第46話 面白い男

 ※この異世界では大阪と言う地名がない設定で、紀伊湾とは大阪湾の事です。


 紀伊湾を出航したモウリ丸は、明石海峡を抜けて、穏やかな瀬戸内海を巡航中だ。

 試験航海には波の穏やかな内海は打ってつけで、速度を測る事は出来ないが尋常で無い速度が出ている事は、行き交う帆船を瞬く間に追い越し進んでいる事で分かる。


 播磨灘はりまなだを通過、小豆島しょうどしまを避け備前寄りの航路をとり、島が見えて来た。

 モウリ城の石垣にも使った良質な石が取れる島、たしか犬島いぬじまと聞いた。

 切り出した石を輸送している湊、中谷なかのたにに接岸すると島民が慌てて集まって来た。


「モウリ王様!辺鄙な島へのご来訪らいほう、有り難う御座います!」

「お前は?」

「アズチ▪オウナガが家臣、犬島の奉行イシキリ▪トウミツと申します!」


 宿泊するつもりは無かったが、イシキリ奉行の歓待に一泊する事になった。


 夕飯宴の待ち時間に出された茶に菓子、菓子は指位の黒い棒状の物、一口食べて驚いた。

「甘い!これは黒糖か?」

「モウリ王様は、琉球や対馬などの特産品黒糖をご存じで有りましたか?」

 砂糖キビの栽培は、イシキリが奉行就任して始めさせたとの事で、島で栽培した砂糖キビを搾り、糖液を煮詰めて作った黒糖を石以外の島の特産としたいと熱く語り出した。


 オランダ商人から買い取ったパインの苗は根付かず失敗したとか、次はイチゴの苗をオランダ商人に注文してる、とか話すと聞いた事の無い果物の知識が豊富で面白い男だった。


 ※イチゴは江戸時代後半、オランダ商人が長崎に持ち込み、初めは鑑賞植物として広まったそうです。

 スイカの渡来は平安時代唐から渡ったと言う説は有りますが、不確かで文献としては大正時代と江戸時代の二つの説が有り、どちらの説もポルトガルから伝わって庶民に広まったとの事です。


「イシキリ奉行、モウリ王国に仕官する気は無いか?家臣にコウモウ▪マルコと言うオランダ医師も居るぞ」

「モウリ王国に仕官するのは夢で有りました!是非お願いします!」

「砂糖キビは上手く行って居るようだが、イチゴと言うのは上手く行きそうか?」

「イチゴは試して見ないと何とも言えませんが、パインは失敗しましたがスイカは上手く栽培出来ました、種も保存して居ります」

「スイカとは、どんな果物だ?」

南蛮人ポルトガルじんから買い取ったもので、一抱え位の丸い果物で水分が豊富な甘い果物で有ります!」


 試験航海は問題なく順調な事もあり、急遽紀伊湾港に帰還、オウナガにイシキリ奉行のもらい受けの書状を送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る