第13話
「まずわかっている情報から伝えよう。」
幼い声なのに知的な感じがひしひしと伝わってきてなんだか負けた気分だ。僕より年下なのに大学院卒の学者かぁ。
「今貴様が生きている年号昭和、その72年にそいつの記録が残されている。内容に関しては以下の通りだ。場所や時間を伝える。」
貴様、ですか。なんだか尚更虚しいが、場所と時間だからメモは取っておいた方がいいだろう。指に力が入る。耳を研ぎ澄ますように目を閉じた。
「場所は東京都新宿区歌舞伎町、番地までの記録がない。ただ建物外だからそこはなんとかしろ。時は2月11日、明日の夜20時。とあるT字にてショートカットで前髪を両サイドに流した女に接触している。女と会話した後、その女に護身用にと小瓶を渡す。手のひらサイズだ。その会話が終わるのが20時18分、それまでにその女と接触している医者を見つけ出して確保、もしくは殺せ。」
[簡単に言ってくれるじゃないか。しかも明日なんて作戦を考えている暇がない]
「たかが約35万平方メートルのT字路当たっていけば良いだけの話だ。簡単だろ。明日またこの時間に連絡する。こちらでは失敗した時用に引き続き<元被害者兼加害者>への接触をしている形跡を追う。あと持ち歩けるラジオを用意しろ。それで通信しながら話す。では。」
そう言われると、ザーと流れ出した。
グググと指に力が入り、立ち上がってシャープペンを机に思いっきり投げた。
肩で息をする。呼吸が鼻からはできなく口呼吸になる。ワナワナと口元は動く。
身勝手すぎる。こちらの言い分はなしだ。どの程度接触する医者は危険であるかとか、いやせめて確保、いやそうじゃなくて。
頭が回っていない。苛立ちで思考が追いつかない。でももう行動するしかない。
僕は財布を片手に塾用の鞄を持って自室を出た。
母さんは寝ているのか音はしない。今日は扉が閉まっているため確認ができないけど、好都合だ。「そんな早くにもう塾行くの?」と聞かれずに済むのは助かる。
そっと靴をはいて玄関を開けて、静かに閉めた。
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