3話 ご近所さん

※※※※※※※※※ 1226年春 ※※※※※※※※※


農繁期に入り周りは、川原での菜種取りや田植えなどで忙しそうにしています。

今年も菜種油がたくさん採れるといいなぁ。


寺子屋の卒業生も3期目を迎え、やっと数字と文字が理解できる部下が13人出来ました。やったね。

それで卒業生の中でも優秀な人間に会計と治水を教えています。

水田も合わせて行いたかったけどすぐに真似されるのでちょっと後回し。

人が育ってきたからようやく内政を丸投げできるね。


えっ 確認は若様にして頂かないと困ります。

仕方がない全部をひとりで確認できないから、3人は僕の従者兼会計係として付けよう・・・


茜(9)、藤(10)、秋(8)!何で女の子ばっかりになるの?

えっ 男は現場で作業員と対等にやりあえるから。また、一番優秀な者から3名がこの女の子たち!

そうだったね。じゃあよろしく頼むよ。


武辺者も親父から2名貰いました。

城 隆敏じょうたかとし隈部 時春くまべときはるです。2人とも家老の一族であり、その中でも刀槍の技に優れているそうで僕の先生や川原者から召し抱えた力自慢の者たちへの指導もしてもらってます


何で茜たちも加わっているのかって?

僕の護衛もやるそうです。

ちなみに僕より断然強い。いつだって女性は強いものです。


ちなみに鎌倉時代は肉食OKだって。家畜は食べないけど野生の猪や鹿は食べていいそうです。

てなもんで川原者の中で狩りが得意な者は鳥獣班としました。

ちなみに他の川原者で6歳以上の子供は寺子屋、大人は工作班に組み込んでます。


工作班って言っても荷運びや木工、川の堤防作りがメインです。


そうそう、呼び寄せた鍛冶師を使ってスコップや鍬を作ってみました。

やっぱスコップって万能だね。

河川工事が捗る捗る。

このままいくと後1年で堤が完成しそうです。


でも出来なかったこともあって、白石はすぐには手に入らなさそうです。

まぁ肥料は油粕から作っているので代用できるけど、硝石は時間がかかりそうかな。

現状だとまだ情報秘匿が完ぺきにできないので、ゆっくりと進めていきましょう。


それから新兵器も開発してるよ。

ああ 丁度、木工の紀介に頼んでおいた物が出来たみたい。


「若様、言われた通りに弩を作りましたよ。矢も。これ使えるんすか?」


弩って今風に言うとクロスボウだね。


「紀介、これはこうやって使うんだよ。」


僕は紀介に説明しながら弓を引いてもらう。そこに矢を乗せて的に向けて打ってもらった。


「ひぇぇぇ 飛んでった。だけんど弓に比べて手間がかかるんでねいかい。」


「そうだよ。だから数で押し切ろうと思っているんだ。弓は慣れた者が使うと連射できるけど素人が練習しようとすると時間がかかりすぎるからね。」


そうなんだ。弓って僕も練習しているけど中々まっすぐに飛ばせられないんだ。

僕は武士の家の子だから子供のころから練習しているけど、工作班の男たちは練習なんかしていないからね。

一から弓を練習させるより弩の使い方を教える方が早い。


油もあるし火炎瓶モドキを作ってみよう。

クロスボウを改造して火炎瓶を飛ばせるようにすれば防衛線とか役立ちそうだしね。


素人集団を一人前の自警団に仕立て上げようと思ったら使いやすい武器・防具じゃないとね。

そうそう、木の大盾と槍も用意しようと考えているんだ。

信長が使った長槍だね。信長は5メートル以上の槍を使ったそうだけど、そんなに長いと使いこなすことがすぐには無理そうだからとりあえず3メートルの槍を準備する予定。


今いる30名の工作班を15名長槍兼クロスボウ係、残りの15名を盾係にして陣形を組ませる構想だ。

やってみないと旨く行くか分からないけどね。


「紀介、とりあえず弩を30、矢を出来る限り作ってくれ。」


「へい。あのぉ、木工ができる人を増やしてもらえませんか。スコップの柄や鍬の柄、さらに弩を作るとなると人が足りませんです。」


「紀介、よそ者でも良いから木工を出来そうな者に心当たりはないか?」


「上流に何人かおります。」


「そいつらを呼んできてくれ。面通しをして問題なさそうならスコップや鍬の柄を作る担当にしよう。

弩は、機密事項なので紀介たち初めからいる者で作ってくれ。

うまくスカウト出来たら柄を作る工場を別に用意する。」


「スカウトって何ですか?」


「取り込めたらということだ、気にするな。」


「へい。声を掛けてみます。」



※※※※※※※※※ ある日 ※※※※※※※※※



お抱え商人である金吾が面会したいと言ってきた。


「石鹸の売れ行きが好調です。なんでも博多から機内や関東へ運ばれ、公家の姫や上級武士の姫に人気が高いようです。

私のところにもっと売ってくれだとか、作り方を教えろだとかが多くて困っております。

菊池様のお力で抑えて頂くことはできませんでしょうか。」


「そんなに人気なのか。分かった。親父殿に相談してみよう。」



・・・・・


そのまたある日、僕は親父殿、御爺様と3人で謁見の間にいる。

要件は、先日、金吾から依頼された石鹸増産と金吾への圧力軽減だ。


まず圧力軽減については、石鹸を菊池家が管理することとし、その管理を代理で僕が行うことになった。

