やっぱりみんなで音楽を Part4
3月24日の12時。新月市楽器展示館は15脚のイスが用意されていた。今日は初合奏の日。皆緊張を胸に住ませていた。
指揮者席には坂本がいる。実は坂本は音楽大学出身で指揮術を心得ている。
「さあ、この2週間みなさんは各自自分の担当楽器、中には2つの楽器をやっていた人もいて、練習づくしだったと思います。今日はただ単純にみなさんの成長がみたいんだ。真剣に楽器に向き合い、磨いた力を今日、見せてほしい。よし、まずはチューニングから」
「はい!」
見たことのない真剣な坂本に皆圧倒されているがそれに負けじと意地を見せた。
「ギター、コードB♭」
ジャーーーン
皐月と桜は左手でフレットを抑えてB♭のコードを弾いた。坂本はテンポをだした。
「このテンポに合わせて全音符で弾き続けてて。次ベース、5678」
デューーーン
景もB♭の音を鳴らす。
「ドラム、8分ビート」
ダッダッダッダ
宇宙はスネアを8分で刻み出す。
「クラリネット。5678」
ターーーーーン
「アルトサックス。5678」
ターーーーーン
「テナーサックス。5678」
ダーーーーーン
「ファゴット。5678」
ボーーーーーン
「弦バス。5678」
ブーーーーーン
「次、金管楽器いくよ。トロンボーン。5678」
バーーーーーン
「ホルン。5678」
ファーーーーン
「最後トランペット。5678」
パーーーーーン
全員のB♭の音が重なった。坂本が手を上に上げる。そして手を大きく回して手を握った。それと同時に音が消えた。
「皆さんの音は分かりました。完全にピッチが合っているとは言えません。ですが、気持ちは伝わってきてるよ。満点上げれちゃうね」
みんなの緊張がほぐれた。
「よし、じゃあ2週間の成果見せてね。リラックスだよ。楽譜開いて…特別ベーシックin B♭」
皆楽器を構えて坂本に集中する。坂本も手を構えて降り出す。
「ワン、ツー、ワンツーさんし!」
ツッツツツッツツツッツツツツツツ
バーーーンババババーーン…
宇宙のシンバル1小節から始まり、 B♭とFと Dのハモリが入った。そして曲が進む。皆2週間で得た力を出そうと必死だ。
(入りのインパクト良かったんじゃないかな。トロンボーンはインパクト要員として最適なんだ。俺一人だけど全部薙ぎ倒す勢いで…)ババババーーンババーン…
(今のところピッチは合わせられてる。このまま調整しながら行けば大丈夫のはずだ。大丈夫だ、あのロングトーンでトランペット内の音は統一できている。リラックスだ…)パラパパパララー…
(すごい、みんなで音を合わせるってこんな感じなんだな。佐藤と黒島さんとは低音パートとして合わせてたけど、みんながいるとどうも違う。俺らはテンポキーパーだから、一定に一定に。ドラムに合わせよう)ブンブンブンブブブン…
(腕は連日の練習で痛いはずなのに、今はそれすら気持ちよく感じてる。これが合奏の力なのか?)
(皐月さん気合い入ってる。私もついてかないと。音楽、楽しいな。でも、ていうことは…そっか。やっぱりわたしには無理だよね…)ジャジャジャーンジャジャッジャッジャーン
(もう少しであのフレーズか…陽介、リラックスだぞ)
(大丈夫よねぇ、あの後3人で練習してたものねぇ。私も入ろうか悩んだけど、随分と楽しそうだったから崩すわけには行かなかったから…)
(よし、くる)タラララタラララタララーン タラッタッタララララタラララーン
(完璧じゃない?これ)
皆それぞれ思いの募った曲はまもなく終わる。最後は音が1小節ずつ増えていくベルトーンだ。
タッタタタタタタタタタタタタ…
ドラムの音がドンドンと弱くなっていくのと同時に音がなくなっていく。
皐月、由梨、結斗、純、景、稑が音を出した。( B♭!!)
バーーーーーーーーン
茂、文香、十希、姫香、桜、佳奈が続く。(F!!)
パーーーーーーーーン
佳奈、武、陽介も入る。同時に宇宙のローリングが入る。
(D!!)
ターーーーーーーーン
デュルルルルルルルル
クレシェンドで皆の音が大きくなっていく。そして坂本が大きく手を振れ上げ、斬るように振り下げる。
ジャン!!!!
音の余韻が館内に響き渡る。皆やり終えたという達成感と呆気に取られていた。
そして一息つき坂本がとうとう口を開けた。
「皆さん、凄いですよ。2週間でこのクオリティーは俺も驚きました。このまま行けば必ず、村を守れる。俺が補償するよ」
千寿村に戻った15人はこれからの作戦会議を始めようとしていた。茂が皆の前に出た。
「みんなおつかれ。今日の演奏は俺らの始まりだ。これからどんどん精進して、この村を救おうぜ!」
「当たり前でしょそんなの!」
みんなの意志が一つになった。そんな矢先、桜が手を挙げ、前に出た。
「こんな時にこんなことを言っちゃうのはダメだと思うけど…私は楽団を抜けます。やっぱり私は無理だと思います。もう、あの時みたいなことにはなりたくないですからから…」
そう言って桜は家に帰ろうとする。みんなも事情を知っているから何も口出しが出来なかった。そんな中で玄丘が言った。
「桜!俺は桜に何があったのかは知らないから下手のことは言えないが、ギターは持っていけ。お前にはギターがよく似合う。ギターを弾く時の桜は無二だ」
返事はなかった。しかし、桜の使っていた緑色にギターもその場には無くなっていた。皐月と玄丘の表情は緩み、次第に皆も大丈夫だと安堵した。
その瞬間から彼らの楽団あと2ヶ月と2週間先の勝負へと動き出した。
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