なんとかするから Part1

 3月10日の朝のこと、村には珍しい高級車が通っていた。今日は浅葱地の地主と幹部がやってきて視察をして会館で村の改革会議をしていく。普通は半月に一回なのだが、千寿村だけは3ヶ月に一回のペースで視察にくる。何故かというと浅葱地で一ヶ所だけ発展していない千寿村をなんとかして発展させたいからだ。

「相変わらず侘しい村だな。でっけぇ土地だってのによ」

 千寿村の玄関口に停まった黒の外車から降りてきて嫌味を言う黒くギッシリとしたスーツを来た男は、浅葱地役員の幹部「岩倉竜三いわくらたつみ」だ。新たな地主である唐澤雄大にスカウトされた元体育教師だ。スカウトされた身として岩倉はその体力で尾崎の行動の支援をしている。

「侘しいって言い方はないと思うけどなぁ。自然豊かないい土地じゃんか」

 続いて降りてきたのは、岩倉とは対称的なラフなシャツを着た「坂本英二さかもとえいじ」だ。坂本は浅葱地内の小財閥の若き閥主だ。人とのやりくりが上手く、たまに急な思いつきで行動するが度々成功している。そんな柔軟な考えと軽いフットワークを岩倉に評価されてスカウトされた。考えを理解されないことが多かった坂本は自分の考えに興味を持ってスカウトしてくれた唐澤には少し恩を感じている。

「青臭いだけじゃないこんなの。よくわからない虫も飛んでるし、とっとと帰りたいわ」

 文句を吐きながら運転席から降りてきた赤いメガネをかけて不機嫌そうな顔の女性「田村一華たむらいちか」は一般企業で働いていたOLだったが、言葉一つ一つが辛辣なため同期からもすぐに嫌われてしまい社内では入社1ヶ月で孤立してしまった。そんな中、会議のため訪問した唐澤にその嘘をつけない素直かつ的確な発言に目をつけられてスカウトされた。なんにでも毒を含んだ発言をしてしまい疎まれていた田村にとって、それを強みとして受け入れてくれた唐澤には心から忠誠を誓っている。

 田村は車をおりて早々に反対側へまわり、助手席のドアを開けた。

「唐澤様、千寿村に到着致しました」

「うん、ありがとう田村くん。いや~しかしもう暖かいねここは。よかったよ厚着してこなくて」

 言いながら降りてきたのは爽やかな青年だ。彼が浅葱地の地主である「唐澤雄大」だ。その地域の特色をよく理解して、その上それを活かしつつ発展させるという政策を行って浅葱地内15箇所の人口と観光客を飛躍的に増加させることに成功している男だ。また、持ち合わせたカリスマ性と爽やかさで万人から人気のある存在でもある。

「わざわざご足労いただきありがとうございます」

「おはようございます。唐澤さん」

「今日もよろしくお願いいたします」

 玄関口で出迎えたのは千寿村村長の大原源おおはらげんと姫香と茂だ。

 唐澤はニコッと笑顔を見せて3人に近寄る。

「いえいえ、こちらこそご丁寧まお出迎えありがとうございます。姫花ちゃんと茂くんもありがとう。2人とも勉学は順調かな?」

「はい。わたし苦手な日本史でいい点とれたんです!」

「お~凄いね。自分の苦手分野に真正面から向き合うその精神は誇りに持つといいよ」

「俺も変わらず勉学に励んでいます。雄大さん、是非雄大さんがが持っているたくさんの知識を俺にも教えてください」

「うんいいよ。今日は用事があって、午後の会議が終わったらすぐに帰るけど、また次来た時には絶対教えてあげるよ。そうだな、手始めに経済学なんかどうだい?茂くんの飽くなき知的欲求に相応ふさわしいとものだと思うよ」

 唐澤と2人は和気藹々わきあいあいと話をし始めた。残りの4人はそこに入れず、仕方なく話を進めた。

「雄大は子供好きだからさぁ、僕らで先に話進めとこうか。村長さん」

「おい坂本、何度も言うが村長さんって呼び方はやっぱり無しだろう。無礼にも程があるぞ」

「竜三はほんと固いなぁ。オーケー貰ってるよちゃんと。ね?村長さん」

 チラッと坂本は源の方へ向く。ノリについていけない源は困惑した素振りを見せる。

「馬鹿二人組、静かにしなさい。大原様が困っているでしょう。どこでも構わず口喧嘩してみっともないわ」

「おい田村、コイツと俺で二人組にするな。ていうかお前年下だろうが、俺に対しての礼儀はないのか?それに元教師だ、馬鹿ではない」

「ふん、教師と言えど体育教師じゃない。ただの脳筋ゴリラでしょあなたなんて」

「誰が脳筋ゴリラだって?あ?その猛毒生産口にバーベキュー用の鉄串でもぶっ刺してグリルに突っ込んでやろうか」

「何ですって⁉︎」

「またやってるのか岩倉くんと田村くんは。仲が良いな。まあ、大原村長、先にこちらで本日の予定を話しておきましょう。坂本くん、書記を頼めるかな」

「うん。いいよ~」

 口喧嘩を始めた岩倉と田村を尻目に源と、しれっと戻ってきた唐澤は打ち合わせを始めた。

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