第16話 休日の過ごし方

 そういえばここに来てからしばらく経ったが、ここでは晴れ以外の天気を見たことがない。曇りというのもない。ってか。雲を見たことない気がする。


 とある日の午前中。俺がそんなことを思いながら寝台車の近くで空を見上げていると、寝台車のドアが開く音がした。音の方へと俺は視線を移すと、汐ノ宮さんがちょうど降りてきた。

 今日の彼女は今の俺と同じく私服だ。七分袖にズボンとラフな服装だ。私服ということは、2人とも休みである。ってか、この仕事は基本休みのよう。常にまったりしてるからな。服装が違うだけで、いつも通りっちゃいつも通りだ。ちなみにここにもあの駅長(柴犬)が1枚噛んでいるというか。こんな事を少し前に言われている。


「若造!休みには絶対制服を着るなよ。着ていたら出て行ってもらうからな」

「……」


 いや、わざわざ休みに制服を着る予定はなかったが。まあそんなことをふと駅長(柴犬)に言われたのだった。

 突然というか。何と言うかあの駅長(柴犬)思いつきでいろいろ言ってくる。まあ、俺をいかにしてここから追い出すかとか考えていそうだが――でも今のところ俺はここに居る。捨てられてはないな。ってか捨てられることはないだろう。この範囲というのか。とわか駅周辺から出ることが出来ないのだから。

 ちなみに汐ノ宮さん曰く。その時の駅長(柴犬)の言葉を訳すと――『仕事は仕事。休みは休みのオンオフをちゃんとしなさい』って、言ってるんじゃないかな?などと言っていたが――真相は不明だ。でもまあ確かに駅長(柴犬)にいろいろはじめのころから言われて過ごしていると、何故か身体が軽いというか。まあそれまでの俺の生活がおかしかったのかもしれないが。はじめはなんか無駄に細かい事言う駅長(柴犬)だな。などと思ったが。今のところ俺は毎日元気なんだよな。規則正しい生活になったというか。って、いやいやあの駅長(柴犬)が俺の事を思って言っているとか……ないよな。ないない。

 そんなことを俺が思っていると。どうやら寝台車から出てきた汐ノ宮さんは俺に用事があったのか。俺の隣へと歩いてきた。


「烏森さん。おはようございます」

「ああ、おはよう。汐ノ宮さん」

「烏森さんさっきからずっと空見てましたが。何かありました?もしかして新しい生き物発見しましたか?」


 そう言いながら汐ノ宮さんも空を見るが、今日も晴天が広がっているだけだ。他の生き物の気配というものはない。


「いや、生き物は居ないかな。ってか、本当にここ雨とかそもそも雲ないなー。って思いながらぼーっと見てた」

「あー、ここは晴れしかないみたいですからね」

「ホント雲が全くないし。でも干からびそうって感じはないんだよな。巨木も元気だし。雨が降らないの不思議だよ」


 俺は近くの巨木を見る。あれだ。俺が遠くの草原に倒れていた時に見つけてここへの目印となった巨木だ。今はほぼ目の前にドーンとある。それに近くの草原の草も元気だ。枯れているところは見える範囲ではない。


「ちなみにまだ烏森さんは経験してないですけど、いきなり冬みたいに寒くなることがありますよ?」

「何それ?この世界大丈夫なのか……」

「ペンギンさん曰く『異世界だから』らしいです」

「異世界って便利な言葉だな。って、半袖とかでいたら凍えるのか。長袖とか――ないから。今度カピバラさんたちが出る時に調達をお願いした方がいいのかなー」

「ですね。ホント突然前触れもなく寒くなりますよ。あれは来ると凍えますね。私はここに来てすぐに極寒を経験しました」


 そう言いながら震えるポーズをする汐ノ宮さん。ちょっとかわいい仕草だったのは――俺の頭の中だけで保存された。


「極寒か。汐ノ宮さんが言うのなら――うん。マジでちゃんと調達頼まないと。寝台車から出れなくなる」

「ホントですよ。外出たら空気が凍っているって感じです。ストーブ最強ですね」

「あっ、だから駅にはストーブがいつも置いてあるのか」


 ふと思い出す駅舎内。普段から普通にあるからあまり気にしていなかったが。駅舎の長椅子などがあるところの中心にはストーブが常にある。何故に出しっぱなしなのだろうか?と思っていたのだが。まあ邪魔ではなかったしで特に聞かなかったが。ここにて理由が判明したのだった。


「です。いつ寒くなるかわからないみたいですからね。ちなみに寒くなったら駅長さんもカピバラさんもストーブの前からは全く動きませんよ。1日中ストーブの前です。近寄りすぎると危ないって言ってあげるんですが。聞かなくて」

「何となく予想は出来てた。ってか。ペンギンさんはやっぱり寒さには強いのか」

「強いですね。そうそう寒い時の出発時は必死にカピバラさんをペンギンさんと押さないと何ですが。今度からは烏森さんも居るのでちょっとは楽になりますかね」

「——カピバラさんマジお疲れさまだな」


 凍えている中外へと強制的に押されて。電車を運転してくれるカピバラさん。その光景を想像しつつ。再度感謝をする俺だった。ホントカピバラさんが動いてくれないとだからな。運転手は1匹しか居ないから。


「ちなみにカピバラさん電車に乗ってしまえば普通なんですけどね」

「そうなの?」

「車内は暖かいみたいですから。だからもし翌日帰って来た時も寒いと――今度は電車の中からカピバラさん出てきませんよ」

「まあそりゃ快適なところを選ぶか」

「食事の時ですら来ないので、ご飯をその時は運んだりと、ちょっと大変ですが」

「でもまあ仕事してくれているからな。何か暖かくする方法があればいいかもだけど」

 

