第8話 若いと褒めればいいとは限らない
「————えっと……中学生ですか?」
言ってから気が付いた。俺はいきなり何を聞いているのか。だが、それが良かったのか。俺の声に反応したのか、フリーズしていた女の子はすぐに動き出した。ってか。叫んだ。
「ち、違いますよ!?私高校生ですから!って、いきなりそれ聞きます!?って、まず誰ですか!?とっても驚いたんですけど!1か月以上ぶりに人と話しましたよ!心臓止まりましたよ。私生きてる?生きてるよね?って、中学生にみられるとか――」
「……」
現在の俺。いきなり聞くこと。話すことを間違ったからか。怒られているような感じになったのだった。
いや、これはガチで怒ったかもしれない。頬が赤くなっているし。ヤバいな。この雰囲気嬉しいとか。興奮って感じじゃないもんな。こういう時はとっとと謝るだな。
「あ、いや、悪い。こっちもいきなりの事で、ちょっと混乱していてな」
ちなみに見た目はホント中学生くらいだ。肩くらいまでの暗めの茶髪。幼い顔。身長もかなり低め。でも高校生?あっ、まだ高校に入ったばかりとかか。それならまあ中学生っぽい子も居るか。とりあえず俺は女の子に関してはそのように思うことにしたのだった。
◆
それから数分後。俺は高校生と言っていた女の子と駅の中にあった長椅子に向かい合うように座っていた。
はじめにちょっと怒らせて?しまったが相手も久しぶりに人と話すやらで。その後はなんとか普通に会話になった。良かった良かっただよ。
あと、久しぶりに人と話すと聞いた時点で……俺は何となくここがどこかわかってきたりしていた。まあとりあえずは、俺と女の子。彼女とでもいうか。彼女の方がいいか子ども扱いするとまた怒られそうだからな。それからは彼女としばらく話して……自己紹介など、ここまでの俺の経緯を説明したのだった。
◆
「つまり、汐ノ宮さんは1ヶ月くらい前からこの駅に居ると?」
「そういうことです。気が付いたら草原で寝ていて、歩いていたらここ。とわか駅にたどり着きました」
「なるほど。ほとんど同じか」
「ですね。そして今はここで働いてます」
「駅員って言ってたよね」
「まあのんびりなお仕事ですよ?」
「なるほど」
どうやら彼女も俺と全く同じ状況でここへとやって来たらしい。これってつまり――2人ともここがどこか知らないというね。あと、もう先に言っておくが。ここどうやら現実世界ではないらしい。汐ノ
そんなことあるんかね。だったが。実際に今俺達がこの場に居るから、あるのだろうが。もうわけわからんが。いいや。居るのだからここは――異世界でいいか。
あと、とわか駅。というのがここの駅名と。なお、聞いたところで全く知らない。初めて聞く駅名。そもそも異世界と聞いたので、駅名の事はもう気にしないことにした。
「でも、まさかの汐ノ宮さんが高3だったとは」
「まさかってなんですか!って、なんでその話に戻るんですか!」
おっと、また余計なことを言ってしまった。って、いや、マジで汐ノ宮さん幼くて、異世界だからって嘘言ってないかと思いまして。またつぶやいてしまった俺だった。って、まあ本当はわざと言ったんだがね。あまり堅苦しい雰囲気にしたくなかったから。だから話の途中で入れてみたのだが――そのうち俺マジで怒られるかな?でも、汐ノ宮さん怒っている感じ。また顔が赤いよ。だが――嫌という雰囲気はないんだよな。まあ俺の気のせいだろうが。
「いや、そのさ、高校生に見えないというか。いや、若いと褒めている。いや、これは褒めているになるのか?って、とにかく。うん。とりあえず、すみませんでした。場の空気を和やかにしようと余計な事言いました」
「……すみませんね。チビで。はいはい。異世界ならもっと慎重高くて、美人で胸もボインっての期待しますよね。すみませんでしたー!こんな身体で!異世界でも現実世界そのままチビですよ。みんなにもチビチビいじめられてましたよ!もう!」
「いや、あの……」
わざとでも、言うことを間違ったらしい俺。また汐ノ宮さんを怒らせたようだ。完全にそっぽを向かれた。って――その横顔がちょっと頬を赤くしていて、かわいかったのは……言えない。言ったらまた怒られそうだし。ってか、汐ノ宮さんもいろいろ希望が――なんだね。でも今もかなりかわいいと思うんだが。今のままではダメなのかね?まあ今まで女性との付き合いのなかった俺には全くわからないことだった。
「あの、とりあえずさ。汐ノ宮さん。ここは結局――どこかわからないということで……OK?」
「……」
「……」
ダメだお拗ねになられている。ツーンとしている。でも、何故かチラチラこちらを見てくるのは……何なのだろうか?でもまあ、こういう時は。
「余計な事言って申し訳ありませんでした!この通り!」
即行動である。俺椅子から移動して――。
「ちょちょちょ!
