2話 豊かになろう

※※※※※※※※※ 1か月後 ※※※※※※※※※


僕の周りの人間関係が分かってきた。

僕は、妾の母と御爺様と3歳になる弟と暮らしているようだ。

母の名前は、豊の方、弟は千代丸というらしい。

御婆様は、既に亡くなっており母が家の中を取り仕切っているらしい。


父は母に会いに月に何回か豊田の荘を訪れているようだ。

僕はあんまり会わないけどね。


そうそう、今日は屋敷の隣の作業小屋が出来たと聞いて見に来た

これで紀介が作業にかかれるな。

作業小屋は、屋敷と住居スペースである長屋に挟まれた場所にある。

屋敷から長屋までは塀で覆っているので大雑把だが情報秘匿を考えた作りとしている。

作業場の秘密を隠さないといけないからね。

そのうちに空堀なども作る予定にしている。

そうそう、作業員の中でまじめに働いていた人足を20人ほどそのまま警備員として雇ったよ。

作業場の秘密を隠さないといけないからね。

給料は、紀介と同じでおなか一杯のご飯。ブラック企業も吃驚だけど、今の時代はおなか一杯食べれるだけで幸せだそうだ・・・


これは余裕が出来たら食料自給率の改善もしないといけないなぁ。

でもいきなり水田とかして失敗するのも嫌なので実験してみるところから始めよう。


まず、第一弾として菜種を集めることを川原者にお願いしよう。

んっ?農家の副業にもしたいって? じゃあ、取ってきた物を屋敷で買い取る方式にしようかな。



※※※※※※※※※ 数か月後 ※※※※※※※※※



油搾木あぶらしめぎ式を使って油を搾ると思っていたより多くとれた。

御爺様に商人を紹介してもらい油を見せたところ菜種油は珍しいらしく思ったより高値で引き取ってもらえることになった。

製法を聞きたそうにしていたが、秘伝のため教えられないと言っておいた。

また、他に商人を作る予定があるので出来たら呼ぶので楽しみにしてほしいとも伝え、伝手が途絶えないようにした。


秘密がバレないようにしないといけないから、御爺様に許可を貰って作業場所を警護するようにしよう。

冬に蒔くための種も保管する場所をつくらなきゃだし、もう少し作業場所を整備しないとね。



「さて御爺様、これが今回の決算でございます。」


「決算とはなんじゃ?」


「決算とは、今回の油絞りを行ったことによる収支を纏めたものです。」


「収支とはなんじゃ?」


「収支とは・・・


半時後


「もう良い。分かった。この値が今回の儲けじゃな?」


「その通りです。」


「ふぅ、疲れたわい。九郎はこれで満足したかの?」


「ええ、1つ目は成功ですね。それでこの儲けで関わった河原者を召し抱えようと思います。そうすることで油絞りの秘伝を我が家から流出することなく儲けることが出来ますよ。」


「あい分かった。これは九郎が作った金じゃ。好きに使うがよい。」


「じゃあ、屋敷の横の作業場の警備を厳重にしますね。

そう言えば、川辺に田が無かったのですが、どうしてですか?」


「それはのう。あそこは三船川と緑川が交わっておるので良く氾濫するんじゃ。水量が多すぎてとても開墾できん。」


「そうですか。じゃあ、スグではないですが、私が治水しても良いですか。」


「向こう側の嘉島村かしまむら一色義道いっしきよしみちが治めている土地じゃから断りは必要じゃろうが、その母の春慶尼はワシの妹じゃから先に伝えておけば良いじゃろ。

治水できるならやってみよ。治水する前にワシに言え。一色に話を通しておく。

まぁ、あそこを治水することは難しいじゃろうがのう。」


「ありがとうございます。頑張ります。」


領内を見回った時に水田がやけに川から離れていることを見つけたんだ。

僕のいる豊田の荘は、700石の収入があるんだけど、川の近くは荒れ地になっているからどうよく見ても農地候補の2割しか使っていない。

治水しても全部を使えるようになるわけではないと思うけど現代知識を使えばもうちょっと使えるようになると思う。

ただ、緑川って平成の時代でも洪水が起こっているから完璧な治水は厳しいだろうけどね・・・

でも僕は、加藤清正かとうきよまさが構築した清正堤、轡塘くつわどもを知っていたので予算さえ取れれば何とかなるだろうと考えている。

完成形を知っているんだ。何とかなるだろう。


僕としては、爺様の許可も取ったし、紀介たちに協力してもらって作業場と宿舎を改造しようっと。

他にも石鹸やシャンプー、リンス、へちま水なども開発を始められそうだな。

まぁ、まずは情報が漏れないように作業場周辺からだけどね。



九郎は、その日の家に紀介や油作りに関わった者を召し抱え、急いて宿舎と塀を作った。

そうして、次々と商品を売り出すために商人を呼びつけるのだった。



※※※※※※※※※ ある日 ※※※※※※※※※



「良く来たな。金吾きんご


僕は、背が高くひょろっとした若い男と向かい合っていた。

金吾は、御爺様と取引をしている博多商人で先代が作り上げた縁を大きくしようとしている新進気鋭の商人らしい。


「若様はいつも商売のタネを頂けますので、お呼びがあればすぐに駆け付けますよ。」


「どうだ 商売は順調か?」


「へぇ、これが今月の配当になります。しかし、便利ですねぇ。若様が考案された複式簿記っていうのは。どのくらい儲かったのかが一目で分かるようになりましたよ。」


僕は、金吾に複式簿記を教え込み、それをもとに配当金を受け取るような契約を結んでいた。

金吾は満面の笑みで配当金の入った袋を渡してくる。


「まぁ、大福帳と比べて一長一短あるがな。複式簿記は使えるようになるまでが大変なんだよな。便利だがすぐには広められない。」


僕もニコニコしながら配当金を受け取った。

このシーンだけ抜き出すと悪代官になった気分だね。


「そうですね。私も若様から直接教わってやっと作れるようになりました。これを誰かに教えるなんてとても出来ません。」


「何とかならないものかなぁ。」


「そうですよ。若様が教えればいいんですよ。」


「ん?」


「出来そうな人を集めて若様が直接教えればいいんですよ。」


「寺子屋みたいなものか。」


「寺子屋って何ですか?」


「気にしないで。儲けもあるし何とかなるかな。金吾、お前の所の者もついでに教えてやるから銭を出せ。博多の商人仲間にも声を掛けてみろ。但し、一度に教えられるのは5人までだぞ。」

