第9話 リリー4
どーどーう、どーどーう。
過去世で読んだ絵本では、お馬がどーどーされていた気がしたけれど、現在世の厩舎では、皆がお馬さんをコントロールする時にはどーどー言っていない。
顔や身体をポンポン撫でて、お馬がブルルッて合図して、無言でスタッと乗っているような感じ。
なんか体つきの大きめなセントーラの人たちのやり取りを見ていると、頭の中では警備員たちが馬の手綱をピシッと引いて操っていた姿を思い出しただけ…。
(にしても…)
別に握手してうぇーいって、ぐーたっちしてハイタッチする連続技きめたわけじゃない。
ただの社交的な挨拶しただけなのに。
明らかに敵意むき出しで近寄ってきた金髪王子とその仲間。それと喧嘩していた黒髪王子の背中を眺めていると、私はピンと閃いた。
見た目が陰キャラのこの王子。
この人、悪役なんじゃない?
護衛の彼も灰色の頭に黒の瞳で悪役属性に当てはまる。
そしてこの現状は、客観的にパッと見て、黒髪が金髪を虐めている様にも見えるかも。
第一王子の見た目は第二王子から優しさを引き算した、丁度よい加減の冷たいお顔。きっとキラキラ輝く第二王子を妬み嫉み、柱の影でぬいぐるみかじってた幼少期を想像出来る。
あれ……?
周囲のざわつきに気がついた。ガヤガヤと少し離れた場所からこちらを横目で見ているのは通りすがりの生徒たち。
ハッ!
ちょっと待って?
私ももれなく黒髪で、黒髪王子の背後にまるで黒幕の様に立っているこの場には、チーム悪役が出来上がっている。
少し押され気味の悪役王子の護衛。
ハラハラ、ドキドキ。
(負けないで……)
手に汗握る。
ここで新米悪役王子が挙手をした。
えらいぞ! いけっ! 負けるなっ! あ、でも、中途半端な加害者にはならないように気をつけて!
中途半端な加害者は他害を何とも思わない、全て他責思考のやばいやつ。
奴らは口にするのも嫌な陰湿な虐めを実行し、それを他人に擦り付け、最終的には自分には責任がないと病気で方をつけようとする卑怯者。
加害者になるのなら、私は加害者ですって、しっかり加害者の自覚をもって加害者にならないと意味がない。
私にはまだ
その点悪役って、役である自覚をきちんと持ってこその悪役なの。
悪行によって、自分の無様な結末の内容が変わるのも悪役の良いところ。ほとんどの着地点は断罪だけれど…。
でも、中途半端な、加害者だけは絶対に駄目…。
そう内心で汗をかいて見守って居たのだけれど、矛先が
さすが
私、飛んできた火の粉は避けずに消火するタイプ。
(新米さん、見ていなさい)
はい、グーさんです!
(チッ、邪魔者め……)
それはそうといつもいつも思うのだけれど、大抵の主人公の資格って、とんでもないほどの鈍感力と信じられないほどの間抜けなお人好し検定に合格していることが必須。
これでもかっこれでもかって位に不幸を一身に背負い込み、かつそれを回避する術をあえて選ばずに、更に不幸の積み荷を自ら背負いにいく。
究極のマゾヒストの事を考えると、そこにはグーさんがしっかりと当てはまる。
グーさんのお母さんて、実はアトワの貴族の一員。しかも性格の悪い白兎よりも家の力は低い。そのお家とスクラローサの王家というバックボーンを背負って、彼は子供の時にわざわざうちのバースディパーティーにプレゼントも持たずに堂々とやって来た。
あの時は引っ込み思案の子供の一人だと見ていたけれど、よくよく考えるとこれってグーさん、マゾヒストの資質を遺憾なく発揮しての訪問だった。
マゾだねー。
実はやっぱり主人公だったんだねー。
しみじみと頷く私にグーさんが、去り際一瞬こちらを微妙な目で見たけどほっておく。
それよりも今気になるのは、目の前に居る中途半端な悪役の彼の事だった。
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