第21話 お相手も大切な仕事

「気持ちいですね」

「ですね」

「ふむ」


 1人と2匹。草原の真ん中にてのんびり中。メンバーは俺。カピバラさん。ペンギンさんである。何をしているのかと言えば雑談である。ちなみにこれも大切な仕事である……多分。


 今はお昼を過ぎたところ。ちょっとここ数日は極端に寒さやって来てペンギンさん以外みんな凍えていたため。今日のちょうどいい気候はとっても過ごしやすかった。


 そうそう、ここに居ない1人と1匹。汐ノ宮さんと駅長(柴犬)の2人だが。現在汐ノ宮さんは駅舎にて看病中である。看病中と言ったらもうわかると思うが。ここ数日の寒さで駅長(柴犬)がやられた。

 まあ風邪である「食欲がない。ふらふらする。椎葉ちゃんがたくさん見える。看病してー」みたいなことを朝からずっと言ってて、はじめは仮病かとみんなが思っていたが。でもどうやら本当だったらしく。まあ最終的には優しい汐ノ宮さんが折れたというか。もうウザいから少しだけでいいから看病してあげよう。という感じで現在である。ちなみに草原の真ん中でまったりしている1人と2匹は、駅長にこんなことを言われている。


「椎葉ちゃんと2人がいい、邪魔」


 以上である。あの駅長(柴犬)何かやらかしそうだが……まあ本当に体調は悪い感じだったので、まあ俺達はとりあえず駅舎に1人と1匹を残して草原へとやって来たのだ。本当は駅舎近くでのんびりしていたが「視線に入っている」などという事も言われたため。駅舎からはかなり離れたところまでやってきていた。ってか、文句を言いに来れるくらい駅長(柴犬)は元気疑惑という可能性もあったが――まあ、いいか。ということで今である変に関わっても大変なのでね。ということで雑談中である。


「そういえば今更かもしれませんがお2人はいつからここに居るんですか?」


 特に何かすることがあるというわけではないので俺は隣に居る2匹に質問をしてみた。


「私は車掌をしていたらここに来たですね」

「ふむ、同じく」


 俺と同じくぼーっとのんびりしているペンギンさんとカピバラさんがすぐに答えてくれた。


「えっ?そうなの?」

「ですね。はじめからここに居たのは駅長さんで」

「駅長(柴犬)1人で生活していたのか」


 つまり駅長(柴犬)は1人寂しい生活をしていたのだろうか?だからみんなにかまってほしい、という感じの雰囲気をいつも出している?などと俺が思っていたら。俺の考えていることとは全く違う方向に話が進みだした。


「いや、前はたくさんここにも人や生き物が居たらしいですよ?」

「あれ?そうなの?」


 全く他の人とか生き物がいた痕跡はないのだが――あっ、でも寝台車があるということは昔は大きな電車も走っていたのか?それなら人が居てもおかしくないか。俺は遠くに見える寝台車をふと見る。


「でもあの駅長さんですからね。どんどん人が離れていって」

「——?」

「そしてあれだな。ついには線路も剥がされ」


 残念そうな感じで話を進めるペンギンさんとカピバラさん。


「剥がされ――って、もしかして昔はここ線路が4本だったりとか?」

「そもそも4本が普通ですよ?薫さん」


 ペンギンさんが不思議そうに言いながらこちらを見てきた。


「——さすが異世界。現実と違うか」

「薫のところは4本じゃなかったのか?」


 カピバラさんも不思議そうに聞いてきたので――自分の常識は他では当てはまらないことを改めて実感する俺だった。


「基本2本じゃなかったかな……うん。2本だったと思う。もしかしたら多いところもあるのかもしれないけど」


 ちなみに俺の記憶にある中ではとわか駅前の4本というのは初めて見た光景だった。


「まあ駅長があんなんだから。線路は剥がされるわ。廃れるわで、たまたま線路をはがした時に忘れられた寝台車だけが残された駅ってわけだ」

「つまり――あの駅長(柴犬)がいろいろやらかして、今に至ると」

「ですね」「そうだ」


 ペンギンさんとカピバラさんが同時に頷いた。おいおいあの駅長。町を一つ無くしたのか。ちょっとだけ、1人で寂しく。でもここのために残っていた駅長(柴犬)とか思った俺のあの時間返してくれ。


