第20話 寝台車の中
この世界でももちろん夜はある。1日が24時間なのかはわからないが。でもさほどズレというのは感じられない。ちゃんと交代交代で明るくなったり暗くなったりしている。無駄にずっと明るいとか。ずっと暗いということはない。
そして今は暗くなってからどれくらい経過しただろうか?俺は既に汐ノ宮さんとともに駅舎から寝台車へと戻ってきており。それぞれが寝る準備を完了し各自の寝床に居た。のだが。
「——烏森さん?起きてますか?」
「うん?」
俺がベッドに寝っ転がりながら、なんか今日も駅長(柴犬)のおかげで無駄にたくさん走ったな。でもまあいい運動したな。などと思い出していると。カーテンの向こうにいつの間にか影があり。汐ノ宮さんの声が聞こえてきた。俺は起き上がりカーテンを開ける。
「どうしたの?汐ノ宮さん?」
カーテンを開けるとそこには寝間着姿の汐ノ宮さんが立っていた。はじめの頃。初めてこの姿の汐ノ宮さんを見た時は、何か見てはいけないものを見たというか。そういう光景を見ることなく育ってきた俺はどうしたら――見ていいのか?などと思ったものだが。ここでは基本仕事終わり。駅舎からこちらへと戻ってきたら、もちろん俺も汐ノ宮さんも制服から着替えるし。そもそも同じ空間車両内に居るので、嫌でも毎晩毎朝この姿の汐ノ宮さんを見るので慣れたということは――さすがにないが。でも挙動不審になることはなくなっていた。ってか、汐ノ宮さんは何をしに来たのだろうか?そりゃたまには寝る前に話すこともあるが――それは寝台車に戻って来てすぐ。寝る準備をする前だが――今はもう寝る準備が出来てからという時だ。
「ちょっとだけお話しませんか?」
——どうやら雑談らしい。って、何故に?
「急にどうしたの?」
「いや、まだ今日は寝るには早いかなーと思いまして」
汐ノ宮さんの言葉を聞き。そういえば、今日は俺達早く駅舎からこっちに来たよな。ということを思い出した。今日はカピバラさんとペンギンさんが留守のため駅長(柴犬)と2人と1匹で……まあ汐ノ宮さんに甘えようと何かといろいろあれからも駅長(柴犬)がしていたから。汐ノ宮さんが逃げたというか。まあ俺もそれに巻き込まれて、早く寝台車の方へとやって来たのである。
ってか、そうか。そうだよ。そんなことがあって、いつもより早くから寝っ転がっていたからまだ俺眠くもなかったんだ。
「そういや、汐ノ宮さんが早く部屋に戻って――で、俺もこっち来たからまだいつもより早いのか。時間がわからないから、何となくでいつも過ごしてたけど」
「です。多分そこそこいつもよりこっちに来たのは早いと思いますよ?」
「いやいや、まあ駅長(柴犬)の相手が嫌になるのはわかるよ」
「あはは……です。ホント困ったワンちゃんですよ、問題犬」
「そういや、結局朝のバタバタでなんか言っていた割には――だからな。夕食の時は食べ物取ろうとしてくるし。何で急に奪った方が勝ち。とか意味の分からないことをあの駅長(柴犬)は始めるのか」
「ホントですね。もう。カピバラさんとペンギンさんに報告しないとですね。みっちり教育してもらいます」
後日駅長(柴犬)が縛り上げられるのは――まあもうみんなわかっていることだろうから。そんなことが未来にあった。と思っておいてもらおう。
「まあ俺が気が付いたことを言うと、駅長(柴犬)は汐ノ宮さんが触った物を死守しにいったように見えたが。ってか、常に汐ノ宮さんが作った物を死守しようと普段かからしてるからな。気に入られてるね。ホント」
「——困りますよ」
呆れた表情というのか――まあお疲れ様ですだな。
「ってか。こんなところで立ち話もだから――」
特に何もなく誰かを招き入れるような空間ではないが――どうぞ。などと俺が言おうと思ったら。最後まで俺が話す前に。
「あっ、私のところで飲み物準備してあるので来ませんか?」
汐ノ宮さんに提案されたのだった。
「——そっちが準備万端だったか。って、今の流れ的に俺の場所で――だと思ったが。って、俺がそっち行っていいの?」
「えっ?別にいいですよ?」
何を言ってるんですか?という表情の汐ノ宮さんだが。
「いや――今更ですが――俺男だからね?」
「烏森さんなら全くです。どうぞどうぞですよ」
「——」
……えっと、俺いつの間に汐ノ宮さんの信頼を得たのだろうか?ってか、そういえば汐ノ宮さん結構早い時点で俺と普通に接していたような?まあいいか。嫌われるよりかはいいもんな。
「烏森さん?」
俺が考えていると汐ノ宮さんが顔を覗き込んできた。
「あっ、いや、何でもない」
「お疲れでしたか?」
「いや、明日筋肉痛だろうが」
「ならどうぞです。はい、烏森さん来てください」
「強制的だ」
何故か今日はグイグイの汐ノ宮さんだった。
「あっ。ご迷惑でしたら断ってくださいね?」
「いや、そんなことはない。どうせ寝れなかったし」
「じゃあ、どうぞです」
それから俺は汐ノ宮さんの後ろ付いていき。お隣の部屋に入って行く。
汐ノ宮さんのスペースは、ちゃんと俺が来ることを想定してという準備がされていた。ちゃんと向かい合って座れるように座るスペースが作られていて、窓際のところには飲み物が言っていた通り準備されていた。