 カピバラさんの制服をもこもこに……はちょっと動きにくくなりそうだしな。あとは何をしたら温まるのだろうか?などと俺が思っていると。隣に居た汐ノ宮さんが何か思い出したのか手をポンとしてから――。


「あっ、そうそう。烏森さん。そのうち温泉を掘ってもらうとかカピバラさん言ってましたよ?」

「——ちょっと待って。掘る?えっ?誰が?」

「そりゃ……」


 そう言いながら俺を見る汐ノ宮さん。なるほど、俺には全くその話が来てないがカピバラさん何か計画しているらしい。ってか、ここの地面を掘ったところで温泉なんて……異世界だから出るのか。出そう。ヤバいな。これはそのうち超重労働の仕事が来るのかもしれない。多分寒くなった瞬間に頼まれそうだな。ちょっと覚悟が必要か。一応覚えておこう。


「ってか、寒くなるってことは――逆もあるってことか」

「ありますよ。暑いときはホント身体がくたくたになりますよ。烏森さんが来てからのここ最近は過ごしやすい日々ですが。次はどっちが来ますかね。前は寒い日が数日。戻ったと思ったら猛暑が数日そして――今ですね」

「そろそろどちらかが起こるのか。流れ的には寒くなりそう――」


 ヤバい。早速温泉掘りか?


「ペンギンさん曰く。暑いのが来るかもと言ってましたね」

「あれ?また?」

「規則性はないみたいですよ?熱いのばかりとか。寒いのばかりとか。交互とか。いろいろ見たいです」

「謎だな。って、そういえばペンギンさん暑いのはどうなの?」

「全く活動しなくなります。伸びます」

「——ここの駅の生き物はいろいろ大変だな」

「ちなみに駅長さんは今は元気ですが……」

「わかった。寒くても暑くても動かないと」

「正解です!」


 だろうなとは思ったよ。あの駅長(柴犬)だし。間違いなく。寒かったら丸まって動かない。暑かったら陰で伸びている光景がすぐに頭の中に浮かんだ俺だった。


「異世界やばいな」

「ですね。ってか、烏森さんはあっという間にここに馴染みましたよね」

「そう?」

「既に今寛いでいるじゃないですか」

「まあそりゃ――何もすることないからね」


 現在ぼーっと特に変える方法とか何か考えることなくここで過ごしている俺である。馴染んでいるというか。適応したな。


「私来てしばらくはそんなに落ち着いてなかったですよ?ホント烏森さんが来る直前くらいまでオロオロしてましたもん」

「でも今の汐ノ宮さんは楽しんでいるよね?」

「まあ、そりゃちょっと問題もありますが。楽しいですし――人間関係疲れないですからね。烏森さんも話しやすいですし」

「そう?」

「はい!」

「そりゃよかったというのか。俺は先に汐ノ宮さんが居てくれてよかったよ。困ったらすぐ聞けるし」

「いやいや私なんて。それに烏森さん私が居なくても普通に即馴染んで生活しそうな感じですよ?」

「そうかな?」

「そうですよ」

「まあ、とりあえず今日は休みだから俺はのんびりかな」

「じゃあ私も隣でのんび――」


 そう言いながら汐ノ宮さんが俺の横に座ろうとした時だった。


 ボコン!!


「「へっ?」」


 突然駅舎から黒い影が飛び出した。

 あっ、さらにもう1つ影が飛び出して初めに出て行った影を追いかけていった。って、駅長(柴犬)にカピバラさんだな。あれ?何事?と思っていると。すぐに駅舎の方からペンギンさんの声が聞こえてきた。


「椎葉ちゃーん。駅長が倉庫から食べ物持っていきました!」

「えー!何で?鍵は私が――ない!」


 すると俺の横で多分ポケットを確認したのだろう。バンバンと汐ノ宮さんがズボンを叩きながらそう言いつつ。座るのをやめてペンギンさんの方へと向かいだした。


「駅長朝ご飯の時にくすねたみたいです。椎葉ちゃんが準備してくれている時に」

「もう!」

「——あの駅長(柴犬)ろくなことしないな」


 俺が呆れつつ砂埃の方2匹が走っていった方を見つつつぶやくと――


「困った問題犬なんだからー」


 ちょっと汐ノ宮さんが砂埃の方を見つつ口を尖がらせていた。


「薫さん薫さん。薫さんも手伝ってください。お肉だけ持っていかれました。このままだとお肉が無くなります」


 するとペンギンさんは俺の方を見つつそんなことを言ってきた――ってか、お肉が無くなるのは悲しい。ここでのお肉は荷物が届く時しかない。それを独り占めは――許さん。


「良し。働くか」


 俺は少し体操をする。


「駅長さんのせいで休日出勤ですね」

「ホントだよ。まあとりあえず、行ってくるか。あっ、汐ノ宮さんはまたあの駅長(柴犬)が来るっと戻って来るかもしれないから。駅舎で」

「わかりました」


 俺はペンギンさんと話す汐ノ宮さんに声をかけた後。休日だが。ってか、いつもは制服で追いかけるが今はラフな普段着。運動にはちょうど良かった。結構走りやすかった。まああの2匹に追いつける気はしなかったが――待ち伏せくらいはできるからな。


 本日は休日だが。その後はいつも通りというのか。そこそこの運動をした俺でしたとさ。

 ちなみに駅長(柴犬)はこの後少しして確保され。汐ノ宮さんにご飯抜きとお叱りを受けたのだった。そうそう肉は無事だったとさ。

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