第3話 変わる世間と二人の心

「街頭インタビューです! お二人は今流行りの『家電カップル』ですか!?」

「え、違いますけど」

「えっ……またまた~、そんなあからさまに恋人繋ぎしてるのに!」

「これが我が家の習慣なのです。安全のためですから」

「えぇ~!?」


 ライヤと一緒に買い物に出ると、道端でテレビ局の人に捕まった。

 我ながらつまらない回答で申し訳ないなと思ったが、やけにテンションの高いリポーターはなおも食い下がってくる。


「あの……じゃあ一言だけ! 一言だけコメントいただけませんか!? 今朝発表された『家電娘婚姻法』についてどう思われますか!」

「何ですかそれ?」

「ごっご存知ないんですか!? そうですか……失礼しましたぁ……」


 ようやくリポーターから解放された。

 すたすたと歩き始めたライヤにつられて移動を再開する。

 それにしても、かでんむすめこん……何だっけ。

 リポーターは何の話をしていたんだろう?


「さっき言われてたこと、ライヤ知ってる?」

「……朝のニュースで言っていましたよ? 聞いてなかったのですか」

「そういえば……カップルがどうのこうのとか……」

「はい。私のような家電娘と、人間が結婚できるようになったそうです」


 カミナリが落ちたような衝撃が走る。

 ”結婚”というワードは僕にとってのトラウマだった。


「……流々。世間は変わるものですね」


 幼い頃の僕にとって、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる美少女のライヤは他のどの女性より魅力的に見える存在だった。

 彼女は僕の初恋の相手だったんだ。


 でも、当時の世の中はまだライヤのような家電娘を単なる人形としか見ていなかった。付き合うとか、結婚するとか、恋愛対象として見るのは異常なことだと思われていたんだ。

 その冷たい視線に気付いて以来、僕はライヤを異性として見ることができなくなった……。


「最近は家電娘に恋をする人も少なくないようです。少子高齢化だとか何とか騒がれていますから、政府も需要があるならとに目をつけたのでしょう」


 ライヤはつらつらと無表情で説明する。


「流々も、昔は『ライヤと結婚する』なんて言っていましたね」


 それはいつも通りの表情のはずなのに、なんだか今の僕には違って見えた。


「いや……あの時のは、その……」


 子どもの冗談。

 そういうことにして、僕は周囲の目と自分の気持ちをごまかしてきた。

 だけど……ライヤはどう思っているんだろう。

 そんなことが、いま無性に気になってしまう。


「流々。ちらちら見てるの、気付いてます。危ないので前見てください」

「えっと……うん」


 静かに諭されて、僕は我に返る。

 そうだ……僕らはただの家族。なんにも発展しない幼馴染みたいなもの。それ以上でもそれ以下でもないんだ。今のままでいいんだ。

 そんな風に自分を納得させようとした時、ライヤが繋いだ手に力を込めた。


「あの時、私は『大人になるまで待ってる』って言いました。今も……待ち続けてますよ」

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