第11話 ( 5 )
(スクラローサの第四王子グランディアは、欲にまみれた異母兄弟を粛清し、王太子となった)
確実な証拠を突き付け、司法と権力を最大限に利用し情無く行われた大規模な粛清に、スクラローサの王族貴族界は震え上がった。
その潔い行いはエムルイフェミアスの心に響き、同じ様に兄弟の悩みを抱えるグランディアに、会う前から興味があった。
スクラローサ王国に留学が決まり、訪れた王宮殿。
美しい淡い金の頭髪に、清んだ青空の瞳。
自分と同じくロギアス神の祝福を持つグランディアは、エムルイフェミアスに眩しく映った。
王太子から多くを学びたくて共にする時間を探す。だがその最中、グランディアの目線の先に、いつも同じ女子生徒が居ることに気がついた。
(また、ダナー家の者か)
性別を問わず行き交う生徒がグランディアを見て頬を染める中、ダナーの大公女だけは何も変わらない。見た目は、エムルイフェミアスが目にした女の中では飛び抜けて美しく、歩く人形の様だった。
このグランディアに対して表情を変えない生意気な大公女を、王太子の空色の瞳はいつも追っている。
(きっと、グランディア様が優しすぎて、あの者を憐れに思っているんだ)
我が儘の限りを尽くし、城に引きこもっていた。娘の行く末を憂いた大公夫妻により、成人後に初めて領地から出されたステイ大公国の長女は、世間知らずでスクラローサの国王にも楯突き王太子との婚約を破棄された。
(我が国セントーラであれば、そんな娘は恥ずかしくて表も歩けないだろうが、きっと羞恥心も無いんだ)
憐れだが元婚約者だった者を、優しいグランディアは気の毒に思っているのだろう。
少し気になったが、無知な大公令嬢が何も出来るはずもなく、そのうち居なくなるだろうと大して気にも留めなかった。
だがその令嬢が、血を分けた双子のファイスの手を握り、そしてあろうことかエムルイフェミアスを嘲り馬鹿にした。
ーー「まあ、本当にご存知なかったのね? ならば学院規則と一般的社交方法を、もう一度御覧になったらいかがですか?」
(思い出すだけで気分が悪い。やはり女は駄目だ。グランディア様の邪魔になる。…敬虔な信徒の騎士を堕落させるように)
エムルイフェミアスはその事を危惧し、心の中の苛立ちをダナーの公女に向けるようになった。
**
昼食後にくつろぐ中庭で、スクラローサ王国の文化について語り合う。制服の色を問わず、男女問わず話しかけ、ファイスを中心に自然と出来上がった輪だったが、それを割り裂く者が現れた。
「ごきげんよう」
「セントーラ聖王国の文化について、私も興味がありますわ」
ファイスの友人であり護衛でもあるエイートは、以前よりも超然としたリリーの姿に気圧され内心で息を飲んだが、第一王子は笑顔で応えた。だがあることを思い出し目線を下に落とす。
「先日は、我が身内が申し訳ない。改めて謝罪を…」
「いえ昨日セントーラ王家から、我がダナーの城に貴重な発火石が届いたと報せがありました。第一王子からの友好の証、お心遣いに感謝致します」
北国であるセントーラ国、そして同じく寒冷地であり永久氷土の山脈を領土に持つステイ国にとって燃料資材の確保は重要である。その資源を、ファイスは弟の無礼の謝罪とした。
「お心遣いのお礼に、この学院内では、私がファイス様のお手伝いをしてさしあげます」
「お手伝い、ですか?」
きょとんとリリーを見つめたファイスは、なんの事かとエイートと目を合わす。
「はい。留学期間、何かお困りごとがありましたら、いつでもこの私にご相談下さい。だって私は、ファイス様よりも先輩なのだから」
「……はい。ありがとうございます?」
ダナーの令嬢は、つい一年ほど前に領地からスクラローサ王都の学院に出てきたばかり。他国にも知れ渡るほどの箱入り娘で世間知らずと聞いている。
金髪というだけで、王宮の神官が後ろ楯につき、神殿で護られる様に育てやれた第二王子エムルイフェミアスの様に。
「……」
一方で早くに親元から離され、厳しい寄宿学校で幼少年期を過ごし、スクラローサへの留学前まで騎士団で軍に所属していた第一王子。
その自分に先輩だと頼もしく胸を張ったリリーに、ファイスは困惑を笑顔で隠して頷いた。
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