第1.5章 梓川 咲月のルーツ
第12話 梓川 咲月のルーツ
※ ここからは暫く、現実世界でのお話になります。彼、彼女達の大事な過去なので何卒ご容赦くださいm(_ _)m
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⋆☾·̩͙꙳✩
⎯⎯⎯⎯ずっと、夜を見続けている。
⎯⎯⎯⎯薄暗い自室のベッドから、いつまでも続く深い夜を、窓から差し込む月明かりに照らされながら見続けている。
⎯⎯⎯⎯いつまでも姿を見せる事の無い
⋆☾·̩͙꙳✩
私に朝は来ることはなく、ただ漠然と繰り返される夜を迎える事しか出来ない、厳密に言うと9歳の誕生日を迎えた頃には、とある病気を患ってしまい、そのせいで朝に活動することは出来ず、必然、夜に生きるしかなかった。
その私の時間を限定的にし、狂わせた忌々しい病気の名は、クライネ・レヴィン症候群。
眠れる森の美女症候群とも言われるその病気は通称名から想像される程、良いものでは決してない、世界でも症例の少ないクライネ・レヴィン症候群を患った人達は通常よりも多くの睡眠を取ってしまい、基本的に1日に15時間、重度になると20時間の睡眠を強制的に取らざる追えなくなり、その状態が3週間ほど続き、再びそれを繰り返す、反復性過眠症、睡眠障害の一種だ。
思春期に発症する場合がほとんどで、多くの患者はこのクライネ・レヴィン症候群により、人生の内で大事なピースの一つで、様々な事を積極的に学べる歳である思春期を根こそぎ奪われてしまう。
患者により重症度は異なるが、私の場合は症状がより顕著で、9歳で発症してから15歳の今に至るまで、朝5時辺りから深夜24時辺りまでの19時間ほどの睡眠を繰り返し、起きていられる時間はたった5時間のみ、発症してから最初の内はまだ軽度で、二週間ほどで症状が和らぎ一週間は普通の生活ができていたが、それからは酷くなる一方、私は中でも稀なケースで、ここ一年と半月、同じ重度の睡眠状態を和らぐ間もなくずっと繰り返している。
そんなまともでは無い欠けた
通常10年かけて自然な快復が見込まれるこの病気は、現在、根本的治療法は確立されていない。
⋆☾·̩͙꙳✩
2010年 9月上旬。日本 x県 x市
九月に入り、風が冷たく感じ、少し肌寒くなりつつあるそんなそろそろ衣替えの葉がオレンジな季節に、俺はとある人に呼び出され現在、川に掛かる橋の手すりに寄りかかり、空を見上げ、ただぼーっと晴れ渡った青と漂う雲を頭の中に容れていた。
あの遥か上の空と同じ様に空色の手すりへと一羽の雀が舞い降りる。
だけど雀かと思ったらよく見ると違う、全体的に緑っぽく、頭には目を惹かれる明るめの黄色い毛と、そこに紛れて赤い羽毛が生えている。
「……やぁ、小鳥さん……こんな辺境の地までどうしたんだい……ふふっ……そんなに可愛く顔を傾げながら、つぶらな瞳で見ないでおくれよ……照れてしまうだろう……」
360度、誰がどう見ても痛々しい黒髪の男がそんないたいけな小鳥に向かってそっと手を差し出す。
「ほら、こっちへおいで……」
だが小鳥は、チュンとひと鳴きすると、そのまま何処かへと飛び去ってしまう。
「あぁっ……! 待っておくれよ! 君はいつもそうだ! 世界に! 神に! 僕たちの運命に背いた赦されざる出逢いに、甘いひと時の余韻を残し、直ぐにそっぽを向いて何処かへと飛び去ってしまう。それは姿はまるで、まだ恋を知らない無垢なジュリエットのよう……」
崩れ落ち、地面に手を付き、悲哀を感じながらも小鳥の飛び去った方向を見詰めていると、ブーンと、白煙をモクモクと排出させながらグレーのワゴンが横を通り過ぎていく。
「……EV車って結局いつになったら流行るんだ……?」
「――あら、随分と痛くて哀れで暇な思考に耽っているロミオがいるわ……今日も日本は平和ね」
声のした方向、黒く綺麗な腰ほどの長髪が風に靡く、追って視線をあげてみると、サラッと流れる前髪から覗く赤みがかったツンとした瞳が垣間見え、その近く、気紛れで神が印したかの様な泣きぼくろが左の涙袋にあり、服は黒のベルトと黒のタイツに、インディアンレッドの膝丈ほどのワンピース、その上にベージュのカーディガンを羽織り、ブラウンのブーツを履いた見目麗しいおなごが目の前を通りかかったのが分かった。
「さっすが、時間ピッタリだな?」
彼女は、そのまま通り過ぎていった。
ばいばーい……
「……た、ちょっとまてい! 黒奈瀬!!」
「……何かしら? ひょっとしてこれがナンパという奴なのかしら? さっきまで雄の小鳥に向かってナンパしていたクセに、次は目の前に通りかかった女に乗り換える軽薄な男がいたものね……それによく見ると軟派の漢字の通り軟弱そうだし、豆腐みたいなメンタルをしていそうだし、頭の中身もきっとストローで吸い出せる程に柔らかそうよ……ふふっ、それと……とっても柔らかそうな頬ね……」
こちらの一言に対して、衝撃的な真実一つと頭上からの過剰な罵詈雑言を受けながら、俺の豆腐みたいなメンタルがズタボロになりつつあるのを感じる中、唖然とし、哀しくなって来た思考の隙間を縫うように、ゆっくりと伸ばされた手に頬をギュッと掴まれる。
「……なにをひゅる黒奈ふぇぇ……」
「……知っているかしら? 今私は國満くんの頬をつねっているのだけれど……ひと昔前のナンパではまず初めに女性のお尻を軽くつねって挨拶をしていたそうよ……今やったら犯罪だけど。どうかしら、許可するから軽くひとつまみして見ない?」
「そんな酒を一杯ひっかけてくる見たいなノリで言わんでくらひゃい……」
戒めから解放され、赤くなった頬を撫でながら立ち上がり、俺は改めて、今日呼ばれた要件を尋ねることとする。
「……で、どうして俺はここにお呼ばれされたんだ」
黒奈瀬はそうねと言葉をひとつ。
「生きているからよ」
なっ……ん……
「……哲学だな……」
「哲学ね……」
???
「いや、そう言う事ではないのはわかってらっしゃいますね? 黒奈瀬さん」
「ええ……そうね……」
言って黒奈瀬は、こちらへと目線を合わせる為か、屈み込み、膝に両手を乗せ、首を傾げる。
「とりあえず、話を戻しましょう?」
「ああ……」
……どこにだろう?
今日は特段に、色々と抜けてしまっている黒奈瀬を見つめながら、何処に行ってしまうのか分からない話の続きを待つ……なんだろ、何処となく、真剣な顔つきだ……表情の変化はいつも通り乏しいけど。
「……あなたに……」
「いいよ、なんでも来い、ドンと来い」
俺は立ち上がり胸を打つ。
「……………………」
眼下からは沈黙と見上げる顔。
彼女は口を開く――――……
「國満くんに救って欲しい人がいるの」
「――――――――――――――――――――え?」
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