ。


「分かりました。天婦羅がどんな料理か分かりませんが、九郎様がいうのであれば美味しいはず。約束ですよ。」


はいはい。

じゃあそろそろ引き上げようか。


パカラパカラパカラ


ん?あれは頼隆兄上じゃないか。どうしたんだろあんなに慌てて。


「九郎、屋敷に金吾が来ている。すぐに戻れ。」


金吾?さっき会いましたよ。


「とにかく急いで戻ってきてくれ。俺では対応できない事案だ。」


どうしたのです?


「ここでは話せん。全ては屋敷に戻ってからだ。」


う~ん。いい話ではなさそうなんだが、頼隆兄上の雰囲気だと全くの悪い話でもなさそうだし・・・

とりあえず屋敷に戻るかな。


「では、急ぎ戻ります。兄上も一緒に戻りますか?」


「俺は先に戻っておく。九郎も早く戻ってくれよ。」


あぁ行ってしまった。仕方ない。戻ろうか。


「皆、屋敷に戻るよ。」


・・・茜さんいつの間におにぎり買ったの?

食べながら戻るのは行儀悪いからさきに食べてから戻っておいでね。

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