よし、効果あり。汐ノ宮さん大慌てである。慌てて俺の方へと移動してきた。
「いや、謝罪をですね」
「そこまでしなくて良いですから!顔上げてください。怒ってないですから、ちょっといじけてみただけですから」
ということで、汐ノ宮さんのお拗ねモードは終わった。って、いじけてみただけと言っていたが。なんでそんなことしていたのか。もしかして本当に人と会うのが久しぶりで――なんかいろいろな感情が?とかなのだろうか?
「で、ここはマジでどこなんだ?」
椅子に座り直してから俺は再度聞いてみた。
「わかりません。でも――まあ生きてはいけます。衣食住困ることはありません。不思議ですが――ちゃんと揃っているので」
「なるほど。衣食住があるなら。生きていけるな」
「ちなみに一度だけ、お休みの時に、1回線路の上歩いて行ったけどどこにも行けませんでした。なのでその後は諦めて普通にここで過ごしています」
「……えっと――どういうこと?線路の上を歩いて行ってもどこにも行けなかった?」
俺は言いながら、先ほど歩いてきた線路を思い出していた。確か線路は続いていた。俺はたまたま巨木を目印に歩いてきたからこちらに来たが。もちろん反対に行くことも出来たでも今の汐ノ宮さんの話を聞くと――なんだって?である。
「線路の上を歩いていたのに、気がついたらまたここが見えて来て」
「うん?ぐるっと回ってってこと?」
「わかんないです。でも、私は確かまっすぐ歩いたはずなのに、何故かここに戻ってきました。一度も歩く向きとか変わってなかったはずなのに……」
不思議そうな顔で話す汐ノ宮さん。俺はというと、話を聞いても全く意味がわからなかった。どこか途中で多くく左右に線路が曲がっていたとかなら。まあ戻って来るというのはわからなくもなかったが。でもその場合線路がどこかでくっつくから。気が付くだろう。でもそんな話はなかったので、なんといえばいいんだろうか。気が付かないうちに自分が歩く向きを間違えた?休憩したら歩き出す向きを間違えた?いやいやそれはないな。つまり、ここ。今俺達が居る世界はかなりおかしな空間。ねじれているという事だろうか?
