音楽やろうぜ Part2

 再び場所はとび、昼間の佐藤家では。

宇宙そら、大坂さんからプリン貰ったんだけど今食べる?」

「おう、食べる」

「じゃありくにも声かけてきてちょうだい。準備しておくから」

「わかったよ」

 宇宙が弟の稑の部屋に向かっていると、「ピンポーン」と家中に音が響いた。

「あら、誰かしら」と愛子は玄関におもむき、ドアを開けてやった。そこに立っていたのは峯田陽介だった。

「おばさん、こんにちは」陽介は行動の割には礼儀正しく挨拶をした。

「陽介君こんにちは。今日も勧誘?元気ね~。宇宙ー!陽介君きたわよー!」

「わかった!家にあげておいてくれ!稑も連れていくから」

 声を張り愛子と宇宙の声が会話をしていた。愛子は言われた通り陽介を家に入れてリビングのソファーに座らせた。

「ゆっくりしていってね。息子たちも君がいると楽しそうだから」紅茶をカップに淹れ言った。そこに階段を、宇宙と少し遅れて稑が降りてきた。

「やあ、一週間ぶりかな?今日も音楽の勧誘だね?いつも通り俺は断らせてもらうよ。ごめんね」

「また来たのかよ。俺は静かにこの後プリン食べてからまたゲームしたかったのに、お前いると無理じゃんか。あ、俺も音楽はナシね 」

「いや、俺来たばっかでなんも言ってないのに…めっちゃ言うじゃん」

 陽介は佐藤兄弟のペースに飲み込まれ思わず苦笑の表情を見せた。

「決断早過ぎね?もうちょっとちゃんとさ、聞いてくれよ。ていうか用件すら俺まだ言ってなかったのに」

「でも勧誘ってのは合ってんだろ?」とすかさず稑が問い、陽介は「はい」としか言えない。

「ならナシだ(だな)」

「なんでだよ‼︎」全くズレない二人に対して、陽介はついつっこんでしまった。

「え、なんでだよ。稑がともかく宇宙は俺がバンドとかオーケストラとかの動画よく見せてるけど、結構気に入ってみてくれてるじゃん。なのに何で」

「確かに陽介がYouTubeで毎回見せてくれる色々な音楽は輝いて見えるが、それを自分でやりたいかって言われてやるかと問われると、俺の答えはNOだ。俺は見る専で十分なんだ」

 芯のしっかりした理由に納得はいくものだから言い返せず、さらに稑も理由を続けて話した。

「音楽は良いものだと思うよ。BGMはゲームをやっていて、そのボスの強さや、ストーリーの雰囲気を際立ててくれる大切な存在だよ。だけど、自らがBGMを演奏するかってのは、兄ちゃんの言葉借りるけど、NO。つまり音楽はやらない」

 二人にキッパリ言われて少しシュンとしたように見えたが陽介はすぐに表情を直して「よし!わかった。今回も失敗か。でも絶対諦めないからな。また来ます!」と、紅茶をグイッと飲みきり、立ち上がって玄関へ向かう。急ぐ陽介に宇宙は一度引き止めて言う。

「陽介の音楽に対しての熱意は素晴らしいものだと俺は思う。だけどやっぱり、だと思う。音楽がやりたいなら、来年は高等部に進学じゃなくて、村を離れてみたらどうだ。浅葱地のほかの14区にはきっと軽音楽部や吹奏楽部がある学校もたくさんあると思うぞ」

 宇宙のとてもまともな提案に陽介は下唇を甘噛みした。後にヘラヘラとした表情で「うん。そうしようかなって思ってるよ。じゃあ、お邪魔しました。また学校でな!」と元気に佐藤家を後にした。

「あら、陽介君もう帰っちゃったの?プリン用意したのに。どっちか2個食べる?」

「俺はいいから稑、食べていいぞ」

「あ、うん。ありがとう兄ちゃん」

 が勢力をなくしていく気を稑は感じた気がしていた。しかしその正体が何なのかはわからず、稑は平然としているしかできない。


 またも場所はとぶが、広がる田圃たんぼの間をずっと歩いていくと土地がどんどんと高くなっていく。そこにはこの村の守り神を祀る守里神社がある。五十八段の石段を上ると真っ赤な鳥居が立ち構える。浅葱地内では最古の建造物と云われる。

 今日の神社では、賽銭箱に背をもたれている長い三つ編みの大人ぽい女性「香坂十希こうさかとき」と、獅子の口に腕を置く真面目そうな男性「深堀茂ふかぼりしげ」が話している。

