だって私は、真の悪役なのだから。2

wawa

第1話 リリー1

 


  澄み切った青空、涼しげな風が吹き始めた今日この頃。


  心機一転、秋学期が始まるよー!


  バルコニーで青い空を眺め、秋学期の抱負を考えていた私の肩に、そっとストールがかけられる。振り返ると、係の人がにっこりしていた。


  「姫様、お茶をご用意致しました」


  うむ!


  秋と言えば、芋、栗、カボチャ!


  そんな素敵な素材たちが挟み込まれ、生クリームでトッピングされたサクサクのパイと共に、季節のお紅茶をいただく。


  サクッ!


  もぐもぐ、もぐもぐ、もぐ…。


  やはり思ったよりも甘さは無い。ヘルシー。ヘルシーデザート、素朴な味の秋のパイ。


  「美味しいわ、クレー」


  私の定型文のお世辞に、にっこり微笑むのは我がダナー家の執事長アローの息子、クレオ。アローに変わって今は王都のこちらの別邸を管理する。


  我が実家であるダナーの城の隅々まで管理し、係員や警備員にとっても厳しいうちの父親と、見た目は氷の女王、更に性格が神経質という難易度が高めの母親の、あの二人が城を任せる執事の一族。


  (確か……お家の名前はものすごく長いのよね…)


  名字か領地にダナーってあったはずだから、きっとうちのどこかの親戚だとは思うけど。

 

  クレオの美しいお顔を見つめながらのティータイム。私がベビーの頃から意味なくお顔を観察され続けているけれど、いつもふんわり笑顔で優しく見守ってくれる。


  精神的依存度は兄のような姉のような、父のような母のような、それでいて肉体的依存度は保育士さんのような介護士のような、そんなスペシャリティな立ち位置にいる。


  だがそれはあくまでも幼少期の話で、思春期の手前辺りから脱衣に関するプライベート空間で彼を見たことはない。


  (でも、今でもクレオがお風呂現場に居たって、私は何の恥ずかしさも感じないだろう)


  お父さまやお兄さまズが風呂場に居れば、何で居るの? 早く出てってって気持ち悪さの嫌悪感と苛立ちは想像出来るけれど、クレオにはこれといって何も感じない。


  白髪、金の目、中性的な見た目に物腰の柔らかさは、まるでお日様で干されたばかりのふかふかのクッションがぴったり当てはまる。爽やかで中性的、ストレスフリーを具現化したような雰囲気を身に纏う。


  ベビーの時にオムツを替えてもらったり、無駄に広い城内でのお散歩中にトイレが想像より遠く、お漏らしの失敗で廊下で立ち止まった幼少期、素早くアシストしてくれた仕事ぶりは今も心に刻み込まれてる。


  そんな彼も、私の木登り事件のあと、もれなくしばらく姿を見かけなかった。


  私の管理を任されていた係員の一人だったクレオ。全て私の過ちなのだが、そうはいかないのが我が家ダナー。きっとそれ相応のペナルティを受けただろう。


  管理していた幼児が木に登って降りられなくなったあの出来事は、我が家を影で操る執事一族、彼らにも相当な黒歴史であったのは間違いないと想像する。


  だけど取りあえずそれは横に置き、木登りもお漏らしもしない、脱悪役したリリエルの成長を見せてあげようと思います!


  学園にはついてこないクレーだけど、一年間宜しくお願いいたします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る