「ってか――駅長(柴犬)はなんでここの駅長になったんですか?」

「元からとしか聞いてないな」

「私も聞いてないですね。まあなんか寂しい駅に来ちゃったな。って、感じでカピバラさんと話していたら。まあなんか知らないうちに、ここの駅所属の運転手と車掌にされていたんですよ。住居付きだから住め。って感じで」

「無駄に力持ってるな。あの駅長(柴犬)」


 この鉄道のトップというのか。町のトップ?いや、国のトップ?なのかはわからないが。駅長(柴犬)に力を持たせている人。一度考え直してくれ。危なすぎるぞ。


「まあ薫さんと椎葉ちゃんと駅員に勝手にできるくらいですから」

「——確かにってか、お客さんの利用とかないのに――よくこの駅残ってるな」

「まあそれは異世界だからですよ」

「ホント便利な言葉だな」


 何か不思議に思うことがあるとほとんどの場合で出てくる異世界だから。ホント便利な言葉だよな。


「ってか、薫」

「はい?」

「薫はなんでここに来たんだ?」


 するとカピバラさんがそんなことを聞いてきた。


「あー、前にチラッと話したと思うけど、家に帰ろうとしていたら――急に草原で寝ていたかな。だから何でここに来たと言われると――ホントいきなり誰かに呼ばれたのか?って、感じで自分ではここに来たいとか。行きたいと思ったことないというか。そもそもこんなところあると思わないし」

「ちなみにだがな。隣町に居る人はな。みんな遊びに来ていると言っていたぞ?」

「——えっ?遊びに来ているどういうこと?」


 ちょっと待て異世界ってぶらっと遊びに行けるの?移動できるってこと?唐突に俺の知らない情報が入って来た。


「なあ、車掌?」


 するとカピバラさんがペンギンさんの方を見た、ってか、カピバラさんペンギンさんの事車掌って呼んでいたんだ。初めて聞いた気がする。いや、今まで気にしてなかっただけか?まあそれは今はいいとして。


「ですね。椎葉ちゃんもこの話したら驚いていましたけど、確か私も隣町の人に聞いたところ。特殊な帽子?を頭に付けて――ゲーム?とかでこの町に来ているとか言っていましたよ?」

「——なんだと?いや、まあバーチャルゲームというのか。そういうのはなんかありそう。出来そうな感じの事は聞いたことあるが――えっ?ここゲームの中なの?」

「ゲームというのがあまりわからないのですが――でも隣町の人は良くそんな話をしてますよ?行ったり来たりしていると」

「……マジか。もしかして俺の住んでいる世界というか。時代とは違う人が居るのか――?あっ。そう考えた方が。自然か。俺と汐ノ宮さんが隣町に遊びに来ているとか言う人と会えないというか。行けないのは――時代が違うから。って、そんな俺が思いつくような理屈じゃないか」


 ふと考えてみた俺だが――まあ隣町を見たことない俺だからな。何とも言えない。もしかしたらめっちゃ未来の人が遊びに来ているのかもしれないし。


「まあ、異世界だからな。何でもありだぞ。薫」

「異世界だから。って、ホント最強な言葉だな」

「でも薫さんの居たところでは、ペンギンは話さないんですよね?」

「動物は話さないな。こんなペラペラ話していたら――人の世界乗っ取られてるんじゃないの?ペンギンさんやカピバラさんの方がなんかすごい気がするし」

「そんなことないですよ」「それはあるな」

「……」


 同時に答える2匹。って、カピバラさん。乗っ取れると思っていらっしゃった……って、まあカピバラさん運転が出来たりとなかなかだから。本当にできそう。って、ペンギンさんもなんだけど――などと俺がカピバラさんとペンギンさんと話していると。


