第17話 リリー 7

 


  お家の図書室で過去世の様々な悪役を思い出し書き出して、現在世の物語の悪役を学習し、悪役のなんたるかに磨きをかける。


  だけどあれから目立って事件はない。BL王子は私を警戒しているのか、ここ最近はグーさんの近くでも見かけない。


  そんなBL王子にも 左側アトワへの注意も怠らない、ギスギスでピリピリが完璧な私の学院ライフに、心暖まる休日がやって来た。


  ダナーの領地じっかで過ごす今日は、孤児院へ行く日。


  なんと、今回は特別なイベントを実施するのです!


  悪役の予習復習に童話を振り返っていて思い付いたある行事。


  『繰り返す日常』が爆発してコスプレイヤーしてしまうハロウィン。でもそれは皆が自主的に好きなものを着用出来る。


  そんな楽しいイベントではない。子供たちに強制的にコスプレを行わせる、演劇発表会を行う事にしたのです!


  地獄?


  やりたくないその辺の木、なりたくないその辺の草にだって、舞台上でぼんやり立ってもらいます。


  過去世では、幼少期から様々なイベントに駆り出されていた私。舞台上かグラウンドで、お魚だったり、虫だったり、妖精のドレスを身に纏いくるくる回されたり、ある時は法被を着せられて「セイヤッ」って踊らされたりもした。


  そう、子供にとって、発表会という試練を、孤児院の皆様にも与えようと思います。


  恥ずかしがってちゃダメー。


  だって私が経営者けんりょくしゃなのだから、やると言ったらやるのです。


  私の歴史は両親が熱心にスマホに収めていたので、生徒さんたちの歴史は絵姿にして院の玄関に飾ろうと思っています。


  ここ現在世では昔々より、神様に選ばれた王子様と仲間たちが、諸国を漫遊して各地の悪を倒していく物語が蔓延っている。


  はい神様はエルロギア様で、王子様は各国の領主の子供が主な主人公。


  ストーリーは同じなのに、国によって主人公が変わるんだね。童話ってやっぱり自国のヒーローが馴染みやすいものね。


  我がステイ大公国では、もちろん我がダナー家のご先祖様が主人公。


  思い出したのは配役決めのミーティングの日…。


  「では主人公はルートくん、主人公を助ける仲間たちは、カートくん、エレナちゃんに決まりましたー! 続いては…」


  当然大人気の主人公と仲間たちは置いといて、さあ注目。


  「悪役やる人、手を挙げてー」


  しーーーーん。


  先生の言葉に静まり返る室内。


  仕方がない、ここは私が…。


  そう思って静かに挙手したけれど、経営者の立候補は警備員によって却下された。だけどここで引き下がるわけにはいかないので、悪役の重要性を熱く語り、しぶしぶ手を挙げた幼い後輩たちを見守る事にした。


  悪役同盟の人員は、確実に増えている。


  私の思い付きで開催された子供たちの発表会は、道行く行商人や近所の住民を観客にちょっとしたお祭りになった。


  出店も並んで賑やかに笑う人々、そして笑顔が増えた子供たち。


  演劇は無事に幕を閉じ、暖かい拍手に包まれる。


  うむうむ。


  「上手だったわ、皆さま」


  特に悪役の子供たち。とっても上手だった。頑張って主人公にやっつけられていた。


  でもやっぱり…。


  「私の右に出るものはいない」


  だって私が、真の悪役なのだから。


  「プッ」


  ん?


  観客席で見守っていた私が、悪役を自画自賛しながら移動中、お客様の一人に笑われた。


  見るからに異国人。ボサボサの長い赤茶色の髪、そばかす、細身の少年は南国衣装を身に纏う。


  どちら様?


  私よりも少し年下、でもファン君よりはお兄さんに見える少年は、南国ダエリアの商人らしい。


  話をしてみると、ここダナーでもスクラローサ学院でもなかなか聞けない忌憚のないご意見。


  面白いな、こいつ。


  「安くしてあげるよっ」て言って去ったそばかす少年。


  ダナーというビッグネームに屈しない異国の商人が面白くて、警備員が止めるのも聞かずに彼の出店に足を運んでみる事にしてみた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る