6話 八代遠征
※※※※※※※※※ 3日後 ※※※※※※※※※
出撃準備が整った。
御爺様は、隣村の野盗を撃退したときに腰を痛めて寝込んでしまったらしい。
手紙で一色殿の言うことを良く聞くようにと言ってきた。
でもあの人はかなりの脳筋武将なんだよなぁ。こちらの言うことはよく聞いてくれるから助かっているけど、これは僕が何とかしないといけないフラグか・・・
親父殿からも手紙が来たが一族の惣領が出陣すると菊池VS北条になるので地方領主同士の争いで抑えてほしいそうだ。
お前なら出来るだろうだって、何ていい加減な親だ。
作戦は、火炎瓶を投げ込んで敵を混乱させ、一色隊と豊田抜刀隊が切り込むことになっている。
深夜に襲撃しようと考えていたが、一色殿から火災が発生した時に深夜だと消火活動をしにくいということで明け方の日が昇る直前に襲撃を開始することにした。
一色殿も武将なのだとちょっと見直した。脳筋なんて思っていてごめんなさい。
・・・・・
さて、作戦開始だ。僕はアメリカではアトラトルと呼ばれている手投げ槍装置を使って風上の2か所から槍に火炎筒を取り付けて投げ込んだ。
これって単純だけどかなり飛んでいくんだよね。普通の人で100m以上、慣れてくると150m以上飛ぶようになる。火炎筒を付けているから飛距離は落ちるけど、それでも100mは飛ぶ。
3~4発ほど投げ込むと屋敷から煙が出てきた。火炎筒と呼んでいるが現状では煙ばかり出てきてあまり燃え広がらない。
油の量を変えたりして試していたけど音だけ大きいか煙がたくさんでるかのどちらかのパターンしかできない。
今回は、音が大きい物を数発撃ちこんだ後、煙が多い物をそこそこ投げ込むことにしている。
僕としてはナパーム弾を意識して作ろうとしているだけど、あれは石油が必要なはずだから油だけだと難しいかなぁ。
これから頑張って改良しよう。
それはともかく2か所から煙がもくもく上がっているのを確認して、小助達数名が塀を乗り越えていった。
2mほどある塀を軽々と乗り越えるなんてまるで忍者だなぁ。
なになに?若様が忍者とは麻の木を毎日飛び越えて跳躍力を鍛えると言っていたので、実践させています だって。えっと、庭にある木だよね。3m近くになってない?さすがに今は飛び越えられないから苦無で足場を作って乗り越える訓練をしているだ・・・
人間はやればできるってことだねOrz...
次は歩き巫女でも提案してみようかな。旅芸人の一座でもいいなぁ。藤あたりに説明したらいい感じに仕上げてくれるかもしれないな。
あっ、門が開いて一色隊が突っ込んでいった。
隆俊率いる抜刀隊は裏門担当なのでもうちょっと待機かな。
あれ、裏門も空いたらしい。小助達が裏門側から戻ってきているのが見える。
小助達は本当に忍者みたいだなぁ・何が出来るのかを後で詳しく聞いてみよう。
そうこうして半刻もしないうちに屋敷は制圧されたみたいだ。
屋敷の安全も確認されたみたいだし、僕も証拠探しに行きますか。
・・・・・
1刻後、証拠が集まった。この領は、鎮西探題 北条英時が領地の親分らしい。英時の部下から地頭 藤原氏に宛てた手紙には『災害により被害を受けていることは分かったが、年貢を減らすことはできない。周り特に益城、宇土あたりは豊作となっているのでそこから分捕ってこい。』と書かれていた。
また、他の手紙には分捕りがうまくいっていないことに対するお叱りの手紙まであった。
これを証拠にどのように訴えるかを親父殿、御爺様と対応を決めよう。
ここまで証拠が揃っていたら、いくら北条といえども言い逃れできないだろうしね。
次に八代郡の取り纏めである
家弘は、逃げ出せないように手足を縛られたまま僕の前に転がされた。
その男は転がされてもなお太々しい笑みを浮かべており、自分が上位者だと信じているように見える。
