やっぱりみんなで音楽を Part1

 波乱が起きた改革会議後、皆さまざまな思いを抱いて家についた。それは波乱を起こした当の本人も同じだった。自分の行動を振り返ると頭が痛くなっていた。本当にこれでよかったのか…。取り返しのつかない愚かなことだったというのは充分承知だ。でもあのまま何もできないというのも嫌だったのだ。音楽は陽介にとっての表現の糧だったからだ。

『もうダメだな…』

『最低だ…』

『やっぱり、許せないよ』

『いつもの顔に戻ってね』

 放たれた言葉が陽介の頭の中を旋回している。由梨と二人で音楽をやることになったが、どうも実感が湧かずイメージも浮かばない様子だ。そう部屋で頭を抱えていると家のインターホンがなった。陽介の母の流奈るなが「はいはーい」と大きな声で出る声が二階の部屋まで聞こえる。

「陽介~、結斗くんきたよー」

え…。陽介は少し怖かった。だけど部屋から出て、階段を降りた。そして結斗に手招かれて家をでて二人で対面した。

「結斗さん、さっきの会議いましたよね。てことは俺に怒ってる…よね?ごめんなさい」

「あー、違うよ。わざわざ怒りにきたわけじゃないよ。そりゃ確かにさ怒りはあるよ。だって俺の兄さん…健斗さ、役員だもん」

 陽介は申し訳なさで顔をうつむけた。それを見て結斗は陽介の肩に手を置いて優しい声で言った。

「落ち込むなよ。誰の迷惑にもなってないじゃん」

「それってどういうことですか…」

「だって、音楽で村を賑わせれなかったらだろ?じゃあやるしかないじゃん。音楽」

 陽介は意外な言葉に驚き顔をあげた。顔をあげた先には太陽のように明るく笑う結斗がいた。

「村がなくなるってことはさ、俺の兄さんの職がなくなるってことなんだ。健斗さ、めっちゃ勉強して頑張って役員のなれてたからさ、なくなったら可哀想じゃん。あとさ、個人的にあの状況であんな凄いことするお前の度胸と、この面白すぎる展開に乗ってみたいんだ。だから俺を陽介の音楽に参加させてくれないか?歌は苦手じゃないと思うからさ」

 結斗の前向きな考え方はグルグルとしていた陽介の心に光を差した。陽介は微笑みを見せて承諾した。

「じゃあ、明日から今後の計画練ろうか!やっぱり仲間は多ければいいからな。勧誘だろ勧誘。」

 そう言い残し手を振りながら帰って行った。

 

 次の日、千寿村の入り口には一台のスカイブルーの車と小型のシャトルバスが停まっていた。

 降りて出てきたのは坂本だった。坂本は何故だかワクワクとしながら村に入り、村の住宅地を歩き回った。

「あれ~、誰もいないなぁ。午前中でみんな捕まえたいんだよなぁ。だから1人見つけれれば大丈夫だと思うんだけれども…」

 独り言を言いながら村を彷徨う坂本。すると一人公園のベンチでココアを飲みふける姫香を見つけた。いつもの姫香からは見られない表情のため、心配になった坂本は駆けつけて後ろから呼びかけた。

「姫香ちゃんここで何してるの?」

「え!あ、英二さん?考え事ですよただの。そういう英二さんこそ今日はどうしてここに?」

 よくぞ聞いてくれたという勢いでニヤニヤしながら回ってベンチに座った。

「昨日とんでもないことになったじゃん?で、その次の日の今日。村はどうなってるかなって思って。音楽は順調かな?」

「うわ、英二さんってもしかして嫌味な性格?音楽が順調なわけないし、村はもう終末の雰囲気だよ。あーあ、どうしようかな本当に。お父さんなんて昨日家帰ってから寝込んじゃった」