「あっ、居た。烏森さん。カピバラさん。ペンギンさーん」


 駅舎の方から汐ノ宮さんの声が聞こえてきた。駅長(柴犬)は――居ない。


「椎葉ちゃん。どうした?」


 一番早く反応したのはカピバラさんだった。むくっと起き上がり。汐ノ宮さんの方を見る。ここにも忠実な動物というか。まあこっちは問題犬とは大きく違うか。


「大丈夫ですよ、何かあった。とかじゃなくて、駅長さん寝ちゃったから私もみんなの方に行こうかな。って、探してたんですよ。にしても、のんびり楽しそうですね」


 俺達に近寄りつつ汐ノ宮さんがつぶやく。楽しそうなのかは……わからないが。まあのんびりはしている。めっちゃのんびりはしているな。そういえば一応仕事中のはずなんだが――無駄な雑談をしていただけだな。


「椎葉ちゃんもどうぞ。烏森さんの横空いてますから」

「お邪魔しまーす」


 ペンギンさんに言われた汐ノ宮さんがそのまま俺の横へと座る。すると――。


「じゃ、椎葉ちゃんが来たところで、そろそろ最近夜な夜な2人がイチャイチャしているという話を聞くのでその取り調べでも始めますか」


 ペンギンさんがなんか言い出した。


「「——はい?」」


 唐突に謎な質問が来る。これも――いつもの事なのだろうか?いやいやいつもの事ではないな。


「ふむ。駅長より――まあ薫の方が椎葉ちゃんの相手はいいな」


 さらに、まるで父親ポジションのカピバラさん。って、なんで急にそんな話になっているのかな?俺は状況がわからずとりあえず隣を見てみると――。


「そ、そんなことないですよ。ペンギンさん何言い出すんですか」

「椎葉ちゃん。薫さんが来てからニコニコですからねー、面白いことが聞けそうです」

「ふむ」

「そ、そんなことないですよー?烏森さんもなんか言ってくださいよー」

「今も自然とぴったりくっつくように座りましたし」

「そ、それはペンギンさんが」

「——」


あれ?なんだろう?俺は特に――だが。ってか、汐ノ宮さんは俺にも会話に入ってもらいたいらしいが――俺が入る余地がない。ってか、俺のお隣のお方。予想以上に動揺というか。あれ?何か起っているのかな?俺は本当にわからないのだが――。


「さあ椎葉ちゃん」

「ふむ」

「ちょっと―烏森さん」

「……」


 ちなみにこの後の事を言うと。しばらく汐ノ宮さんがワタワタしていたのだった。仲良さそうにずっとペンギンさんと話しつつ。いや、ペンギンさんの口を押えつつ?するとそこにカピバラさんも会話に入るという感じだった。

 って、何故か俺を間に挟んで会話が進むというね。俺ほとんど話が回ってこなかったが――まああれか。空気になれと言う事なのかな?

 ということで、しばらくカピバラさんとペンギンさんと話した後は、合流した汐ノ宮さんとペンギンさんの話。たまにカピバラさんも。という光景を見ていたというか。話を聞いていたというか。まあとりあえずやっぱりのんびりしていたという事である。なんか勝手に俺は話の中だけ巻き込まれて――聞いている恥ずかしい思いをすることもあったが――まさかだが寝台車に隠しカメラ的な何かあるんじゃないだろうな?


 まあ、いろいろ確認しないといけないことは聞いているとあったが――今日の仕事は、同じ仲間と話す。これも大切な仕事である――多分な。


 ◆


 ちなみに駅長(柴犬)は翌日大変元気になり。また汐ノ宮さんを困らせ。カピバラさんと俺が走る。ということが戻って来たのだった。

 ……いや、それは戻ってこなくて良かったんだがね。でも――駅長(柴犬)を追いかけていれば、雑談の場が出来ないので――まあそれはそれでか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る