悩んで、迷って、告白して
「大丈夫だったかい? 怪我してない?」
「うん、平気だよ! 助けてくれてありがとうね、ライオ。もしかして、私のことを心配して、見守ってくれてたの?」
「ああ、まあ……そんなところ。こうなるんじゃないかなって、そう思ってたから」
暫くして、帰宅した二人はある程度の気持ちの整理をしてから話をしていた。
男たちに襲われた際に怪我をしなかったかとライオが尋ねれば、モモが痛む場所はないと答える。
これも全てライオが助けてくれたお陰だと、もしかしたら彼は今日、ずっと自分のことを見守ってくれたのではないかとモモが彼へとそう言えば、ライオは複雑な表情を浮かべながらそれを肯定してみせた。
「良くも悪くも、君は目立つ。もしかしたら売上金や君自身を狙う不届き者が現れるんじゃないかと思って、こっそり見張ってたんだ。もっと早くに助けてあげられなくてごめんね」
「謝る必要なんてないって! 私がライオに助けてもらったってことに変わりはないし、危ない目に遭わないように見張ってくれてたんだもん。感謝こそすれ、責める理由なんてないってば!」
こうなるかもという可能性は頭の中にあったが、上手く言葉にできなかったが故に警告が行えず、結果として彼女を危険な目に遭わせてしまったことを詫びるライオ。
モモの方は恩人であり、自分のことを気遣ってくれたライオの予想外の態度に大慌てでフォローを行うと、苦笑を浮かべながら言う。
「たはは、でも参ったな~……私が住んでた世界は結構治安がよかったから、こんな強盗に巻き込まれるだなんて思ってもみなかったや。異世界では常識が違うってことまで頭が回らなかったよ。反省だね」
「ザルードには、浮浪者たちも住んでいる。ああいった連中はモモみたいな非力な女性を狙って強盗や強姦を行おうとするんだ。憲兵みたいな取り締まる人間もいるから、大丈夫なんじゃないかと思っていたんだけど……もっと早くに教えてあげるべきだった、ごめん」
「だから謝らないでって! そういう情報を得る前に街に出掛けた私も悪いんだしさ。それに、自ら目立とうとした部分もあるし……」
露店で注目を集めるために水着姿になり、客を集めた自身の行動があの強盗たちを引き寄せたのではないかと、自分の行動を振り返ったモモが思う。
あの時は人だかりができていたからライオがその場面を目撃したかどうかはわからないが……あの行いが悪しき存在を呼び寄せた可能性は十分にあった。
以前の世界では、グラビアアイドルが記者会見等で水着姿になることなんて当然だったし、今回のこれもその延長線上だと考えていたモモだったが、あちらとこちらの常識の差を完全に失念してしまっていたと、自身の軽率な行動を悔いている。
(そもそも、記者会見だって信用できる記者さんたちだけを集めた上で十分なセキュリティを施した上でやってるもんね。ボディガードも付けずにあんな真似したら、襲われる可能性大じゃんか、私の馬鹿)
異世界で初めて遭遇したライオが底抜けに優しく、女慣れしていない男性であったことでどこか気が抜けていたのかもしれない。
誰もが彼のように自分に悪意を向けず、触れようとしないわけではないと……自身の危機管理能力の無さに半ば呆れながら、異世界の厳しさを実感するモモ。
それでも、ここで凹んだ姿を見せ続けていたらライオがまた自分を責めるだろうと考えた彼女は、努めて明るく振る舞いながら彼へと賞賛の言葉を投げかける。
「でもすごかったね! ライオ、すんごい強いじゃん! あっという間にあいつらをやっつけちゃってさ~! あれ、何かの武術?」
「……修道士の護身術みたいなものだよ。僕以外にあんまり習得してる人はいないけどね」
「そうなんだ! 格好良かったな~! こう、無駄な動きもなく、必要以上に痛めつけることもなく相手を制圧! って感じでさ!!」
「そんな褒められるようなことはしてないよ。暴力で物事を解決するだなんて、本当はやっちゃいけないことだ。神さまだって、そう言ってる」
「でも、ライオがあいつらをやっつけてくれなかったら私はひどい目に遭ってたよ? 神さまだって、困ってる人を見捨ててまでルールを守りなさいだなんて言わないよ」
どうやらライオは、男たちに暴力を振るったことを後悔しているようだ。
あれは仕方がないことだと、彼が暴漢たちを追っ払ってくれたからこそ自分は助かったのだと、そう気に病む彼を励ますモモは、そのついでに気になっていたことについてライオへと尋ねてみた。
「そういえばさ……ライオ、あいつらが持ってたナイフを握り潰してたでしょ? あれ、どうやったの? もしかして魔法のパワーとか?」
「あれ、は……」
鋭い刃を持つナイフを素手で握り潰してみせた彼の怪力と丈夫な肌の種はなんなのかと、普通の人間では到底できない芸当を見せたライオにその種明かしを求めるモモ。
しかし、そんな彼女の問いかけを受けたライオは暗い表情を浮かべると、視線を落として押し黙ってしまった。
「……どうしたの? もしかして私、言いにくいこと聞いちゃった?」
「いや、そうじゃないよ。僕がただ、上手く話せないだけなんだ。ちょっとだけ……怖いんだよ」
「怖いって、何が?」
きょとんとした表情を浮かべて、ライオの言葉の意味を尋ねるモモ。
小さく息を吐いた彼は、その質問に対してこう答えを返した。
「普通なんだよ、あれが。僕は生まれつき、人の数倍力が強かったり、体が頑丈だったりするんだ」
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