「へい。スグに集めてまいります。」


「いやいや、そんなに早く集められても場所がないよ・・・」


「場所もこちらで用意します。」


なんか異常に食いついてきたなぁ・・・

いらんこと言ったかな。


※※※※※※※※※ その年の冬 ※※※※※※※※※



あぁ 疲れた・・・

失敗した。忙しすぎる・・・

ブラックな報酬で周りを働かせているけど自分がブラック状態になることは勘弁してほしい。

まぁ 自分で言い出したことなのでやっちまった感が大きいけど・・・


でも頑張った報酬はあるよ。2回目の教師役が終わって、1回目受講者の中で優秀な人員を教師役として雇えるようになった。

商人から派遣されてきている人員もいるけど商人とお話し(強要)して快く送り出してもらった。

ぶっちゃけて言うと金銭でトレードしたともいう。


まぁ、僕の方からも授業に農家の次男坊以下で優秀そうな者や川原者の子供も四則演算から教え込んだ後に受講生として放り込んだから、うちの領地の内政を来年からは任せられるようになるしね。

まぁ子供はもうちょっとかかるかも。将来性を見越しての投資だよ、投資。


授業をしてみて思ったんだけど、皆真面目だよね。週6日授業にしているんだけど、休みの日に教室に誰かいたのでちょっと覗いたらそのまま捕まって、補習授業をすることになりました。

その時から休みの日には教室に近寄らないようにしてます・・・


内政についても酷くてうちの領地の税金って庄屋任せで大雑把なんだよね。

御爺様は、感覚である程度の予測を立てている様なんだけど聞いても感覚重視過ぎて良く分からなかった。

また、寺社町からの税金なんか予算が足りなかったときに矢銭を取っていたようなんだけど、これも不安定になるから寺と話して毎月の利益から税金を取ることにした。

関所での関銭なんかも止めて自由に往来できるようにした。


関銭を止めたいって言った時に御爺様に凄く反対されたけど、税金が下がるようなら僕が補充するって言って何とか認めさせた。

実際にやってみると逆に税金が多くなったみたいで吃驚してたけどね。



※※※※※※※※※ 1226年春 謁見の間 ※※※※※※※※※


そうこうしている内に親父と約束した1年が経過した。


「父上、九郎にございます。本年もよろしくお願いいたします。」


「うむ。九郎 1年たったがどうであった。」


「これに結果を記載しております。」


僕は、今年の油売りの利益を説明した。


「ほう、なかなかのものじゃのう。さて九郎。他に言うことはないかの。」


「ございません。お約束の通り献上いたします。」


「・・・まあ良い。そちの儲けじゃ。何か欲しい物はあるか?」

親父殿は、ギロリと睨みながら、半ば呆れた口調で尋ねた。

これ絶対他の収入もバレてるね。

バレてるついでにせいぜい高く売りつけるとしますかね。


「油作りの秘儀を守るための忠義の厚い武辺者と情報を集める草の者をいただきとうございます。後は八代にある白石と取らせてほしゅうございます。さすれば次回からは全ての利益の半分を献上しましょう。」


「ようも遠慮なく言ったものよの。しかも次回からとな。もう良い、相分かった。武辺者と草の者は手配してやる。白石の件は直には返事できん。しばし待て。」


「承知しました。」



※※※※※※※※※ 謁見後 縁側で ※※※※※※※※※



あぁ終わった終わった。これで1年のんびり好きなものを作って暮らせる。

うん、もう分かっているよ。これが夢じゃないくらい・・・


いつまでたっても覚めない夢は夢じゃないからね。

僕は戦場に出ることが怖い。そりゃあ武将の花形は戦場で武功を挙げることだよ。

でも令和に生きていた日本人だもの。

どうにかして戦場に出なくて済むようにすることを考え中なんだ。

その為にはまず、親父を死なせないことが第一だと考えている。

史実だと親父は、鎮西探題ちんぜいたんだいでの裁判に負けた後、1333年3月に鎮西探題に乗り込んでそのまま乱暴狼藉し、少弐しょうに、大友に援軍を頼むけど援軍が得られないまま鎮西探題と争って負けたんだ。


親父を鎮西探題と争わせないようにすることが第1候補、争ったとしても2か月持ちこたえれば鎌倉幕府が崩壊して(1333年5月22日)形勢逆転できるのでそこまで争える力を付けておくのが第2候補。


その為には力を付けなきゃね。

他にも裁判で負けないように鎮西探題に伝手を作っておこう。


・・・


「おい、九郎。何黄昏ているのじゃ。金吾に頼んでおいた鍛冶師に会いに行くのじゃろう。ワシも同席する故、早う行こうぞ。」


「待って御爺様。今行きます。」


まぁボーっとするのは後からでもできる。

まずは戦に行かなくても済むように全力を尽くそう。





何度も言うけど戦に出るのは怖いから嫌だね・・・

ラノベの主人公みたいに華々しい活躍なんて必要ないね。

うんうん。

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