第9話 ファミリー?
急に外でそこそこの音がした。というか。少し離れたところから何か音が――と思っていたら。それがどんどん近くに来て止まった。多分この駅の真横で止まった。駅に来るものと言えば――。
「あっ、もうそんな時間?」
俺の後ろで汐ノ宮さんの声が聞こえたのとほぼ同時に。
「あー、長旅は疲れるなー。おーい。出迎えがないぞ。食料とか持ってきたのにどうなっているんだ?
「カピバラ!」
俺の視線に新たな動物が入った。
「ちょっと、車内の清掃まだですよ。荷物も降ろしてませんし。カピバラさん。綺麗にしてから休みましょうよ」
「さらにペンギン!?」
さらにさらにもう一匹動物が駅舎内にやって来た。
駅舎の入り口からカピバラが入って来て、それを追いかけるように、ペンギンが入って来た。どちらも柴犬と同じく制服を着ている。あっ、カピバラの方はちょっと着崩している感じだ。って、その形に制服作れる技術がすごい。
ちなみにペンギンの方はピシッと制服を着ている。かっこいいな。って、こっちはスカートだから……女の子。メスらしい。カピバラの方は――スカートには見えないので、オスとみた。
あと普通に俺がわかる言葉で話している。マジでここは……動物園?って、俺の声を聞いた2匹はすぐにこちらに反応した。
「む?また人が増えとるな。今度は男だな。まあ生き物が増えるのはいい事だ」
カピバラがそんなことを言いながらゆっくり近寄って来た。するとそのカピバラを抜いて――。
「初めましてー、キングペンギンです。よろしくお願いします」
「あっ、はい。
カピバラの方へとトコトコちょっと早歩きしていたペンギンが進行方向を急に変えてこちらへとワタワタやって来た。ってか、礼儀正しいというか。自然と自己紹介をしていた俺だった。疑問形になったのは――まあ察してくれ。この状況だからな。そして、その後にカピバラも付いて来て。
「私はカピバラ。ここの最年長だ。よろしく頼む」
「ど、どうもです、あっ、烏森薫です。よろしくお願いします」
今度は疑問形にはならなかった。ってか、気が付くと俺はしゃがんで挨拶をしていたのだった。いや、視線は合わせた方がいいかと思ってね。あと最年長と聞いて――まあちょっとちゃんとしないとと身体が勝手に反応したのだった。するとカピバラの隣にペンギンが移動して。って、年上っぽいから、さんを付けた方がいいな。
「薫さん。よろしくお願いします。新しい仲間が増えて嬉しいです」
「あっ。はい」
再度ペンギンさんが頭を下げてきたので俺もつられるように頭を下げていた。って、俺、普通にペンギンさんとカピバラさんと自己紹介してしまった。マジか。本当に動物が話しているよ。って、動物も普段から仲間の中で話しているか。コミュニケーションは仲間と取っているはずだから。それが俺もこの世界ではわかるというのか?それとも、動物たちが俺達の言葉を理解している?うーん。わからん。でも、とりあえず今のところ。カピバラさんとペンギンさんは友好的というか。俺の周りに居て――めっちゃ観察されている。チェックされているのか。めっちゃ俺見られている。特にペンギンさんの方からは――熱視線というのか。穴が開きそうなくらい見られているのは……なぜだろうか?