「同じスペースのはずなのに、なんでこんなにも違うのか」
俺の場所は殺風景だ。特に物はない。必要最低限だけなのだが。汐ノ宮さんのところは、小物もいろいろ置いてある。まあ隣町からの荷物でちょくちょく汐ノ宮さんが何か頼んでいるのは知っていたが、やはり女の子というのか。自分の生活する場所は自分の好きなもので埋め尽くしたいみたいだ。
「あっ、お誘いしておいてですが……綺麗じゃなくてすみません」
「いやいやいやいや、とっても綺麗だから。ってか、お邪魔します」
「はい、どうぞです」
汐ノ宮さんが座ると俺はその反対側。空いていた方のスペースに座る。
「で――烏森さん。ご褒美何がいいですか?」
「……それで呼ばれたのか」
ご褒美とは忘れている人が居るかもしれないが。今日の午前中の出来事だ。駅長(柴犬)が突然言い出した持久走だっけ?まあレースというか。勝負というか。結局俺はそれで勝っており。何故かその後汐ノ宮さんがご褒美何がいいかと聞いてくるんだよな。俺は特にそういうのをお願いしてないんだが。ってか、お昼の時はシャワーを俺が浴びに行ったため。そこで時間があいたからか。汐ノ宮さん忘れてくれた。というか。俺も気にはしてなかったので俺自身は忘れていたが――今になって、その話題が戻って来たのだった。
「ご褒美ですよ?何でもいいですよ?烏森さんにはいつも助けてもらってますから」
「いやいや、汐ノ宮さん。何でも。とか軽く言うものではないかと」
「烏森さんは変な事言いませんからね」
「——」
だから俺はいつの間に信頼を得たのだろうか――謎である。
「烏森さん?」
「あっ。いや――でも別に俺暇で走ったというか。ちょっとした運動って感じだったから」
「なら――私がしたい事していいですか?」
「えっ?」
「烏森さん。膝枕してあげます。あとマッサージ付きで!」
「……」
そう言いながら自分の膝をポンポン叩く汐ノ宮さん。めっちゃ楽しそうだ。って、いやいやマジで何を言っているのか。もしかして誰かお酒与えた?ってことはないか。ここでお酒類が出てきたこと。そもそも見たことないからな。つまり――えっ?である。何が起こっている?
「えっと――なんと言いました?」
「膝枕とマッサージです」
「何で?」
「何となくしてあげたいなー。と」
「いやいや、それは別の誰かに――かと」
「烏森さんならいいですよ?ってか、私がどんな感じなのかしてみたいです。男の人を撫でて見たいです」
「普段からカピバラさんとか撫でてませんかね?」
「人ではしたことないですから」
「でもなんで俺?」
「だって、烏森さんしかここにはほかに人が居ませんから」
「——確かに。でもそれで俺にというのもなんか変なような――」
「と言うことで、はい。隣来てください」
ダメだなんか強制的な感じだ。すごく楽しそうに。わくわくした表情の汐ノ宮さんが俺を見ている。
「いやいや、マジ?」
「はい。大丈夫ですよ。撫でさせてください」
「なんか汐ノ宮さんが壊れた」
「壊れてないですよー」
「いや……でもそれは何と言うか」
「烏森さん。早くです」
「……」
その後の事を言うと――幸せだった。そりゃはじめこそは戸惑いだったが――結局汐ノ宮さんに押され押され――俺は膝枕をしてもらった。座席のところで横になるのはちょっと窮屈だったが。そんなことは全く問題なかった。幸せ過ぎたから。
「烏森さん。顔赤いですよ」
「——風呂上がりです」
「かなり前に出てませんでした?」
ふふっと笑う汐ノ宮さんの声が上から聞こえて聞いたが――見ない見ない。俺は目の前の座席を見るだけ。
「——気のせいです」
「烏森さんがかわいいです。人を撫でるのもいいですね」
「——」
これ何?俺いじめられているというか。いじられているというか。そりゃ柔らかくて――めっちゃいい気持ちだったが――突然ホントなんでこんなことに?というとある日の夜だった。
そうそう、膝枕のち、俺が座席にうつ伏せ。そして汐ノ宮さんによるマッサージが行われたりもした。これも――なかなかだった。普段からカピバラさんやペンギンさんの相手でもしているのか。とってもいい力加減でマッサージもしてもらったのだった。
また「烏森さん。もう1回撫でたいから、膝枕しますね」などとマッサージの後に言われて――もう俺されるがままだった。急に幸せ過ぎる時間となったのだった。
◆
ちなみに、慣れというのは怖い。
俺は、はじめこそそりゃドキドキだったが。異世界でもすぐに慣れてしまうくらいの俺。汐ノ宮さんの膝枕2回目は、まさかの慣れてしまったというか――お恥ずかしい話。気が付いたら寝てしまったという。さすがにそれは汐ノ宮さんビックリだったらしいが――少し俺が寝た後。ちゃんと起こされました。そして――すごくうれしそうに俺汐ノ宮さんにいじられるのだった。
と、とにかく。とある日の出来事だったとさ。
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