僕は、皆の前に出て、質問を始めた。
「俺が豊田九郎である。家弘、この書状通りに北条殿の勧めで益城郡を狙ったことは間違いないな。」
「ここは鎮西探題 北条英時様の領地であるぞ。北条様に逆らうのか。」
「北条殿に逆らうのではない。攻められたから攻め返すのだ。歓喜光院領に攻めてきたということは、主上に逆らうということで良いか。お主の言うことはそういうことだろう。」
「ふん。北条様に逆らうとどうなるか身をもって味わうがいい。」
全くこたえようとしない態度に隈部隆俊が刀に手をかけたが、隆俊を手で制した。
一色殿は無言で睨みつけている。
これは話し合いにならないな。取り合えず蔵に閉じ込めておこうかな。
親父殿や御爺様と相談して今後のことを決めないといけないかな。
僕は、八代郡制圧のため動けないので、一色殿と連名で親父殿と御爺様に手紙を出すことにした。
※※※※※※※※※ 数日後 ※※※※※※※※※
藤原の屋敷の一室に親父殿と若い兄ちゃん、一色殿と僕が車座で座っていた。
御爺様は、腰の状態が悪いのと周りの領地の応援で来れないらしい。
僕が不思議そうに見ているのが分かったのか、兄ちゃんが名乗ってくれた。
「俺は、
「こちらこそよろしくお願いいたします。麒麟児?」
「知らんのか。親父殿が良くお前の事を自慢しているぞ。」
??? そんなことしてたのか。親父殿に目を向けるとしれっと目を逸らされた。
そして、話題をそらすかの様に親父殿が話し始めた。
「九郎、八代郡の状況はどうなっておる。」
「はい。小早川殿に先導してもらい八代郡の各村に対して降伏勧告を行っています。すぐに降伏した場合は所領安堵としていますので、各村々での抵抗はほぼありません。
抵抗された場合は、近隣の村の者にその村を包囲させ、先に進んでおります。
後、数日で幾つかの村以外は全て降伏するでしょう。」
「よし、分かった。さてこれからどうするか。九郎は何か案があるか。」
親父殿が無茶ぶりをしてきた。他に武重兄上とかいるでしょうに。一応案はあるので言ってみようか。
「えぇと、まず北条英時殿に状況を伝え、八代郡の武将、民衆に対する身代金を要求すべきかと考えます。ざっくりと試算した資料がこちらになります。」
僕が資料を出すと親父殿達が覗き込むようにして金額を確認し、その後に驚いた顔をする。
まぁ、そうだよね。1人200文としても1万人以上いるから、5000貫文以上になるからねぇ。
「この試算資料を元にした身代金を要求しても北条殿は拒否するでしょう。そこで主上の土地を襲う示唆をしていたことも知っている伝えます。北条殿といえども主上と争うことはしたくないでしょうから、交渉には応じてくるでしょう。
そうしたら、身代金を金額で支払うか、八代郡を15年菊池に貸すことで支払うかを選ばせます。土地を貸す場合は、復旧作業は全て菊池にて行い、15年後には立派な田畑となった状態で返すことを約束すれば、交渉が決裂することはないでしょう。
北条殿の面子が必要ということであれば、貸し出しを20年とし、3年目からは年貢の5割を北条殿に支払う事でも菊池としては採算が取れるはずです。」
「うむ。さすがじゃ。さっそく北条殿に使いを出すとしよう。」
※※※※※※※※※ 1か月程後 ※※※※※※※※※
僕は今、大宰府にある安楽寺天満宮(現在の太宰府天満宮)に来ている。
なんで僕が大宰府に来てるの?北条との交渉は親父殿と武重兄上の仕事だったはずだ。
3日ほど前に武重兄上が現れ、お前も来いと連れ出され、あれよあれよといううちに連れてこられた。
その為にいつもの護衛はおらず、親父殿の連れてきた兵に守られている。
これから北条方の使者と交渉をするらしい。
現状は、身代金支払い案と八代郡仮受け案のどちらの案でも妥協できずに揉めているようだ。
