間章.悪夢


『残念ですが妹さんは手遅れです。貴方もすぐにこの家を離れたほうがいい』


 感染症を告げるなり、眼鏡付の嘴のようなマスクをした医者は足早に去った。


『仕方ないんだ……』


 扉の向こうで横たわる妹に、ウェインは呼びかける。


 ――兄さんは、私を見捨てる理由ができて嬉しいでしょ?


『ちがう、治療法がないんだ!』


 ――もう病弱な私から解放されるから、ほっとしているんでしょ?


『ちが――!』


 ――はやくこっちに来てよ。この嘘つき


 隔てていたはずの扉が煙のように消えると、そこには病床で手招きする妹がいた。

 その顔は骨のように窶れており、元気な頃は爛々としていたはずの双眸は古井戸の底のように黒く澱み、血の涙が流れていた。


 ウェインは絶叫した。

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