幕間 寺子屋見学
寺子屋
僕が金吾の要求にこたえる形で始めた教育機関だけど、半年後からは1期生が教師を務めるようになり、僕は名誉校長という立場で教えることもなくなった。
そのうちに治水や色々なものを開発するなどで忙しくなったため、全てを藤を頂点とした会計チームに丸投げし、入学式などの行事以外で寺子屋を訪れることがなくなっていた。
そんなある日。
「九郎様、たまには寺子屋に視察に来てくださいよ。当初の簿記科だけから剣術科、忍術科、家庭科が増えているんですよ。」
「ふ~ん。面白そうだな。明日にでも行ってみようかな。小次郎 調整頼む。」
僕の寺子屋見学は、藤のそんな一言から決定された。
※※※※※※※※※ 翌日 ※※※※※※※※※
僕は、藤を先頭に護衛の城と小姓の小次郎を引き連れ寺子屋へやってきた。
これから見学する簿記科は初等クラスで簿記というよりは四則演算および読み書きを教える規則ラストのことで、全ての科の生徒が初めに取得することになっているらしい。
まず、当初からある簿記科へ入るとちょうど朝のホームルームをしており、寺子屋の理念を皆で復唱していた。
「「ひとつ、我々 生徒一同は共に学び、時に競い合い精進していきます。
ひとつ、・・・・・・
うん 良いことを言ってるね。
「「ひとつ、我々 生徒一同は九郎様の元に集い、九郎様の手足となって領地の発展に尽くします。
ひとつ、・・・
ん?軍隊教育かな?そんな標語をいれた覚えはないが・・・
「「ひとつ、我々 生徒一同は、九郎様に全てを捧げ、九郎様の手足となって九郎様のために尽くします。」」
終わったようだが、ちょっと洗脳教育になっていないかな?
これは後から藤とお話せねば。
・・・・・・
見学を終えて廊下に出ると藤が自慢げに話しかけてきた。
「九郎様、標語が素晴らしかったでしょう。我々 教師一同が九郎様が掲げた理念に基づき作成いたしました。ここの卒業生は全てを九郎様に感謝して日々の生活を送っております。」
藤は、両手を胸の前でこぶしに握りながら力説してくる。
いやいや、軍隊教育をやっているつもりはないんだけどなぁ。
小次郎も城も藤を褒めたたえているので、この時代では当たり前なのかなぁ。
「藤さんや。もうちょっと大人しめの標語で良いんじゃないかなぁ。例えば日ノ本の暮らしを良くするために頑張ろうとか。」
「藤は感動です。私はこの地の暮らしを良くするために奮闘しようと考えていたのですが、九郎様は日ノ本全部の暮らしを良くしようと考えているのですね。私の考えが浅はかでした。もっとよい言葉を考えます。」
「え うん。そうしてくれる。あまり気張らないでね。」
「はい!お気遣いありがとうございます。では次に剣術科にご案内します。」
・・・・・・
「ここは私、城隆俊が説明をしましょう。剣術科といいますが剣と槍、大弓とクロスボウ、アストラルに分かれており、各人がそれぞれ2つ以上を取得することを目的としています。
また、簿記科の生徒も1種目を選択し、取得するようにしております。
事務作業だけで運動しないことは体に悪いと若様がおっしゃっていたことを体現しております。」
「うん。事務作業者も定期的に運動することは良いことだね。」
僕はそう言いながら修練場へ入っていった。
キィエエエエ バシバシ ガシャン
修練場に入ると気勢を発しながら生徒たちが竹刀を構えて打ち合っている。
そうそう、木刀で修業していたんだけど危ないから竹刀に変えさせたんだった。
ん?あっちの端っこで穴を掘っている人がいるぞ。何してるんだろ?
「あぁ あれですか。工作班の修業として穴掘りと整地をさせています。
体力が有る者で戦に向かないものは荷運びか土地整備に回すようにとの九郎様からのご指導がありましたので、そういった者に対してこうやってスコップや鍬の使い方を教え込んでいるのです。」
うんうん。いい心がけだ。戦以外でも役に立つことはあるというのを実践しているんだな。
僕は、心から満足して次に向かった。
・・・・・
次は忍術科なんですけど、課外授業に出ていまして、誰もおりません。
ですので、家庭科に行きましょう。
家庭科の教室に着いた。
家庭科は、基本となる料理は全員が受けるとしてそれ以外は調味料研究や保存食研究、酒作りなどの研究室に分かれているらしい。
特に調味料研究と酒作りが盛んに行われているそうだ。
まずは調味料研究に行くことにする。
調味料研究を覗くと樽がいっぱい並んでいた。どうやら大豆を原料とする調味料を作っているらしい。
今は醬と呼ばれる調味料が主だからこれから発展させて美味しいたまり醤油を作ってほしい。僕は、甘めの醤油が好きだからそこを目指してもらおう。
また、水飴の改良もぜひお願いしたいところだ。
次に保存食研究に向かう。こちらも樽がいっぱい並んでおり、味噌ベースにした野戦食や旅路での非常食、飢饉に備えた米の保存方法の研究などを行っているらしい。
今は研究段階のものが多いそうだが、この世から飢えをなくすためにぜひとも頑張っていただきたい。
研究中の者をちょっと食べさせてもらったが、一応食べられるレベルではあったが、好んでは食べたいものは無かった。
味は今後の改善を期待したい。
最期に酒造りの現場へ向かった。
ガラガラガラ
戸を開けると醪の臭いが鼻につく。
ほんのりと日本酒の匂いがする気がするけど僕には良く分からない。
奥が騒がしいので覗いてみると寝そべりながら酒を飲んでいる親父殿と御爺様と困った顔をした茜がいた。
御爺様と親父殿はどう見てもベロベロだ。
「あっ 九郎様。今年の酒が出来たことを御屋形様たちが試飲したい来られたんです。酒精の強い物を試飲していただいたのですが、1杯では分からないと言われて何杯か飲まれている内にこんな状態に・・・」
「あぁ 見ればわかるよ。小次郎 すまないが母上を呼んできておくれ。これは僕たちの手に余る。」
「承知しました。」
・・・・・
母上の前に御爺様と親父殿が正座して座っている。
御爺様達はまだ顔が赤く少しふらついているように見えるが藤から水を貰って少し落ち着いたようだ。
母上がひとしきり説教した後、城と工作班の男衆に屋敷に連れられて行った。
どのくらい飲まれたのか後で見たところ小樽の半分ほど飲まれたらしい。
現在の量にすると7合ほどかな。今まで酒精の弱い酒ばかり飲んでた人がいきなり酒精の強い酒を生で飲んだらああなるわな。
母上に後から聞いたのだがあの2人は次の日も寝込んでおり、3日目になってやっと動けるようになったらしい。
母上の提案で飲む場合は、それぞれの小遣いからお金を払って飲むことになった。
今回の酒代もそれぞれに請求してよいらしい。請求書を持っていったら渋い顔をしつつ払ってくれた。
親父殿も今回の失態が正室にバレ、好き勝手に使えなくなってしまったらしい。
本家からも酒を売ってほしいと来たので、小樽一つ分を売ってあげた。
今回は、お試しの意味合いが強いが、評判は良さそうなので来年から本格的に作る予定としよう。
金吾にも少し渡して周りに広めておいてもらおう。
最期は、情けない大人の失態を見ることになったが、寺子屋の見学は面白かった。
洗脳教育みたいでちょっと怖いところもあったけど、今後の改善に期待しよう。
今回の見学はこれにてしゅう~りょ~う。
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