第16話 リリー 6
私、「ふんっ!」て、言ってやった。
悪役同盟の絆を深めようと、迷子になっていたファイスさんとお話し中、まんまとやって来た主人公。
ご存知のBL世界、過去世では何となく排除されていた異性とのやり取りが、現在世でははっきりと男尊女卑という武器を振りかざして来たので、そこはしっかりと対応してやったつもり。
そして成長途中の悪役であるファイスさんに、お手本を見せてあげたの。
今の見た?
主人公は、こうやって突っつくのよ。
ってアイコンタクトに、彼は頷き返した。
ノリで親指出したかったけど、今日の警備員がセセンテァさんだから止めておいた。
彼は二番目の兄貴、メルヴィウスの第一信奉者。
メルヴィウスの真似をして、全身タトゥーを入れてしまうほどの狂気のファンである。
だから不良のくせに、貴族としてのマナーをチェックしてくる兄貴に親指を立てた私を報告されてしまうと、後々めんどくさいから止めた。
めんどくさい兄貴の行動は常に先を見て、適切に対処できる、お嬢様として完璧な私。
それはそうと、主人公……。
面と向かってあんなこと言われるとは、想像していた過去世のBLと、ちょっと違うな…。
彼らの話では、ファイスさんが遊び人だから良くないとか、私がグーさんに婚約破棄されたから良くないとか、そんないちゃもんつけてきた。
(なんかアイツ、エム何とか何とか、めんどくさい…。見た目は一般的な王子様なのに、本当に主人公なのかな?)
まあ、わざわざ悪役同盟の間に突っつかれに来る辺りとか、兄弟の心配し過ぎて
うーむ。
もう遅れてしまった次の講義に間に合うはずもなく、きっと黒色の仲間達が内容を教えてくれるだろうと期待して、急ぐことなく廊下を歩いていたらセセンテァさんに質問された。
「姫様、セントーラの第一王子殿下が気になるのですか?」
もちろんです。
私、先輩なのだから、後輩のサポートは積極的に行っていくつもりなの。同盟を強固なものにして、新米の悪役さんが立派に育つのを見届ける。
だってファイスさんが一人立ち出来て本格的に協力出来たら、主人公たちからの反撃リスクが軽減するから。
先行投資って、悪役としてのレベルが高いでしょ?
ムフッ!
そんな自分の黒幕っぷりに満足して帰宅したら、案の定
ここは実家ではないので、パピーとマミーが勢揃いする家族会議とは違い、それほど怒られなかったのは良かったけど、そこそこ疲れたのでその辺をうろつく事にする。
途中、ちょっとお庭までの道のりを、警備員や係の人を横目に目的の東屋に到着。
たまにはお部屋じゃなくて、解放感あるお庭で今後の事を考える。
そう、悪役同盟の今後の行動計画を…。
私の気まぐれな行き先に、既に用意されているティーセット。その仕事ぶりに黒幕以上の何かを係の人に感じたが、クレーに依存度が高い根っからのお嬢様の私は自然に着席。
今日のおやつは大人のおやつ。洋梨のタルトとお紅茶はアールグレイ。
もぐ……。
東屋の中で夕食前のおやつを頂きながら、結局は悪役計画よりも、甘味の足りないカスタードクリームの味にグーさんの頑張りを思い出す。
日に日に糖度が増してくるグーさんの手作りお菓子。
グーさんが仕入れてるお砂糖って、どこのメーカーなんだろう……絶対に教えてくれない。
「なー…」
「?」
「なーん」
「!?」
整えられた植木の隙間から猫が現れた。ぬるっと枝を躱しつつ、てくてくと東屋に到着。
灰色、青い目、過去世の友達の飼い猫の様にぽっちゃりボディーではなく、野生で鍛えられたスリムな姿。
首輪なし、賢そうなその目に映る目的は……、これか?
「なーん」
私の手にしたフォークの先に突き刺さる、中途半端に甘い洋梨タルトのかけら。
「なー…?」
(でもあげない)
かわいい目で見つめたってあげない。意地悪だからでも悪役だからでもない。
人間の食べ物は動物には毒になる物が多いから、かわいいからってお菓子で誘き寄せて与えたりしない。
見つめ合う私と野良猫の間に、やはりノーストレスで現れた係の人は、以心伝心かの様にノラちゃんに猫用おやつを持ってきた。
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