表向きの管理は御爺様だけどね。


石鹸増産は、材料の問題があるので来年からとさせてもらっている。

来年からは菊池領のあちこちで菜種の栽培をしてもらえるらしい。

親父殿と僕の共同で銭を出し、親父殿が買い取る体にするらしい。

油絞りの器具を増やさなければいけないので、石鹸用の油を搾る作業場の移築も行うこととした。

ちょっと離れているが石鹸の作り方を流出させないため矢形川の上流に砦を築きそこを新作業場とする予定だ。

来年の春までに砦の暫定築城を予定している。

出来るかどうかわからないけど最終的には石垣のある城にしたいと思う。

今の作業場は、売却用の油取の作業を行うためにそのまま残す。石鹸工房を移設したら油絞りの器具を追加で設置する予定だ。


また、作り方を秘匿するために豊田の荘が歓喜光院領(天皇の荘園)であることを利用して後醍醐天皇ごだいごてんのうへ石鹸を献上しする予定だ。

天皇献上品となればさらに有名にはなるが、有名に成った分だけチンピラを追い返しやすくなるだろう。

外交関連は、親父殿と御爺様に任せておけば良いだろう。

僕は砦作成に取り掛かろう。


なんか仕事がどんどん増えている気がする・・・・



※※※※※※※※※ 1226年初夏 ※※※※※※※※※


うだるように暑い。

戦国時代は小氷河期だったとあるが鎌倉時代末期は関係なかったみたい。

そりゃそうだよね。関ヶ原の戦いまで200年以上あるしね。


というわけで夏バテ気味の九郎です。


暑い時に少しでも涼しくなる作業をしよう。ということで御爺様と共に隣の嘉島村にやってきました。

御爺様の妹の春慶尼しゅんけいに様が嫁いでおり、現当主はその息子だそうです。

血縁があるのできっと一緒に治水工事が出来るでしょう。


一色義道殿の屋敷に着きました。

春慶尼様が門の前まで迎えに来てくれました。


「御兄様、お久しぶりです。九郎も良く来ましたね。義道が奥で待っていますよ。」


そう言うと客間に案内してくれました。

奥にいる筋肉隆々な若い男性が一色義道でしょう。

春慶尼様は一色義道の横に座ります。

僕は御爺様と共に対面に座りました。


「竹崎殿、本日は治水の話と聞いているがどの様なものですか?」


「それはこの九郎から説明しよう。九郎、頼むぞ。」


「はい。私から説明させていただきます。」


僕はそう言うと懐から堤防の図面を取り出し説明を行った。


・・・・・・・・


「竹崎殿、話は分かった。だが、我が領ではここに書かれている金銭を用意できん。また、金銭を借りる事もせん。

邪魔はせんのでそちらだけで行ったほしい。」


「それであれば、嘉島村側の堤作成に伴い増える土地をこちらが7、そちらが3とすることでいかがでしょう。」


「無理だの。後々の争いのタネになるだけだろう。止めておけ。」


「一色様、こちら側だけでは片手落ちとなります。もう一度 御考え直しいただけませんか。」

僕は頭を下げて頼み込んだ。御爺様が頭を下げるのは棟梁として問題があるだろうが、童の僕が頭を下げる分には問題ないだろう。


「九郎殿。童といえども武士が簡単に頭を下げるものではない。」


「いえ。豊田の荘の繁栄を考えれば私が頭を下げるくらいどうということはありません。ご再考頂ければ幸いと存じます。」

僕は、そういうともう一度頭を下げた。


「竹崎殿 申し訳ないが、話は終わりだ。お引き取り願おう。」


「分かり申した。一色殿 では。」


僕は御爺様に促され、一色家の屋敷を後にするのだった。



※※※※※※※※※ 一色家 ※※※※※※※※※



「義道。私はいい話だと思ったのですが、なぜ受けなかったのですか。」


「母上。あの川が堤を築いた程度で氾濫しなくなるとお思いですか?子供の妄言にいちいち付き合うことは出来ませんよ。

野分が怒った時に分かるでしょう。必要ならその時に協力してあげましょう。」


「そうですか?義道がそう言うのならそうなのでしょう・・・」


「話は終りですか?私は少し領内を見回ってきます。」


一色義道は豪快に笑って部屋を出て行った。



※※※※※※※※※ 竹崎家 ※※※※※※※※※


「断られてしまったのう。これからどうするのじゃ?」


「断られてしまったものは仕方がありません。こちらの側のみで出来る案に切り替えるだけです。

なに、図面はやり直しになりますが、作業は減るのです。次の野分までには間に合うでしょう。

それよりも片側だけ処置をするのですから逆側の氾濫は大きくなるかも知れません。

その時に一色様はこちらに頼ってくるでしょうか?もしくは逆恨みなどされるでしょうか?」


「う~ん。妹がおるから頼ってくるとは思うがのぉ。ただ、義道殿も若いでの。九郎の案を否定しておいて面子が立たんと考えるかもしれんの。」


「それは仕方が無いですね。御爺様と春慶尼様の繋がりにかけるしかありません。御爺様、お願いします。」


「うむ。気を配っておこう。」


うん。ご近所さんとトラブルになるのは嫌だから春慶尼様に御爺様からと言うことにして何か贈り物をしておこう。

御爺様にも一筆書いてもらえばいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る