「茂、とうとう私たち高校3年生になるのね~。茂はその件についてどう思っているのかしら。教えてもらいたいわ」

「おい、十希。まさかお前は、それを聞くためだけに休日に神社に呼んだというのか」

「いや~、これは今ふと思ったことだから、呼んだ理由なんかじゃないわ〜。そもそもここに呼んだのも、ただのきまぐれで意味なんて無いわ〜」

 茂は声もでずただただ大きな溜息を吐いた。「そうだったな。お前はそういう性格だったよ」

 するとそこに白いスウェットをきた男の子「縁皐月えにしさつき」が授与場の隣にある別宅から出てきた。

「あの~十希先輩、賽銭箱に腰掛けるのはやめてもらっていいでしょうか。茂先輩が来るのは珍しいっすね。でもうちの獅子の口によしかかるのもやめてください」

「す、すまない」茂は急いで口から手を抜いた。一方、十希は…

「さっちゃんこんにちは。今日も元気ね」

「さっちゃんって呼ばないでって何度も言ってるのに…もうとにかく、座るならそこの授与場前のベンチに座ってください」

 はいはいと怠そうに、また皐月をからかうように立ち上がった十希を、さっさと行くぞと、茂が引っ張っていった。

「ところで2人で何を話していたんですか?」

「今、多分進路か心情の話をしていたような気がするのだが、いまいち十希がなんの話題をだしているのかが….」

「あ、なんかきそうじゃない?」

 茂の言葉を遮って十希が言った。その発言に茂は顔をしかめた。十希の突発的な発言は大抵当たるものだと、茂は長年のつきあいで知っていたからだ。

「はぁ、はぁ、いた。深堀先輩、香坂先輩、皐月…」

「あらぁ、もしかして走ってきたの?ここの石段、結構急じゃないかしら」

 息を切らす陽介は息を整えた後に再度口を開く。

「気を取り直して、最年長の御二方、そして皐月。俺と音楽活動をしませんか」

 またか。とでも言いたげな表情を茂と皐月は浮かべている。

「なあ十希、これ何回目だったっけ」

「数えてないわ。さっちゃんわかる?」

「いいや、もう何回も何回もきてるからもう数えれないっす」

 3人は陽介の勧誘をそっちのけで、議論を膨らませ始めた。1人蚊帳の外に置かれた陽介は一人暇そうに眺めていたが、とうとう我慢の限界で声をあげた。

「戻ってきてもらっていいですか⁉︎」

 3人はビクッとして洋介の方向を向いた。

「脱線しすぎだと、俺は、思います!」

「す、すまない」

 茂が率先して謝罪をした。

「音楽やらないかって話だったわね」

「はい!」

 十希は考える素振りをみせるがすぐ言った。

「音楽って趣味はいいものだけど、みんなに合わせるってのは、どうも私には向かないと思うのよね~。だから私には無理ね~。ごめんなさいね」

「うん。マイペースな十希には向かないだろうな。俺は、すまないが音楽よりも、もっと体を動かしていたい派なんだ。だから今回も断らせてもらう」

 陽介はやっぱりかとでも言いたげな顔をした。でもそれにダメージは受けつつもすぐに表情を直して、パッと皐月を見る。慌てて目線を横にやるも、既に遅く答えを言わざるをえない状況になっていた。

「わかったよ。熱い視線送んないでくださいよ」

 手で振り払うような仕草をしてから話し始める。

「確かに陽介さんからみせてもらう音楽に動画はすごいと思うけどさ、なんか地味なんすよね。なんていうか、俺はそういうのじゃなくてもっと心とか、なんか色んなとこがゾワゾワってするスッゲェことがしたいんですよ。だから音楽はやりません」

「そっか。わかった。そこまで言うなら今回は退くよ」

「いや、もういいよ」

 これには耳を傾けずに帰ろうとする陽介に茂が一言口にした。

「ところで峯田。もうそろそろ中等部の最頂点に立つと思うが、中2で学んだことの復習はしているか?」

「へ?」突拍子のない問いに対して陽介だけじゃなく、皐月もキョトンとしている。十希はというと、始まったか。というような顔をしている。

「いいか。次の学年や学期に移るときには必ず復習を最低限した方がいい。理想では予習も必要だが、それは大変だからやらなくてもいい。勉強っていうのはすればするほど必ずテストで結果が残るんだ。縁と峯田。お前らはそこまで点数がいいわけではないだろう。だから今年から勉強への向き合いを見直してだな…」

「ねえ茂、」

 クドクドと説教している茂に割り込んで十希が口をだす。

「みねちゃん、もう逃げちゃったわよ」

さっきまで鳥居にもたれていた陽介の姿はもうなくなっていた。

「アイツ…もう少しは音楽の熱意を勉強に注げばいいというのに…。まあいい!縁、そっちにいくな。こっちに来い!」

「ひぃ、勘弁してくださいよ~」

 そんなやりとりをみている十希はベンチから立ち上がり、伸びをした。

「さてと、そろそろ帰ろうかしら。茂はこうなったらめんどくさいからねぇ。」

 歩き出し石段を見下ろすと、そこにはまだ下っている最中の陽介がいた。

「今日はやけにあっけなかったわね。何かあったかしら」

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