第19話【伯爵(ゼノ)視点】モンスターに取り囲まれる
領地にいる女どもは皆臆病なのだろうか。
伯爵邸で使用人として仕えてもらうために募集をしているのだが、誰もやろうとしてくれない。
以前は抽選で決めるほど人気だったのに……。
これは最初に雇った全くもって役にも立たない使用人が犯人だ。
妻が使用人に厳しくしすぎてしまったのもあるかもしれないが、間違ったことは言っていなかった。
一言喋ってしまえばあっという間に領地で噂になってしまうのがここのメリットでもありデメリットでもある。
今回は悪い噂になってしまったな……。
だがまだ大丈夫だ。
元々の私の評価は非常に高い。
少々厳しい発言が出たからと言っていきなり嫌われたりするようなことはないはずだ。
それにしても家の掃除や食事まで私自らやることになってしまうとは……。
早いところ使用人を見つけねば……。
私自ら領地を周り営業をかけることになってしまうとは……。
「領主様!!」
「やあ、君か! 今日も豊作かね?」
声をかけてきたのは、この領地で食糧の要となる女だ。
はっきり言って良い女で、彼女が使用人になったら私の良心的な心も乱されてしまうかもしれないほど魅力的である。
だが、彼女はそれよりも領地の外側でより良き作物を収穫し領民たちへ新鮮な食べ物を提供してくれている。
当然伯爵邸にも差し入れとしてもらえるわけだが、彼女のおかげでどれだけ領地が潤っていることか……。
「呑気なこと言ってる場合じゃないんですよ! 領地の外側にモンスターがうようよ出るようになってしまって……。とてもじゃありませんが外で収穫などできません!」
「な!?」
急いで彼女の後へついていく。
領地の結界近辺で異様な光景を見ることになってしまった。
「これは……。なぜモンスターが。今まで結界の近くにすら全く現れず平和そのものだったのに……」
「今まで収穫していた作物エリア一帯も、全てモンスターたちに制圧されてしまって……」
「ぐぬぬ……。貴重な食糧を……」
五年以上にもなるだろうか。
私の管理する領地の周りにはモンスターが近寄らなくなった。
おかげで魔法など使わずとも平和なスローライフができる。
これがウリで領地は活性化された。
ソフィアに魔力があることを知ってしまった以上、魔法を使えなくする結界が必要だった。
だが、モンスター退治には魔法もしくは強靭なパワーを持った人間が必要不可欠。
とはいえ、結界にはモンスターの侵入を阻害する力もあるからむしろより平和になると思っていたのだが……。
「ひとまず領地内は結界のおかげでモンスターの侵入はできない。くそう、まさかこのような魔法に頼ることになってしまうとは」
「しかし……、ここ最近の収穫は領地の外側が主体で……」
「あぁ……、そうだったな」
領地内は安全だが、肝心の貴重な資源があるのが領地の外側なのだ……。
「いったいどうしていきなりモンスターが……。いや、待てよ……!?」
私にはひとつだけ心当たりがある。
もしもソフィアがただの魔法使いではなく、魔女だとしたら……。
魔法自体は人類の三割くらいの者が使える。
ソフィアのそのうちの一人なのだろうが、一度相談したことのある公爵様はおっしゃっていたな……。
『かなり強い魔力を感じる。魔法を禁じているこの領地よりも外の世界へ出したほうが良いと思うが』
などと、助言をしてくださった。
そういうわけにもいかなかったのだ。
奴隷として働かせるにはうってつけの女だったからである。
もしもソフィアが魔女だとしたらモンスターそのものだ。
あいにく、結界では魔女の侵入を止めることはできない。
ソフィアというモンスターを殺したことによって、仲間のモンスターたちが復讐に来ているとしたら……。
「伯爵様……。顔色がかなり悪いですが」
「あ、あぁ……。領民たちの食糧難になってしまいそうな状況を考えていたのでな……」
「どんなときでも私たちを考えてくださってありがとうございます……」
「なぁに、当然のことだ」
演技は欠かさない。
むしろこういうときこそ領民たちからの好感度を上げておかなければならないのだ。
それにしてもあのクソ女め……。
死してもまだ私に歯向かうとは……。
もしも生き返るようなことがあれば生き地獄を味合わせてやりたいものだ。
モンスターたちよ、早く諦めてどこかへ消えてくれ……。
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