やっぱりみんなで音楽を Part3

 楽器を皆選び、練習を始めてから早くも1週間が経った。三学期が終わって四月頭までの春休みに入った。毎年この時期が皆がはしゃぎあそびまわるが今年は違った。皆朝から晩まで必死で楽器を弾いたり吹いたりしていた。

 レッスンは千寿村内で全て行われて、各パートごとで千寿村会館、守里神社、グラウンド、田圃の脇道で主に交代でレッスンをしている。順番が回ってくるまでも皆各々個人練習をしているため音が絶えることはなかった。

 現在3月17日の14時、守里神社では悠が茂、由梨、佳奈のトランペットパートを指南していた。由梨と佳奈は銀色、茂は金色のトランペットを吹いている。

「いいかい?何度も言うけど楽器を吹く練習で一番大事なのはだよ。ロングトーンをやる意味も何度も教えてあるよね。由梨、言ってみてごらん」

「はい。肺活量を増やすためと、みんなと音を合わせるためと、自分の音域を広げるためです」

「そうそう。よし、じゃあB♭durセット、8拍でスタート」

 悠はメトロノームを動かす。カチカチと左右に倒れるメトロノーム。7回目で息を吐き、8回目で思い切り吸った。そして音を出した。

 3人の音が混ざり合って伸びている。

「佳奈、音が小さい。二人の音量に合わせる!由梨、力入れすぎ、もっとリラックスして吹きなよ。茂、音程が悪いよ。チューナーちゃんとみて音を合わせにいけ」

 厳しく指摘を止まずに言っていく悠に必死に噛みつくように音階を吹き続ける3人。下のシから上のシまで上がってまた下がり終わって吹くのをやめた。

「うん。3人とも音は伸びるようになったね。でも音程、つまりピッチが悪い。まだアンブシュアが整わない。これじゃダメだ。あと1週間これを徹底するんだよ」

「はい!」


 同刻、千寿村会館では皐月と桜がギターで、景がベースのレッスンを受けていた。

3人はメトロノームが鳴り続けているなか、一拍一拍の間に2回音を鳴らし続けていた。8分音符の練習らしい。皐月は赤、桜は緑色のギター、景は黒と黄色のベースをひたすら弾いていた。それを監督している玄丘がトランペットと同じく指摘をしていっている。

「景!ドンドン遅れているぞ。ベースはこの8分音符が主流だ!これを10分20分は楽勝でできないとベーシストなんかにはなれないぞ!!」

「はい!」

 景は疲労の溜まる右腕に力を込めてテンポに合わせた。

「おい!ギター陣!お前らはピックを使ってる分ベースよりも指はキツくないはずだ!気を抜くなよ!」

「はい!」

「うおー!負けねぇ!」

 皐月も力を込めてより一層音量を上げた。

「よし、追い込むぞ!32小節3連符、後32小節怒涛の16分音符だ‼︎5、6、7、8!!」

 玄丘のカウントダウンの後に皆の顔も険しくなり、一拍のうちに2回だった音が3回に増えた。

「これ、きつい…」

「桜、俺まだまだいけるぜ…弱音を吐くにはまだ早いだろ」

 うんうんと頷きながら見ている玄丘は足でトントンとカウントしながら、はかりまた…

「よし、これで最後だ。5、6、7、8!!踏ん張れ‼︎」

 3回から4回になり3人の苦痛の声が止まない…


 同刻人参畑の辺、レッスンの終わった陽介が一人クラリネットの自主練に励んでいた。

タラララタラララタララーン

「だめだ、遅い。指が全然まわってない。十希先輩はもうこのフレーズできてた。俺も頑張らないと」

タラララタラララタララーン

タラララタラララタララーン

 うまくハマらず何度も繰り返す陽介。

「惜しいね。もっとリラックスした方がいいと思うよ」

「俺もそう思う」

 アドバイスの出主はサックスを持った姫香と武だった。

「今日サックスレッスンないんだ。だから二人で練習しよーって思ってたら陽介が吹いててさ。そこサックスも同じことしてるよ」

「そうなんですね。てか武お前、ホルンじゃないのか?」

「そうだけど、響さんて人が君は木管楽器と運命共同体だよ!って言うもんで強制的に木管楽器も教えてもらってる」

「そうそう、武めっちゃ上手いんだよサックス」

「そうなんだ。だったら俺にアドバイスくれよ。俺もっと上手く吹きたいんだ」

 切実に頼む陽介の隣に武は歩いていってサックスのリードを咥えた。不思議そうな目で陽介が見る。

「何見てんだよ。上手くなりたいんだろ?だったら同じフレーズ吹いてる仲間と一緒に何度も何度も合わせた方がいいだろ」

「いいね。吹こう吹こう!」

 姫香もサックスを構えて反対側の隣に立った。

「そうだな。じゃあ、この部分からいいですか?」

 楽譜を指差してサックスの二人も自分の楽譜を開いて確認する。

「ああ、いいぜ」

「よし、楽しみだね」

 陽介はチューナーのメトロノームをつけた。

「5、6、5678」

タッタッタラ タラッタッタラ タラッタッタッタラーララ

 軽快なリズムが続き、例のフレーズが近づいてきた。フレーズの前には1小節休みがある。機転を効かせた武が3拍目で楽器を下げ、4拍目で上げた。それに気づき二人は合わせた。

タラララタラララタララーン タラッタッタララララタラララーン

 3人は吹くのを止めた。3人は音がピタリとハマったのを実感した。

「ハマったよね?今」

「ああ、ピッタリだったと思う」

「俺、こんなにスムーズに指回ったの初めて。なんでだろう」

「音楽マニアのくせしてわかんないのかよ。同じ動きをしているやつとやった方が陽介はリラックスできてるんだよ」

 はっとする陽介は自分が一人で頑張りすぎているのだと気づいた。

「ありがとうな。俺、もっと仲間と一緒にやるわ。トゥッティだったな」

 陽介の心はまた一段と軽くなったように見える。

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