俺が2匹の視線をどうしたらいいのかと思っていると。俺の隣に汐ノ宮さんもしゃがんできた。
「カピバラさん。聞いてくださいよ。駅長さんがまた問題発言してきます。助けてくださいよ」
「なんだ?あいつ。ついに手を出したか?あれほど言っておいたのに。さて――八つ裂きか。覚悟しろ。くそジジ」
汐ノ宮さんの話を聞いたカピバラさんは、怖い言葉を言いつつもゆっくりと、のこのこと、俺たちの前から駅長(柴犬)の方に移動して行き。
「女の子をいじめるんじゃねー!このくそジジー!昨日も言っただろうが!いつになったらわかるんだ!ちょっと表出ろ!」
「来るな―――!!」
「待てー!!まだまだこっちも現役じゃ!」
「わしは仲良くしたいだけだ!!」
「くそジジは黙ってろ!」
突如として、男の戦いが始まったらしい。怖い怖い。
「……」
ちょっと現状説明をしておくと、何かを察知したのか。駅長(柴犬)が即逃走。駅舎の外へ飛び出していった。カピバラさんは制服を脱ぎながら近寄り――駅長(柴犬)がダッシュすると同時に、その後を猛追していった。めっちゃ速い。マジかよ。あんなに早く動けるのかよ。あっ。異世界だからか。そりゃなんでもありだよな。よし。納得。
「すみませんね。いつも騒がしい2人なんですよ」
すると、俺にペンギンさんが話しかけてきた。
「あっ、えっと――ペンギンさん?」
「はい。何でしょうか?薫さん」
「ここって――どこなんでしょうか?」
「まあ、簡単に言えば、薫さんも椎葉ちゃんと同じところから来たのでしたら。ここはその世界ではなく。別の世界。異世界とかいうやつですね。あっ、異世界という言葉は椎葉ちゃんから教えてもらいました。薫さんの世界で普通に動物と会話ができるとかありえないでしょ?もしかしたら話せる人が居るかもしれませんが。ここまでちゃんと話せることはないと思いますよ?」
――ペンギンさんが語っとる。
「……まあ。ですね。ここまで話せたら、いろいろな問題が解決しそうです」
「あっ、あと、ここは、とわか駅です。もう聞いていますかね?駅なのでもちろん電車は来ます。あっ、ちなみに私は車掌さんです。さっき飛び出していったカピバラさんが運転手です。車両は、今止まっているのであとで見ましょう」
「……いろいろパニックだ。情報が多い」
「まあまあとりあえず。薫さん」
「はい?」
「簡単に言えば、薫さんも異世界にワープしちゃったんですよ。それもこんな辺鄙な場所に。そして椎葉ちゃんの実験から人はここから出られないみたいです」
「なるほど、現実に帰ることは諦めた方がいいと」
「です」
よし、現実世界での俺の人生は終了したらしい。異世界のペンギンさんにはっきり言われたからな。間違いないだろう。俺は異世界に居て、もうここからは出れないと、なるほど、じゃあここで死ぬまで住めだな。OKだ。
「まあ、私たちは普通に隣町に行けるんですがね」
「——ちょっと待て、隣町あるの?」
俺がいろいろ頭の中で確認していると、新しい情報が聞こえてきた。どうやらこことは別の町があるらしい。
「ええ、隣町もちろんありますよ?ここから電車で半日くらいですかね。途中に町はありません」
「半日?えっ?めっちゃ遠くない?それ隣町って言っていいのか……」
一区間半日という事かな?とんでもない距離。または――電車のスピードが遅いのだろうか?あっ、後者の可能性はあるな。
「隣町まですごく遠くですから。だからここは辺鄙な場所と言ったでしょ?ちなみに電車は1週間に1本くらいです」
「なるほど――わからん。ってか、1週間に1本くらいか。あやふやというか。何かもうすごいわ」
「基本用事がある時にしか動きません。用もないのにわざわざ電車を走らせる必要もないので、最近は燃料代も高いですからね」
「無駄なことはしないと。あと異世界でも燃料が値上げ中なのか」
「です。魔法とか使えたらいいんですけどね。あいにく魔法はこの世界にはありません。それにのんびり気ままに生活がしたいじゃないですか。動かなくていいならのんびりしたいじゃないですか」
「ペンギンさんものんびりがいいんだな」
「もちろんですよ。好きな事していたいです」
「ってか、動物と話せることが魔法な気もするが――」
いろいろ言いたいことはあるが。とりあえず、ペンギン社会もブラックはいらないらしい。まあいい事だな。俺は社会に出る前からブラック。いや、落ちこぼれ。入れてすらもらえてなかったから。って、現実の俺終了したから。もうそのことは考えなくていいんだよな。やった。である。いや、なんかあのままだったら俺壊れたというか。いろいろ諦めていそうだったからな。今は解放された!という気持ちが大きかった。
そんなこんなで俺がいろいろ思っていると、ペンギンさんは俺の隣に居た汐ノ宮さんの前に移動していた。
ってか。先ほどから気が付いていたが。汐ノ宮さんとカピバラさんとペンギンさんは友好的な感じみたいだ。汐ノ宮さんもカピバラさんとペンギンさんにはニコニコ接しているしな。
