第13話 (仮)駅員の日常5

 5日目。


「睡眠時間が短すぎる!とっとと寝ろ!この若造が!」

「……えっ?」


 昼過ぎの事。今日は2人と3匹でお昼ご飯中。そしてちょっとした会話の中で、俺が過去の事を話していたら、突然駅長(柴犬)がキレた。いやいや駅長(柴犬)めっちゃキレるというか。何か待っているというか。俺に集中攻撃しているみたいだった。


 ちなみにその様子を見ていた汐ノ宮さんは俺達を見て楽しんでおり。ペンギンさんは俺に近寄り『面倒なお人ですから。気にしないでください。ゆっくり過ごしてください』と言ってきて。カピバラさんは『またしてるよ』的な感じで、寛ぎつつこちらを見ていたのだった。まあつまり駅舎は1人キレていたが。平和だということだ。


 なお、その後の俺、その日は午後から仕事をさせてもらえなかった。そもそも駅舎にすら入れてもらえなかった。


「睡眠時間の短い奴は入れん!」

「睡眠時間の短い奴は入れん!」

「睡眠時間の短い奴は入れん!」


 俺が駅舎を離れるまで同じことを言われたのだった。

ってかあの駅長(柴犬)絶対楽しんでやがる。キレているというか。楽しんでいる感じに俺には見えたのだった。

 ってか、まあ電車が週に1本とかいう平和すぎる駅。毎日掃除していてもなので、俺は何度か駅長(柴犬)に「睡眠時間の短い奴は入れん!」ということを言われた後は、のんびりと寝台車。今の寝床へと移動して、天気も良いしということで、寝台車の掃除。まずは車体の洗車をすることにした。


 そうそう、せっかくなので、今俺が使っている寝台車について説明をしておくと。入り口は1カ所。駅舎に近い方にドアがあり。そこから出入りができる。車内へと入るとまず左は連結部分となるが。今は1両しかないため。この連結部分は閉じられている。そして車両には両側ドアがあると思うが。入って正面になるドアも封鎖されている。これは初めて来たとき。汐ノ宮さんに教えてもらった時に聞いたが。汐ノ宮さんがここに来た時はちゃんと両側ドアが開いたらしいが。夜中に不法侵入しようとした輩が居たらしく。それを察知。問い詰めようとしたら――その輩が逃げ出そうとしてドアに激突。ドアが曲がったのか。開かなくなったらしい。ちなみに輩というのは問題犬の事である。あの問題犬。何をしているのか。そして汐ノ宮さんは初日から大変だったらしい。まあそのおかげではないが。出入口が1つになったので、ちゃんと戸締りは楽になったとか。1か所しっかりドアを閉めたら輩は入って来れないらしいのでね。

 話がそれたが。入って右手が車内である。ドアがありそこを空けると右側が通路で左側に4人部屋くらいのものが2つある。多分本来は2段ベッドで4人が寝ることが出来る空間なのだろうが。今は片側しか使われてないな。片方がベッド。もう片方はまあ物置って感じだな。ちなみに入ってすぐが俺が今使っているところ。そして奥が汐ノ宮さんである。ちなみにはじめ俺はこれ――いいのだろうか?仕切りというのは通路のところにあるカーテンのみ。言ってしまえば出入り自由という状況に男女なのだが――でも汐ノ宮さんは「問題ないです。烏森さんは大丈夫そうですから」ということで、俺は隣を使わせてもらっている。ちなみに物音は普通に聞こえる。

 さすがに初日は落ち着かなかったが。でも汐ノ宮さんが普通に接してくれたからか。2日目からは普通にここでも過ごしているな。雑談も今ではしてるし。

 ってことで、車内は部屋が2つある。ってだけで1両ということはなく。もちろんまだ半分だ。残り半分は――なんでこんなスペースが寝台車の中にあるのかはわからないが汐ノ宮さんが使っている部屋の先にはまたドアがあり――その先は洗面所などなどになっている。さすがに浴槽はないがここでシャワーも浴びれる。

 なお、水どこから来ている。などなどいろいろ聞きたいことはあるだろうが。ここは異世界である。説明が難しいことが多々あるのだ。ってか、ペンギンさんがこの世界には魔法がないと言っていたが。これが十分魔法な気がするというね。まあでも快適な生活空間のある寝台車である。


 さて、なんかいろいろ語ったかもしれないが。そろそろ掃除を開始だ。今この車両には大変お世話になっているので、まず今日は車体を綺麗に洗うか。などと掃除の準備が出来た俺が掃除を開始しようとした時だった。


「——きゃああああああ。痴漢!」

 

 という汐ノ宮さんの声が駅舎から聞こえたあと、バコン!と、けたたましい音とともに駅舎から駅長(柴犬)が飛び出してきて、その後をカピバラさんが猛追していた。そしてあっという間に見えなくなった。マジで元気だわ。ってか。汐ノ宮さん大丈夫だろうか?


 俺は掃除の準備をしたが。とりあえず俺を駅舎から追い出すであろう輩。駅長(柴犬)が居ないことはわかっているので駅舎の方へと様子を見に行くと――。


「あっ、薫さんちょうどいいところ」

「えっ?」


俺が駅舎の前に着いた時。中から――なんか紐を。頑丈そうな紐を肩に背負ったペンギンさんが出てきた。何だろう西部劇?ではないが。悪人を捕まえに行くのだろうか?って、捕まえに行くんだろうな。


「今から犯罪者を捕まえに行くので、椎葉ちゃんよろしくお願いします。1人にするとまた犯罪者が現れる可能性があるので」

「あ、うん。ペンギンさんも気を付けて」

「大丈夫です。運動に行ってきます!」


 そう言うとペンギンさんもまた――猛ダッシュで消えていった。ホント異世界いろいろあるよ。するとペンギンさんが出てすぐ。


「あっ、烏森さん。すみません騒いで」


 今度は駅舎から汐ノ宮さんが出てきた。特に変わった様子はない。


「いや、ってか。なんか叫び声聞こえたけど?」

「いや、駅長さんがいきなり足を舐めてきたので、叫んじゃいました」

「——それは正しい事かと」

 

 あの駅長(柴犬)何をしているのか。マジで八つ裂きにされてもいいだろうである。


「ホント。困った問題犬ですから。油断しているとすぐ後ろに居るので」

「危なすぎるな。マジで気を付けて」

「はい」

「ってか。今掃除しようとしていたから、寝台車のところ水とか準備してあるけど。汐ノ宮さん足洗う?」

「あっ。いいですか?」

「どうぞ。掃除なんていつでもできるからね」


 それから汐ノ宮さんすぐに足を洗っていた。入念に。ごしごしと洗っていたのだった。ちなみに、ペンギンさんの予想は当たっていた。追われていたはずの駅長(柴犬)はそれから少しして1人で戻って来た。どうやらカピバラさん。ペンギンさんを撒いたらしいが。ここにはまだ俺が居たので――。


「駅長(柴犬)発見!」


 と、叫んでみたら即2匹も戻ってきましたとさ。なおそれからは俺もちょっと運動がてら、追いかけっこに参加してみたのだった。まあもちろんだが。俺は役にはたたない。でも駅舎周辺。主に汐ノ宮さん周辺に居れば駅長(柴犬)は帰って来るため。数回叫ぶという活躍はしたのだった。

 ちなみにこの日の追いかけっこ。いや、警察役とでもいうか。その中で優秀な成績を収めたのは――ペンギンさんだった。

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