神社の一室に座らされていると奥から壮年の男が従者を連れて入ってきた。
男はどっしりと座ってこちらをジッと見つめ、観察している。
誰だろうとこちらも見ていると、入ってきた男に親父殿が僕を紹介した。
「英時殿。これが息子の九郎でございます。九郎、挨拶をせい。」
「菊池九郎にございます。お見知りおきいただきたく思います。」
「お前が九郎か。儂が鎮西探題 北条英時である。此度は配下の者が迷惑をかけた。」
おい、いきなり本人登場かよ。しかもいきなり謝ってきた。武将って謝らないイメージがあったのだけど、この人は懐が大きいのか、何か狙っているのか・・・
佇まいを見る限り鎮西探題を10年以上勤めているくらいだから器が大きいのだろう。
「いえ、なんとか押し返しましたゆえ。領内は、大事にはなりませんでした。」
「そうか、それぐらい菊池の麒麟児にとっては簡単な事であったか。」
「いえ。とてもそのようなことはありません。」
麒麟児?僕は親父殿をキッと睨んだが、親父殿はニコニコとしていた。その横で武重兄上が苦笑いしている。
これは、親父殿が周りに言って回っているに違いない。後で問い詰めよう。
そんなことを考えていると北条殿がまた、話しかけてきた。
「お主を呼び出したのは他でもない。身代金のことだ。菊池殿から聞いているが身代金の額が大きすぎる。ちと負からんか。」
「他の案となると、今後は藤原殿の代わりに菊池が八代郡の全体管理を行う案はいかがでしょう。この案ですと3年後から20年後まで7割の年貢を納めし、その後は今まで通りの年貢を納めることが出来ます。
この案の良いところは、周りから見て藤原殿が私共に変わっただけで、北条殿の瑕疵が周りから見えないことです。」
「うぅむ。絶妙なところを突いて来るの。10年後まで7割じゃ。」
「それでは、元が取れません。7割支払うのであれば、12年後まででお願いします。」
「よかろう。藤原は引き上げる。後任は九郎殿とする。」
そういうと、横にいた小姓に命令し、書類を作らせ始めた。
げっ僕の仕事が増えた。僕は元服前だし、実務は親父殿に任せよう。
そう思って親父殿の顔を見たら、ポカンとした顔で僕を見つめていた。
話に付いていけなかったのかな?
※後から聞いたら難航していた交渉が北条殿と僕の交渉であっさり決まったので吃驚していただけらしい。
小姓に書類を作らせている間に北条殿がまた話しかけてきた。
「九郎殿はどこで交渉術を身に付けたのじゃ。」
「えぇと、商人と売買交渉をしていて自然と身に着きました。商人は粘り腰があるので大変です。」
実際は、前世の営業職の経験だけどね。ごねるクライアントを宥めすかしてうちも損しないギリギリの交渉をやらされたなあ。
いかんいかん、交渉に集中しよう。
「そうか。商人と交渉して身に着けたか。道理で武士の話術と異なると思ったのわい。武時殿、良い息子を持たれましたね。」
「いやぁ。自慢の息子です。これから武芸もビシビシ鍛えるつもりです。」
げっ、武道は最低限でいいや。僕は前線に出ない予定だし。
親父殿の扱きをどうすれば受けないかを考えていると、北条殿と武重兄上がこちらをニコニコと見ていることに気が付いた。親父殿は渋い顔をしている。
どうやら僕が嫌がっているのが顔に出ていたらしい。
うん。周りを見なかったことにしよう。
書類が出来上がり、北条殿と親父殿が署名し、それぞれに持ち帰ることとなった。
これで今回の交渉終了だ。
ゆっくり博多の街を見学してから帰りたいなぁ。
えっもう帰るの?
僕はせっかくなので博多見物したかったが、今後の事を話し合うという親父殿達に連れられて菊池城に寄ってから帰ることになった。
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