あっ、あと、汐ノ宮さんとペンギンさんは一応同じ女性になるから話が合うのかもしれない。などと俺が思いつつ見ていると――。
「でも良かったじゃない。椎葉ちゃん」
「えっ?」
「この前言ってたじゃない。寝台車が1人じゃ広いから、もう1人くらい人が居てもいいかなー。って」
「あっ、それは言いましたけど……」
ペンギンさんと話しながら、チラチラとこちらを見てくる汐ノ宮さん。なるほど、人の話し相手が欲しかったか。まあそりゃ同じ人と住みたいというか。そんなことか。でも悪いだな。ここに居るのは俺だけだ。
「えっと――ご期待に沿えないというか。俺は男だからね?汐ノ宮さんの希望は同性では?」
もし。があるので、俺はちゃんと自分の性を名乗っておいた。だが――。
「大丈夫よ。薫さん。椎葉ちゃんは男の子が……」
「ペンギンさん!いろいろ勝手に話さないでー!」
「あれま。照れている椎葉ちゃんレア!かわいい」
ペンギンさんにいじられる女子高生を見ることになったのだった。
「——ここも仲いいな」
ペンギンとじゃれる女の子。なかなかいい光景だった。ちなみにその後しばらくペンギンさんが汐ノ宮さんにもみくちゃにされており。最終的には『ペンギンさん。お魚あげないから』という。どうやらここでは食材の管理を汐ノ宮さんがしているらしく。食料を人質に取られたペンギンさんが謝っていた。でも先ほどぶっ飛んで行った駅長(柴犬)からみると――まあ平和な解決だな。ペンギンさん謝ってはいたが――にこやかだったし。
ってか、俺何で動物の表情が読み取れるのだろうか?まあいいか。異世界だもんな。
って、そうそう、ぶっ飛んで行った――で、思い出したが。少し前に駅舎を飛びだしていった駅長(柴犬)とカピバラさんはどこへ行ったのだろうか?今は叫び声も何も聞こえないんだよな。
◆
ちなみにこの後の事をいうと。俺この駅舎で汐ノ宮さんと同じように働くというか。住むことになりました。住み込みとか言うのか?ってか。その話の時には駅長(柴犬)とカピバラさんも戻ってきていた。どうやら今回は駅長(柴犬)は逃れ切ったらしい。まあカピバラさんは仕事の後だから。そりゃ疲れもあったのだろう。ってか、駅長(柴犬)は駅舎に帰って来るなり。
「あっ、そこの馬鹿そうな若造。今この駅は人手不足で、駅員が足りないから頼むぞ」
「そんなにここ人居るのか……?」
今のところ電車なんて1本。それも先ほどペンギンさんに聞いたところによると。当面次の電車は来ない。なのに俺を雇う必要はあるのだろうか?
まあもしかしたらこの駅長(柴犬)は優しいのかもしれない。などと俺がちょっと考え直そうかと思っていると。
「若造。まず規則正しい生活をしろ」
「えっ?」
「どう見てもこの若造。不健康そうだからな。わしが鍛えてやる」
「——はっ?」
いろいろ現実での俺の生活がバレているのか。あれ?俺の見た目ってそんなに不健康そうだろうか?まあそれは置いておいて、何故かいきなり柴犬にめっちゃ命令された俺だった。いやいや、マジでだよ。何で俺こんなに駅長(柴犬)に言われているのだろうか?謎すぎる。ってか、駅長(柴犬)は偉そうに言っているが。既にここでの駅長(柴犬)のポジションがわかりつつあった俺はまあ、さすがにちょっとは気にしていたが――そこまでは言われた事に対しては気にしていなかったり。ちなみに周りからは。
「烏森さん。駅長さんはいつも通りなので、気にしなくていいですよ。私の時は――問題発言ばかりでしたから。あっ、後で部屋の方案内しますね」
「明日は八つ裂き」
「まずは薫さんゆっくり休んでくださいね」
汐ノ宮さん、カピバラさん、ペンギンさんがそれぞれ声をかけてくれたのだった。やはり俺の認識で大丈夫そうだ。この駅長(柴犬)いろいろ言っているがめっちゃ立場は弱い。間違いない。
ということで、何がどうなってここにやって来たかはわからないが。俺駅員となったみたいだ。よし。就職先決まった!現実の方で住んでいた所とかどうなったかとか。めっちゃ気になるが――現実世界では俺はどのような扱いになっているのだろうか?行方不明者?
まあ何か考えたところで、帰れないんだしな。仕方ないってことでいいか。俺は異世界で暮らす。よし!
「おい、若造。いきなり駅員では面白くない。しばらくは若造は(仮)駅員だ。使えなかったら出て行ってもらうからな。まあせいぜい頑張れ」
「……俺の扱いよ。まあお試しは必要とは思うが――」
訂正。俺(仮)駅員となりました。面白くないからとか言う理由で。まあいきなり捨てられるよりかはマシか。ちなみに汐ノ宮さんは正式な駅員らしい。無駄に駅長(柴犬)が2回ほど同じことを言っていた。
まあそんなこんなで俺の異世界での(仮)駅員生活が始まったのだった。
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