「マジでどういうことだ?」
「……わかりません。でもとりあえずわかったのは。駅長さんが言うみたいに、私はここから出られないみたいです」
「マジかよ」
「はい。だから――今の私はここで駅長さんのお手伝いをして過ごしてます。まあここはここでゆっくりしていて、1か月も居ると馴染んできていますが。それに――楽しいと言えばここで暮らすの楽しいですし」
馴染んでいいのだろうか?って、でも話している時の汐ノ宮さんの表情はやわらかく。疲れているとか。不安とかそういう雰囲気はなく。普通に生活をしているというのが見てわかる。ってか、さっきから駅長さんという言葉が出て来ているが。他にも誰か――って、待てよ。確か人と話すのは久しぶりと汐ノ宮さんは言っていたから、誰と話したんだ?駅長さんは――人じゃない?可能性として考えれるのは――俺はずっとある視線の方を見る。
「えっと、汐ノ宮さん。確認なんだが。入り口に居る柴犬は……代理の駅長さん……?」
俺はそう言いながら先ほどからずっと大人しく。こちらを見ていた柴犬の方を見つつ聞いてみると。
「ここの駅長さんです。そこに座っている柴犬が駅長さんです」
「マジか!?」
やっぱりあの柴犬駅長だった。マジかよ。柴犬が駅長って、じゃあ汐ノ宮さん犬と1か月生活していたのか。
あれ?でもさっき話したって――あっ、そうか。1人だから。仕方なく犬と会話をして自分を納得させたのか。そこは触れない方がいいかな。やっぱりいろいろ1人と1匹だと大変なのか。
「はい。そう聞きました」
――あれ?何ではっきりと聞きましたって言えるのだろうか?妄想ではないのか?どうもおかしい。
「——なるほど。って、汐ノ宮さん。確認なんだけど――誰に聞いたの?」
「えっ?だから駅長さん本人からですよ?」
そう言いながら汐ノ宮さんは再度柴犬の方を見る。
「本人……?」
つられつつ俺も再度柴犬の方を見ると。
「——全く。また人が流れてくるとは、それも男とか。女の方がいいに決まっているだろ。何で男なんて流れてくるんだが。わしは若造が欲しいとか思ったことないぞ」
おっさんの声が突然聞こえてきた。そして柴犬が面倒そうこちらへと近寄って来た。
「……」
いやいや、さっき『ワン』言ってただろうが。何で今は普通におっさんの声なんだよ。って、俺が何も言えずに見ていると目の前まで柴犬はやって来て。
「おい、そこの若造。わしの女に手を出したら噛み殺すからな。急所をまず噛み千切るからな。しっかり覚えておけ」
「——めっちゃ物騒だな。って、マジで犬がしゃべっている。って――女?」
俺は今のところここ居る唯一の女性。女の子。彼女。汐ノ宮さんの方を見る。すると即だった。
「烏森さん違いますから。駅長さんが勝手に言ってるんです。この駅長――問題犬ですから。もちろん私、動物は嫌いじゃないですが。恋愛対象は人ですから」
「はぁ……って。も、問題犬?問題児みたいなことか?」
「そうです。かなりの困った駅長さんなんです」
めっちゃ必死に汐ノ宮さんが語ってくる。人って言葉にめっちゃ力込めてるし。って、気のせいだろうか?汐ノ宮さんが俺の方に近寄ってきている気がする。駅長(柴犬)との間に俺を。って感じで汐ノ宮さんは動いていた。すると駅長(柴犬)がまた話しだした。
「何を言うか。ここで生活するためにはわしに一生使えると言っただろうが」
「言ってません!」
「言った」
「言ってません!」
「誓った」
「誓ってません!もう!適当な事ばかり言うと、今度こそブラッシングなしですからね!決めました。なしです!」
「なんと!?」
「ごはんも半分です。決まりです!」
「待て!それは生命の危機だぞ。何を言っておるかわかっとるのか!」
「カピバラさんにあげます。カピバラさんはたくさん食べてくれますから」
「それはもっといけないことだ!あんな狂暴な奴に食事を与える必要はない。餓死すればいいんだ」
「酷い事言わないでください。それにカピバラさんかわいいですよ?」
「かわいくないだろうが!あんな奴に惑わされてはいけない!」
「……何を言い合っているのか」
女子高生と駅長(柴犬)が言い合いをしている。俺を間に挟んで。気が付いたら汐ノ宮さん完全に俺の背中に付いて話しているし。なんだよこれ。あと駅長(柴犬)も近い。俺はどうしたらいいのだろうか?止めていいのか?いや変に巻き込まれたら。男子を終了させられる?それは嫌だな。などと思っていると。
――ガタン……ガタン……ガタン……キキィィィィィィ。プシュー。
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