第13話 ( 7 )

 


  「エムルイフェミアス様の発言をお詫び致します。ですがスクラローサ王国では多民族を学院に受け入れています、異国の文化にも理解を示して頂きたい」


  「異国の文化とは、セントーラ聖王国にある、の事かしら?」


  自国の国民が信仰する戒律を、習慣と言われた事に温厚なレイの眉根が微かに寄る。だがそれを、微笑みで隠した。


  「ここスクラローサ王国でも、貴族の女性が男性の手を握ったり、この様な人気の無い場所で会うことは、一般的とは思えません。そこに、我が王子の怒りをお察し頂きたい」


  「……」


  「ファイス王子殿下は、少し奔放なところがあるのです。それゆえ異性に勘違いさせやすい。それは、彼の護衛であるエイートの力不足によるところもあるでしょう」


  レイは、同じく護衛騎士であるエイートを、戒めるように目線を投げた。


  「エイートは関係ない」


  「困るのです。エムルイフェミアス様とご兄弟であるファイス王子殿下が他国の、ましてやスクラローサ王太子殿下の元婚約者であるダナーの令嬢と噂になることは」


  「!」


  「私たちが発見しただけで良かった。この場は、ファイス殿下とダナーのご令嬢の双方によくありません」


  「ただでさえ、ダナー家の令嬢はスクラローサの王太子から婚約破棄されたばかりなのだ。それが直ぐに他国の王子を狙うとは、信じられないよ」


  横から口をはさみ、憐れみを鼻で笑ったのはエムルイフェミアス。婚約破棄などという不名誉な題材は、セントーラ聖王国のみならず、各国に知れ渡っている。


  (女にとって、これ以上の屈辱はないだろう。何度でも、その憐れな現実を突きつけてやる)

 

  王家の王妃という、女性が立てる最高位置を逃した現実。母である王妃は、事あるごとにその盾を使い幼いエムルイフェミアスを攻撃してきた。


  (王という高みには上れない憐れな者達のくせに……ん?)


  恥辱に震えて睨んでいるはずのダナーの令嬢は、にっこりと微笑んでレイの背後に立つ第二王子を見据えた。


  「文化を尊重すると言うのなら、セントーラは、スクラローサにおける我らダナーの立場こそ、初めに理解すべきでは?」


  「??」


  まるで決闘の申し込みの様に顎を上げ、胸を張り、少し開いた足に両手は腰に当てている。


  「この学院において、スクラローサ国王の右側に立つ我が一族ダナーに、その様な考えを持つものは限られてくる」


  スッと伸ばされた片手の五指は、拒絶を示して開かれる。



  「それは我らの敵だけです」



  セントーラ聖王国において、女は前に立たずに男に政治的な意見をしない。だがダナーの令嬢は、はっきりとエムルイフェミアスに言い放った。


  「私の行く手を阻む言動、つまり、セントーラ聖王国の第二王子の派閥は、我らダナーの敵になると、そう宣言されたのですか?」


  静まり返った聖堂内に、リリーの澄んだ声がよく通った。レイが王子を止めようと腕を掴んだが、それを振り払いリリーの伸ばした手のひらまで詰め寄る。一度は怒りを抑えたが、エムルイフェミアスにとって、この事は我慢の許容を超えた。


  「愚か者め。主であるダナー大公に伺いも立てず、ただの娘が、大公国の名を使って我らセントーラを侮辱するとは、まさに、大公の威を借る浅はかな女らしい考えだな」


  「……」


  「その行為が、ダナー大公国とその国民を貶めている事にも気付けないとは」


  「……」


  「セントーラ王家われらを敵にしたのは、お前の方だ。勉学の真似事をしても、最終的には子を産み、婚姻するしか取り柄の無いもののくせに」


  抑えるレイを更に横に押し、リリーと対面で向かい合ったエムルイフェミアスは、怒りに両の拳を握りしめる。その怒気を孕む王子を目の前に、リリーは「ふむ」と頷いた。


  「成る程、女である私が、うらやましいのね? ならば生まれ変わりに期待したらよろしいわ」


  「……!?」


  思ってもいない返答に、緊張に張り詰めた場に困惑が生じる。リリーと同じ様に物知顔で頷いたセセンテァを除き、何の事かと互いに目を合わせたセントーラの者達だったが、我に返ったエムルイフェミアスは顔を赤くして叫んだ。


 

 

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