修道士、暴漢を撃退する
「そこまでだ。その子に手を出すな」
「はぁ……? んぶへぇっ!?」
蛮行を働こうとする男へと制止の声が響いた次の瞬間、モモに最も近づいていた男がくぐもった呻きを上げながら吹き飛ぶ。
おそるおそる顔を上げたモモは、そこに立つライオの姿を目にして、小さく息を飲んだ。
「なんだ、てめえ……? 修道士か!?」
「そうだよ。強盗に強姦、お前たちは煩悩のオンパレードだね。主に代わって、僕が罰を与えさせてもらうよ」
「ほざけ! 不意打ちしたくらいで調子に乗ってんじゃねえ!」
ライオの服装を見て、彼が修道士であることを悟った男が拳を振り上げながら叫ぶ。
鼻息も荒く、先に倒された仲間の仇を討とうと意気込む彼であったが、ライオはそんな男の懐に一瞬にして飛び込むと、その顎へと掌底を叩き込んでみせた。
「あぶっ!? ぶえっ!?」
顎をかち上げられた男の体が大きく伸びる。
そのまま、開いたままの掌を男の腹に当てたライオは、半歩の踏み込みと共に彼を大きく背後へと吹き飛ばしてやった。
「はい、これで二人目……残すはお前だけだね」
「なっ!? ぐっ……!!」
「つ、つっよ……!!」
瞬く間に二人の男を制圧し、ダウンさせたライオが最後に残るナイフを持つ男を見つめながら言う。
完全に気圧され、怖気づいている男の様子を見ながら、モモは圧倒的なまでの力を持つライオの力量に驚きを隠せずにいた。
「な、舐めるなよ? こっちには刃物があるんだ! こいつにブスッといかれたくなきゃあ、女を置いて――」
「へえ、刃物? そんな危ない物まで持っているのかい? なら――」
「へ……?」
強盗である男が最後に頼ったのは、自身の武器である刃物であった。
それを振り回し、凶暴さをアピールしてライオを退かせようとする男であったが、彼は一切そんなことを気にしない様子で男へと近付くと、開いた手でナイフの刃を掴み、そして――
「ふっ……!!」
「ひっ!?」
――そのまま、強く握り締めてみせた。
普通ならばライオの手に刃が食い込み、指が落ちると共に血が噴き出すような顛末を迎える行為だろう。
しかし、ライオは一切顔色を変えないまま、刃を握った右手を軽く捻ってみせる。
ベキンッ、という鈍い音が響く。
その音を耳にして硬直するモモと男が見守る中、ライオが握っていた右手を開いてみせれば……そこには、握り潰され無残な形なった鉄屑が乗せられていた。
「随分と脆い金属だったね。それで? お前の腕の骨は、こいつよりも硬いのかな?」
「あ、わ、わ……!?」
「……腕の骨を砕かれたくなかったらすぐに失せろ。そして、二度と彼女には近付くな」
「ひ、ひいいいいいっ!?」
刃を受け付けない頑丈な皮膚と金属を容易に握り潰す怪力を見せつけられた男は、ライオの脅しに血相を変えてその場から逃げ出した。
仲間たちを放置し、途中、何度も足をもつれさせて転びながら逃亡する男の背を見送ったモモは、目の前で武器を持った強盗犯たちをあっさり片付けてみせたライオへと視線を向ける。
「ら、ライオ、あの……」
「……ここで話すのはまずい。すぐに帰ろう。まだ動揺しているだろうが、歩けるかい?」
「あ、う、うん……」
人目を気にしながらも自分のことを気遣ってくれるライオの言葉に頷くモモ。
先ほど男たちを叩きのめした強さと、自分の前で見せる彼の少し情けない姿を思い返した彼女は、そのギャップに妙な感覚を覚えていた。
(もしかしてライオって、滅茶苦茶強い? っていうか、ナイフを素手で握り潰せるって、すごいを通り越してヤバくない?)
ライオはナイフを握り締めた右手を一切気にすることもなく、平然とした様子で歩き続けている。
あれが魔法か何かの力を用いた異世界特有のパフォーマンスなのかと考えながらも、今はそんなことを話す気になれないモモは、ただ黙って彼の後を歩き、帰路に就くのであった。
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