第2話 リリー 2



  それはそうと、あの出来事のあと私の中で不思議な事が発生した。


  それはセオさんが消えた森で、何故か三人の記憶があることだ。


  グーさん、白兎、ピアンちゃん。


  それぞれがあの場に居た記憶がある。


  そしてそれは彼らにも同じ様に記憶があるみたいで、あの時の話をしてみると、それぞれと話が合ってしまう。


  「ふーーむ……」


  あの場に居たのは私だけじゃなくて、ナーラさんとエレクトくんにも聞いてみたのだけれど、彼らにも記憶があり、それぞれの話をしてみるとそれぞれ合い、だけどそれぞれ一人しか居なかった会話の流れになる。


  例えばグーさんの他に兎とピアンちゃんは居た? って聞くと、居なかったって。


  なんでそんなこと聞くのって、そんなこと聞いた私に首をかしげる。


  その直ぐあとに兎の他にグーさんとピアンちゃんは居た? って聞くと居なかったって、どうしたの? 大丈夫なのって疑惑の瞳を向けられる。


  そう。


  グーさんの話をするとグーさんで。兎だと兎、ピアンちゃんだとピアンで話が纏まってしまうんだよね。


  「うーーむ……」


  あまりにもナーラさんもエレクトくんも真面目に私一人を疑うから、魔法に関する影響なのかと難しく考えようかと思ったけれど、やめた。


  一歩引いて考えると、『境界のフェアリー』ってゲームの世界。これはつまり、三人の攻略対象と、同じイベントに遭遇したってことで、そんな感じだよね。


  まるでプレイヤーが各攻略対象とゲームをクリアしたみたいに……。


  現場に即適応、情報処理能力高めでしょ?


  それはそうと私、悪役卒業するって頑張っていたけれど、実は始から主人公だったんじゃない?


  『境界のフェアリー悪役ver.』始まってたんじゃない?


  だって主人公フェアリー、何人も居たけどヒロインパワー発揮してなかった。


  これからは主人公に怯えること無く、自分のストーリー進んでやるってお兄様に宣言したけど、じつは私、もしかしたらバージョンは初めから真の悪役ヒロインだったんじゃない?


  ムフフ。


  三人の記憶があるということは、地味にクリアしたという証。データを引き継いでセーブしてるからこその多重記憶。


  ……まてよ?


  クリアデータの引き継ぎって、前回のデータでコツコツ貯めたお金とか、経験値とか、アイテムとか。


  あとは、クリア特典で開かれるといえばハードモード…?


  クリア後のゲーム経験値引き継ぎとか、アイテム引き継ぎとか、いろいろ考えてみてみたけれど、これって……。


  記憶だけ?


  いまいち腑に落ちない状況、ナーラさんとエレクトくんが横目で心配してるけど、自分主役で秋学期から一年はしっかり恋愛もしようと思ってる。


  思ってはいるんだけど…。


  乙女ゲームの世界だとの認識が強すぎる自分もいる。


  例えばヒロインになったとしても、スチル通りにキッスとか、グーさんとか兎としたいなんて思わないんだよね。


  少し思い出したけど、夜空の下でチュッてしてた、グーさんとヒロインのキッスシーン。グーさんや兎がじわじわ近づいてきて、覆い被さってきたらと思うと。


  (……笑うの通り越して、なんかゾッとする…)


  ていうかそんな現場、うちの警備員たちが許すわけがない。


   グーさんなんて、王太子というより、もはやお菓子職人としてしか見れなくなっている。


  目が合うと、新作のスイーツを熱く期待してしまう。


  (もしかして、何かのスイッチ押したら、グーさんを異性として認識出来るのかな……?)


  それはやってみないとわからない。


  でもせっかくパピーが確実に破ってくれた婚約破棄、今さらグーさんを恋愛対象にするわけにもいかず。


  今の考えはなかった事にしよう。


  兎やピアンちゃんは、ちょっと恋愛対象としての精神的難易度が高めだから、とりあえず、誰のスイッチを探そうかな……。


  そう学院ライフを恋愛バージョンでエンジョイしようとしていたら、見慣れない留学生たちがやって来た。


 

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