なんとかするから Part2

(大原、緊急事態だぞ。どこに行く?)

(今考えてるから待って。ていうか茂先輩も郷土愛ナンバー1を自称するなら考えてくださいよ)

(ちゃんと考えてるっつの。それと、自称ではない)

 村内に入った唐澤とその幹部3人、そして姫香と茂。源はその場にはいなくなっていた。その訳は数分さかのぼり2人の打ち合わせにてこんな話をしていた。

「今回の視察なのだが、一つ大原村長に提案があります」

「提案ですか。どうぞお申し付けください」

「今回の案内は姫花ちゃんと茂くんに任せてあげてみてほしい」

 予想外の提案に源ら村の3人は驚き、坂本は興味深そうな顔をした。

「それはどういった理由ででしょうか?」

 うんうんと姫香と茂は首を縦に振った。

「いいですか。千寿村は今、少子化の極地にたっています。今のままのこの村の未来には、若者は何人いるのですか?若者が少ないイコール子どもも少ない、ですよ。そして最終的にこの村は絶える。そうならないために今必要なのは若い家族層を移住させることです。それは今の未来ある子どもたち当の本人達に案内させる方がいいでしょう。とういう訳で、彼ら2人に託させてくれませんか?」

 意志を淡々と説明する唐澤に皆、なるほどと納得した。

「確かに仰る通りだと思います。私は賛成ですが、2人はどうだ?判断は2人に任せるぞ」

 源は2人に委ねるように聞く。迷う2人に坂本が口を挟んだ。

「2人とも、この村が好きならここで頑張ったほうがいいかもしんないなぁ。2人が案内して子どもにとってここは良い場所だってことが雄大に伝われば、大きく変わることなくこの村が盛んになるかもしれないよ。逃していいかな?こんな機会」

 これを聞いた2人の郷土愛の塊はメラメラいと燃え上がった。そして勢いよく『やります!』と返事をしたのであった。

 そして現在に至っている。

(ほんとに私たち大役よ。どうするの、どこに連れてけばいいの?)

(わからん。子どもの環境がなんたらの話だったから、学校か?)

(でもうち小中高一貫だけど大丈夫かな)

「何コソコソしてんの?」

「うわ⁉︎」

 小さな声でコソコソ焦って計画を練っていた2人の前に出立ち唐澤は問いかける。すると唐澤はまるで子どものような顔で話しかけた。

「酷くない?僕まだ23歳なんだよ。歳近い同士内緒話とか寂しいよ」

 15歳と17歳にこの態度をとるため、とられた側の2人はどう対応をすればいいかわからず、少し引きつった。見兼ねた岩倉が口を挟む。

「唐澤さん、子どもと仲良くしたいのはわかりますけど、もう少し地主らしい振る舞いをしてください。この子らも戸惑ってますぜ」

「脳筋ゴリラ…唐澤様が地主らしくないだと…何という侮辱なのですか…」

「テメェは黙ってろ!」

 何としてでも唐澤を肯定していたい田村と、唐澤の行動に対して割と意見したり、抑制する岩倉はこのように衝突することは日常茶飯事らしい。

「ごめんごめん、普通にするよ。茂くん、姫香ちゃん、もしかして僕たちをどこに連れて行こうか悩んでる?」

 爽やかな対応に戻った唐澤に茂はホッとしてこたえる。

「はい。実を言うとさっきはこの村をこのままで改革できると思って頑張ろうと思って引き受けたのですが、実際やるとなるとどこに連れて行ってアピールをすればいいのかがわからず…」

 それを聞いた坂本は「待って」と茂の言葉を止めた。

「茂くん、それは目的を履き違えてると思うなぁ」

 うんうんと頷く唐澤と理解できていない残りの4人。姫香が尋ねる。

「それってどういうことですか?つまりは子どもが安心して楽しく、のびのびと過ごせるというところをアピールすればいいってことじゃないんですか?」

 他3人はそれに同調して頷く。唐澤は微妙そうな顔をしている。坂本はそれを確認してフフっと笑い答えた。

「それはあの村長さんだけで十分だよ。わざわざ君ら2人に任せることないなぁ。雄大が今知りたいのはきっと君たち、千寿村の子どもたちが普段どこで遊んでいるかだと思うなぁ。そうだよね?」

「うんそうだよ。続けて」

 唐澤は坂本に右手でオッケーサインを作ってから、パーの手でにして譲るような素振りを送った。わかったわかったと坂本は説明を続ける。

「子どもと大人では考えていることや見ている世界が同じじゃないでしょ?村長さんにさっき茂くんが言ってた所を案内させたらそりゃ普通に公園とかくらいしかださないよなぁ。そうじゃないんだよね、君たちがよく行く場所なんだよ。どこで、何をして遊ぶのかが重要なんだよ。これは君たちにしか案内できないだろう?」

 さっきまで首を傾げていた4人はハッと納得した様子だ。

「なるほどな」

「模範解答ありがとう、坂本くん。という訳だから2人とも、何も考えないで君らが遊ぶ場所、他の子たちがよく遊んでいる場所に僕を連れて行ってほしいんだ。いいかな?」

 唐澤の真剣な眼差しに2人は元気よく「はい」と返事をした。

「ついでに僕も一緒に他の子たちとも遊びたいな~」

「これは、ただの私欲だろうねぇ」

 戸惑う2人を尻目に坂本は顔をしかめてつぶやいた。


「まずはここ!住宅地の中にドンと広がる野原。端っこにブランコとシーソーだけあるけど、あれはみんな使った覚えないと思います。私もあれで遊んだこと多分ないです」

「じゃあ何なんだよあのブランコとシーソーは、ただのオブジェクトじゃねぇか。ていうか最近の子どもがこんな広い野っ原で遊ぶイメージがないんだが。偏見かこれ?」

「いえ、私たちも村の外の情報くらい知ってます。最近は外で遊ぶよりもやっぱり、SNSとかオンラインゲームで遊ぶ子どもが多いらしいですので、偏見ではないです」

 だよな。と岩倉は落ち着き続いて聞く。

「ならここでお前らは何をして遊んでいるんだ?定番の鬼ごっことかか?」

「そうですね。鬼ごっこもここでしますけど、大抵鬼ごっこは畑の方でやることが多いです。ここでは主に男子がサッカーとか野球をして遊んでいることが多いと思います。茂先輩もここで野球やってますし」

