第31話 カガ大返し

「アツイエ!貴様!何と言う不始末をやらかした!!」

「殿!落ち着いて下され!モウリなど小者に好き勝手されては、天下を取られる殿の名がすたれますぞ」


「アツイエ!お前がこれ程時代が読めず、詰まらん遺恨で行動する愚者とは思わなんだ!!即刻腹を切れ!!介錯は情けだ!儂が取ってやる!!」


「………」


「情報ではイケイケ僧兵1000を、情け容赦無く肉塊に変えたのはモウリ▪サヨとの事だ!

 お前は完全に怪物を怒らせた!!

 モウリ大殿から温情で生かされて居るのに、逆怨みなどしおって!!

 お前は、我がアズチを滅ぼす気か!!!」


 サヨの本気、怒りの書状にオウナガは震え上がった。


 オウナガが掴んだ情報では、モウリ大殿は大打撃を与える大技にたけて居る、しかしサヨ殿は大技は勿論使えるが小技でいたぶる事を好むと聞く。


 オウナガは、恐ろしい所の有るモウリ大殿だが優しい思い遣りもあり、モウリ国の急激な発展から仕えるに価する名君と思って居る、だが得体の知れない不気味なモウリ▪サヨに関しては心底しんそこ恐れていた。


 アツイエはそのモウリ▪サヨを怒り狂わせる、庇いきれない愚行を行ってしまった。

 アツイエの首を持って何としても怒りを抑えて貰わないと、アズチ全土が瓦礫に変わる。


 アツイエに打ち首同然の切腹をさせ、首を桐箱に詰めオウナガは僅かなお付きの者と馬を駆けモウリ城に急いだ。

 カガで書状を受け、オウナガは僅か2日でモウリ城に参上した。

 お付きの者数人を従え、馬の交換時飲食するだけの不眠不休で駆け抜けたそうだ。

 後の世に言わしめた『カガ大返し』だった。


 ※規模的に凄く縮小し現実的な大返しにしてみた。

 秀吉の中国大返しは不可能に思える驚異、其ほど非現実的な奇跡だった。



 ***



 モウリ城城主の間

 モウリ▪サヨを前に、額を畳に擦り付けてオウナガは平伏している。

「素早い対応、オウナガ殿の誠意は受け取りました」

 オウナガに安堵の表情が伺えた。

「しかしアツイエの首だけか…オウナガ殿」

「……サヨ様?…」

「恩を仇で返したシバ一党の処分をどうしたのか聞きたい」

(恐いお方だ!そこまで言うか!)

「何も出来て居らんようだな、シバ一党の事又々父のかたきとか逆怨みして来たら、容赦無くアズチを滅ぼすぞ!

 私はヨリ様のように優しく無いと言って置く!!」


「アツイエの兄弟に息子達は切腹、シバ家はお家取り潰し断絶させます」

「ん?女達の方がしぶとく怨むぞ!アツイエの妻や娘をどう処分する?」

「サヨ様……そこまでは、お家断絶でご容赦願えませぬか」

「確かに、そこまでやったの知られたならヨリ様に怒られるか……オウナガ殿に任せる善きに計らえ!」

「はっ!」


「後は毒を流した伊賀者、頭領モモッチだったか、幸いこの度の毒は一般的な物で伊賀のスケサが解毒してくれたが、以後愁いを残さぬ様に伊賀衆に落とし前付けよ」

「はっ!伊賀者に手の者を送り、伊賀の頭領モモチに詫びを入れさせます」

「もし渋る事があれば、モウリ▪サヨの名に置いて、伊賀の里を壊滅させる!!私が怒って居る事を伝えよ!!

 今日はご苦労であった、下がって良いぞ!」


 針のムシロ物凄い威圧から解放されたオウナガは、退城して暫くすると安堵からか気絶の様な睡眠に陥った。

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