音楽やろうぜ Part3

 またまた場所はとび、千寿村住宅地にある、ブランコとシーソーだけがあり、あとはただの芝生が広がる広場。夏になると毎朝ラジオ体操をする村民たちが集まる場だ。

 今日は村のこどものうち、4人が集まっていた。村の最年少の小学6年生「望月佳奈もちづきかな

 村の大人からは親切だと評判のいい「佐川結斗さがわゆいと

 足が速く、村のみんなから配達屋として頼りにされている「黒島景くろしまけい」 

 千寿村の村長の家の次女で、元気ハツラツな「大原姫香おおはらひめか

 その4人が団欒だんらんをしているところにたった今追加されたのが1人が、村の中でただ1人、音楽をこよなく愛し、音楽活動を立ち上げようと奔走する「峯田陽介」だ。

「4人固まってくれてて助かったよ。けど、これなんのグループなの?望月、結斗さん、景先輩はオタクグループだけど、なんで姫香さん?」

「オタクって言い方やめてくれよ。今日は先に俺と望月で昨日から始まったイベントの話してたっけ、2人が途中から来たんだよ」

「やっぱりゲームの話じゃん」と思った陽介だったが言葉にするのはやめて、うんうんと頷く。姫香が補足した。

「ちなみにわたしと景は、一緒にさっきまでランニングしてたんだ。最近暖かくなってきてるからそろそろ走りどきかもねって前から話してたから、今日久しぶりに走ってきたよ」

 この2人は村民の中で抜群に足が速く、景はその足の速さと気さくさで、村の人々から村内での配達を頼まれたりもしている。

「陽介は…まあ想像つくよ。音楽をやらないかって誘ってるんだよね?みんなを」

「おうよ。景先輩、そろそろ俺と音楽やりましょうよ」

「そろそろって、僕そんな狙いやすいかな…。何度もいうけどさ、僕と陽介だけで音楽は多分無理だよ。だからさ、何人か集まってからにしたいんだよ」

 普段ニコニコしている景の顔はひきつっている。 

「じゃあ、後の3人も一応…お願いします…」なんとなく察しがついている陽介は自信なさげな口調で聞いた。

「誤解してほしくないんだけど、俺音楽が嫌いなわけじゃないんだよ。だけど俺最近思ったんだけど、この村に楽器といえば、村民集会所のピアノだけじゃないかな。他の楽器はどうやって用意するの?」

「あ、確かに。しってる?楽器ってメチャクチャ高いんだよ。どこの誰が大金を払えるの?まさか人が集まれば村で出されるとか思ってないでしょうね」

「う…」図星だ。そして更に追い討ちをかけるように佳奈も口を挟んだ。

「姫香ちゃんの前で言うのは本当にゴメンなんだけど、この村にそんな経済力とかあるわけないじゃないですか。陽介さんってもうすぐで中3になるんですよね?ならもっと考えて行動した方がいいですよ」

「うぅ…お前、生意気すぎだろ…」

「正論を言っただけだもん」

 フイっとその澄まし顔を斜め上に向ける。それに陽介はムッとするが、すぐに「でもさ」と切り出す。

「お前さ、音楽興味あるよな。俺が動画見せてる時、お前気づいてないかもしれないけど、誰よりも楽しそうに観てるぞ」

「はぁ⁉︎違うし!どこをどうみたらそう思うわけ」

 さっきまでツンとしていたが、あからさまにムキになった。

「お前、動画見てるときさ、メチャクチャリズムに合わせて揺れてるし、ギターとかの弾き真似してたりするぞ」

「え、嘘だ。いやいや絶対嘘だ」

 佳奈は動揺を隠せず周りの3人に違うよね?と聞く。それに結斗は答える。

「確かに俺と望月は一緒に勧誘受けて、一緒にYouTube観ること多いけど、結構やってるな」

「え、ちょい結斗」顔を真っ赤にした佳奈は陽介を睨みつけた。

「とにかく、この村にいて音楽なんか無理です‼︎佳奈、先帰る」

 拗ねた佳奈は走って去った。

 残された4人は追いかけるべきなのかも分からず呆気に取られていた。そして姫香の響き渡る柏手の後に解散となった。


 あっという間に陽介が村内を奔走し始めてから6時間が経った。空が薄暗くなってきた。千寿村の何でも屋の花沢商店の前の駐車場に陽介はトボトボと歩いて行くと、前方から陽介を呼び、駆けつけてくる2人がいる。幼馴染の長田由梨おささゆり四島純しじまじゅんだ。

「この様子だとまたダメだったんだね」

「まあ、いつも通りだな」

「へへ、全員断られた。もちろんお前らもだよな」

 もちろんと2人は頷く。それに陽介は苦笑いする。いつもと様子が違うことに気づいた由梨は明るく切り出した。

「なになに、断られて萎えてるの?いっつものことじゃん、72回目はいつにする気?」

 陽介はこれにツーテンポくらい遅れて答えた。

「俺、もうみんなを音楽に誘いに周るのやめるよ」

「え」純は思いもよらない言葉に声が漏れ由梨は絶句した。ずっと音楽に熱意を注ぎ、皆を巻き込もうとしていた陽介がそれを諦めるなんて一切思っていなかったからだ。

「陽介、お前熱でもあるのか?」

「そ、そうだよね。陽介が音楽をみんなとやるのを諦める?ないないないない」

「何でないと思うの?」

 元気のない静かな声で放たれた言葉は2人を締めつけた。

「もう、71回だよ。俺さすがにわかるよ。いや、ずっと前から知ってたよ。みんな音楽はやりたくないんだって。いや、違うかも、やれないって思ってるんだ。みんなみんな、断る口実考えてる。理由を聞けば大半はこの村のせいなんだ。この村を言い訳に音楽をやりたがらない。だってみんな知ってるもん、」

 由梨の表情も曇っていくのがわかる。

「ほら、由梨だって昔は歌手になるんだって言ってたのにさ、今は歌手の夢を捨ててるじゃん。理由なんて言ったか覚えてる?」

「それは…」

「この村から歌手デビューなんてできないし、私みたいな田舎者の歌は通用しない…だったよね」

 陽介は目線を下ろしてより虚ろな雰囲気をかもした。

「ほら、村を言い訳にしてるじゃん。」

 由梨は何も言い返せず黙り込んだ。見兼ねた純は陽介に言う。

「追い詰めてやるなよ。誰もがお前みたいに夢をずっと追いかけてるわけじゃないんだ。現にお前も音楽を諦めるんだろ。だったら同じだろ」

 純のフォローも聞かずまた言い出した。

「俺がやめるのは勧誘だけ。音楽はやる。来年は高1で音楽部に入る。村のせいにするみんな のせいだよ」

 純も陽介も気づいている。とても自己中な言葉だってことは。しかし陽介はもう自分でも止めることが出来ないし、すれ違いを直すことも出来なかった。

「村で昔何があったかくらいわかるだろ。お前みたいな自己中が誰かと音楽やるなんてできねえ。

純は舌打ちをして落ちていく陽の方へ帰っていった。

 残った由梨はその場にしゃがむ。陽介もその隣にしゃがんだ。そしてお互いなにも喋らない無の時間が続き、由梨は立ち上がり、「よし、帰ろうか」と歩き出す。陽介もそれに賛成して2人で家まで歩いて行った。

「ごめんね?後悔しないでね。私が言うべきじゃないけどさ」

 由梨のその言葉は陽介の野心を燃やしたのかもしれない。空はもう暗くなってしまった。2人でみる景色にどちらも寂しさを覚えたのはいうまでもなかった。

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