第10話 リリー5
グーさんが去った後、金髪王子とその仲間も気まずそうに、こちらをチラ見で挨拶もせずに居なくなった。
「
「いえ、慣れない土地での苦労、お察しします」
申し訳なさそうに立ち去ったファイスさんとその警備員。それを何となく見送ったのだけれど…。
(ファイスさん……)
弟の無礼を謝ろうとする新米悪役さんを見て、私が過去世から漠然と思っていたあることが確信に変わった。
それは、悪役のレベルダウン化。
過去世の漫画や小説、ゲームや様々な物語で濫立していた悪役たち。本来は悪役たる悪役を主人公にすることで、その悪役を虐める新米の悪役達が割り振られているのだけれど、彼ら、追い付いていない。
何が追い付いていないって?
新米の悪役を簡単に大量投入したところで、彼らの悪役のスキルが現場に追い付いていないのよ。
物語が創作された遥か昔から、何世紀にも渡り継子をビシビシと虐めてきた継母、または幼児を家族ぐるみで虐める親戚などなど、物語において悲劇の主人公のバックボーンを担う悪役。
彼らの陰湿さは後世に渡り語り継がれるのだけれど、主人公を虐め、そして間抜けに成敗されるまでの見事な立ち回りをきちんとこなしてくれる。
ポッと配役された悪役たちはね、なんとなく塩加減がいまいちなの。
新米の悪役である私が言うのだから間違いない。
だって気持ちがわかるから。
主人公を見つけてさりげなく近寄って、ビシッてするのってなかなか本当に、本当に難しい。
伝説の悪役の彼らは、きっとお食事時もお風呂の時も寝る前も常に主人公の事を想って、意地悪するチャンスをシミュレーションしていたプロフェッショナル。
人としての悪を全面的に背負って、無様に散った先輩たちの勇姿は幼少期から心に刻み込まれてる。この技術、なかなか簡単には真似る事は出来ない。
悪役……このままでもいいの?
いや、よくない。
悪役は悪役らしく、主人公が闇堕ちしない程度にビシビシ突っついて、彼らが大成するまでの道のりに導かなければならないのかも。
そして私の真の目的は、主人公を導いた後、役目は終えたとそっと引退して、もう関り合いはいませんよって何食わぬ顔して生存しているルートに進むこと…。
難易度が高めだ。
(……しかもジャンルがBLか……)
金髪王子のグーさんを見つめるラブな目。その金髪王子を見つめる仲間警備員のラブな目。
はたして、女である
BLによるBLのための世界の中では、女という性別は敵。いや、むしろゴミ。その他大勢のモブさんですらない埃と同然の無価値な存在。
親族やキッズという属性を取得出来れば、その場に同席許可を得られるだろうが…。
BLを第一信仰に掲げていなかった私としては、BLの世界観に飛び込むことは至福ではなくリスクでしかない。
ここはやはり、BLの世界での悪役の彼。ファイスさんのサポート役に徹した方が身の安全を確保出来そうな気がする。
だから、ファイスさんと悪役同盟結成したいと思ってる。私は黒幕として、ファイスさんを前面に押し出して頑張ろうと思います。
自分は影に隠れるって、なかなか悪役に磨きがかかってきたでしょ?
私、悪役を回避しようと勉強し過ぎ、結局は悪役への熱意が高まって悪役沼の深みにはまっている。
いや、もしかして?
三人のクリアデータは引き継いで、フェアリーさんたちが居なくなって前向きスタートしたはずなのに、恋愛レベルはアップしないまま、ハードモードがスタートしたとか?
境界のフェアリー悪役ver.で、実はやっぱり私が主人こ……。
(いや、冷静に考えよう。やっぱりどう考えたって、黒色の私は悪役属性。しかも新米が発生したからには、彼の先輩として、悪役の仕事をしつつ生き残れるようにサポートしよう。
その決意表明を心にしまい通学していたら、思ったよりも早く彼らと対決する時がやって来た。
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