 この広場について語る姫香に対して4人はしっかり相槌をしながら話を聞いている。

「他に何かやってる子はいないの?」と唐澤が聞く。今度は茂が答える。

「運動しに来なくてもここはみんなの交流場って所になっていて、ここに集まって例えばゲームの話をしているグループがあったり、アイドルの話をしたりしに集まることも多いと思います」

「なるほどね、学校以外に子ども同士の交流を深める場があるのが良いね。ところで僕もゲーム好きなんだけど、そのゲームの話をしているグループ教えてくれないかな。僕も混ざr…」

「よし、次の場所案内してくれ」

 唐澤の子どもに対してのコンプレックス発言を遮るように岩倉が言った。

「またオマエは、唐澤様が話している途中だったわ」

「黙ってろテメェは、オマエの親愛なる唐澤様があのまま言わせとけばただの不審者になってたぞ」

「唐澤様を不審者扱いだと?許さないわ」

 また始まった衝突にはもう誰も触れずに次の場所へと歩き始める。


「次はこの自然豊かなエリアを紹介します。俺らは大体こっち方面はどこでも遊んでますけど、特に遊ぶといえばこの田圃の近くだと思います」

「田圃の近くで遊ぶなんて…ここだけ時代が止まってるのかしら。泥臭くなりそうだわ。あら?あそこに座っているのは誰かしら」

 田村の指の先にいたのは田圃の道脇に木の丸椅子に座り、立てたキャンバススタンドにおいたスケッチブックに鉛筆を走らせている文香だった。

「宮岡じゃないか!偶然だな」

「え、深堀さん?と姫香。あとは…あ、そっか。今日は視察だっけ。てことは地主さん?初めまして、須東学校中等部三年の宮岡文香です」

 早く絵を描く作業に戻りたいのか文香は、早々と自己紹介を済ませて体制をもとに戻そうとする。しかしその前に唐澤が返した。

「ご丁寧にありがとう。僕がこの浅葱地の地主の唐澤雄大です。23歳で君たちと歳はそこまで離れていないよね、だからもっとみんなと仲良くなりたいんだ。僕は子どもこそ世界の宝だと思っているからね、子どものことが大好きなんだよ。だからこの村で何か不便に思うことがあったら言ってほしい。大人の僕たちが解決したいからさ」

 ぐいぐい話をしてくる唐澤に対してあからさまに文香は嫌そうな顔をしている。それでもお構いなしに聞いてくるため「特にない」と答えた。

「そっか~こんくらいの時期だと住んでいる場所に対しての不満の一つや二つ湧くものだと思ってたんだけどな。千寿村のみんなは地元愛が強すぎるのかな?あれ、中3ってことは今年から高校生か。もしかして絵の勉教するために村から出るのかな?」

 早く話をやめてほしいといった顔だった文香だったが、明らかに食いついた。

「違います。でも本当は絵を学ぶ学科のある小鷺こさぎ市の大学に行きたかった」

「あ~小鷺といえば、京号けいごう芸術高校か。なんで行かなかったの。浅葱地内だから新幹線ですぐいけるでしょ。それに基準もそこまで高くなかったはずだから誰でも入り易いところだと思うんだけど」

 文香の筆を握る手は次第に強くなっていった。そして唇を噛み、声を大きくして言った。

「だから行きたかった。けど…お婆ちゃんが‼︎お婆ちゃんが私が村の外に行くと寂しいねって言うから‼︎それに私もお婆ちゃんいないと寂しいもん。だから、お婆ちゃんとはまだまだ離れたくない。ここに残ることに決めたの」

 文香は根っからのお婆ちゃんっ子で、お婆ちゃん大好きを拗らせて、村のみんなからは密かに「マザコン」ならぬ、「グランドマザコン」と認識されている。

「お婆ちゃん思いのいい子だね。これからも独自で絵の勉教がんばってね。じゃあまたね。2人とも、次の所に行こうか」

「はい」

 一行は田圃脇の道をずっと歩いていった。1人田村が少し残り文香に話しかける。文香はやっと描けると思った矢先に別の人に話しかけられたためピリッとし出す。

「文香さん、お婆さまが好きなのはよろしいことだと思いますが、で本命の進路を諦めるのは得策ではありませんよ?今なら私が頼み込んで、小鷺芸術高校の方に1人組み入れてもらうこともできます。正直あなたもこんなところで絵を一人で描いているよりも有意義だとわかっているでしょう?それに、ここは…ちょっと臭いと思わないかしら?作業に集中できるとは思わないわ」

「…そんなこと?私のお婆ちゃんを馬鹿にしないでください。それと、私にとってはあなたみたいな都会のけばけばしいオバさまの方が臭いと思います。では、私はそろそろ絵を描きたいので、とっととあちらに行ってください。置いてかれてますよ」

 逆鱗を触れられた文香は静かに、かつにこやかに猛毒を吐いた。いつも毒を吐いている側の田村は酷くたじろいた。

「お、おばさま…な、なによ。わかったわよ」

 動揺を隠せないまま田村はみんなが行った道を追いかけた。

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