 苦笑しながらやるせない口調で村の深刻さを話す姫香に坂本はそうかそうかと流して急に立ち上がった。

「そんな姫香ちゃんに朗報があるんだけど…聞く?」

「朗報…?なんか英二さんニヤニヤしてて怪しい気もするけど…テンション上がれるなら聞かせてください」

 警戒をしながらも聞く姫香にパァッと晴れた顔を見せて坂本は子どものように話し出した。

「ここで音楽をやるって言ったって、一体何ができると思う?会館のピアノくらいしかちゃんとした楽器がないんだから合唱?さっすがにキツイよねぇ…」

 眉を下げて呑気に言う坂本に少しイラっとする姫香が本題を急かす。

「わかったわかったよ。もう言うよ。俺がみんなに楽器を無償で提供するよ」

「ん?」微妙な空気に包まれた公園。坂本の表情は一定で、姫香の表情は微妙な顔で行ったり来たりしている。そしてまとまったのか目を見開いてバッと立ち上がった。

「……………え⁉︎」

「はぁ⁉︎」立ち上がって長い間を弄した末に大きな声を発した姫香に坂本も驚いた。

「え、楽器って、え、何?どういうの?」

「落ち着け?」

 挙動不審な狼狽うろたえをする姫香を宥めた後にまた話を進める。

「どんな楽器って、普通にギターとかラッパとかだよ。実は俺ね、趣味で楽器を集めてるんだ。俺の家の隣に展示館を造ってそこにたくさんの楽器コレクションを飾ってるんだけど、最近コレクション達が使われないのはなんだか可哀想だなって変な情が湧いてきちゃったんだぁ。だからこの機会は最高にいいんじゃないかと思ってね。」

 急なスケールの大きな話に田舎者の姫香には理解が少し難しかった。

(ん?展示館を。え、そんな簡単に造れるの?財閥主だってのは知ってるけど、そんなにヤバいのこの人?)

「そうなんですかー。すっごいですね、その大事なコレクションを提供するって…みんなって?誰のことですか」

 姫香にはこれが一番気がかりだった。唐澤もなかなか思考が読めないが坂本も負けず劣らずで突拍子のない人だから、彼にとっての音楽をやるみんなとは誰なのか。

「え、もちろん俺はここの15人の子どもたちなのかなって思ってるんだけど、違うの?」

 無垢なのか適当に言ったのか、その答えに姫香は複雑な心境だ。

「あ~、15人かぁ…多分それは厳しいかもしれないです。私だって、陽介のこと昨日から少し敬遠しちゃってるから」

「そうかぁ」

 軽い口調で言う坂本の顔は不思議そうな顔をしている。

「敬遠してるって理由でか。残念だな。俺は姫香ちゃんの郷土愛ってもんを買い被ってたな」

「え…何言ってるんですか。私はこの村を…一番…に」

 姫香はいつもの自信に溢れた郷土愛を語ろうとするが喉につっかえがあるのに気づいた。

「この村を一番に考えてる?かな言いたいこと。なんで言えないのかな?今この村を救うためにできる一番って何?」

「ハハ…そっかぁ。敵わないな。うん、そうと決まったらみんな誘わないとね。今度は私が勧誘する番かな。72回目の奇跡を見せようかな。あと、陽介とは仲良くしてたいからね」

 前を向いた姫香はにこやかな笑顔を取り戻して走り出した。それを見てつられて坂本も顔が綻び同時に走ってついて行った。

 走ったその先は村内放送スタジオだった。ややこしい機材をガチャガチャといじった姫香はマイクを用意して大きく息を吸い叫んだ。

「峯田陽介くん‼︎今すぐ千住村会館にきて‼︎音楽をやるぞ‼︎」

 あまりにも豪快な行動で坂本も引くほどだった。

「さっすがは村長の娘だね。そういうことオッケーなんだね」

「いや、この放送は誰が使ってもいいの。でもぶっちゃけお父さんくらいしか使わなかったけど、あってよかったなって今実感した。よし、家近いからすぐ来ると思うから早く私たちも会館行かないと」

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