第20話 ソフィアはモンスターと遭遇しなかった理由を知る
「これはすごい……」
公爵様は固有魔法を複数持っている。
主な魔法の概要が『分析能力』らしい。
そのうちのひとつに記憶を読み取る魔法もあるそうだ。
公爵様の屋敷へ上がらせてもらい、私の魔力を調べてもらっている。
先程から何度めの『すごい』だろうか……。
全属性使えるだの、回復魔法や治癒魔法まで使えるだの、魔力量も桁違いに多いだの……。
「ソフィア殿よ、ここへ来る最中、モンスターと遭遇しなかっただろう?」
「オロチはこちらから発見したようなものですから、それを除けば全く……」
「それは必然だよ。モンスターを寄せ付けない力が発動しているのだから。相当強いモンスターには効果がないとは思うがね」
「え!?」
これって結構まずい気がする。
私の未来設計図では、モンスターを退治して、その素材を売ってのんびり生活していくというプランを考えていた。
「解除することはできないのでしょうか?」
「なぜだね? このような素晴らしい力は見たことがないぞ」
公爵様には私の記憶を探る魔法だけは使わないでもらっている。
だから今の公爵様は、私の思考を読み取ることができないのだ。
「モンスターを退治して生計を立てていこうかと思っていまして……」
「はっはっは。そのようなことをせずとも、ソフィア殿は今後裕福な生活ができるだろうに」
オロチは木っ端微塵にしてしまったし、ケルベロスの素材も崩壊した村に奉仕してしまった。
私には一生楽をできるほどの資産は持っていない。
それに、どんなにお金があっても、なにかしら働いて動いて、その上で楽しんで生きていきたい。
「どちらにせよ……、無理だろうな。モンスターはソフィア殿特有の魔力そのものに脅威を感じて近寄れないのだよ。つまり、ソフィア殿が常に魔力切れでない限りは発動したままだろう」
「うーん……」
困ったぞ。
私にできそうな仕事って他になにかあるだろうか。
トラウマがあるから使用人はもうやりたくないし……。
「モンスターの討伐でなくとも、その力を発揮できるならば護衛は重宝するだろうな」
「護衛ですか」
「私が王宮へ行く際に依頼したいくらいだよ。本来はモンスターと遭遇しながら街を移動する。だが、ソフィア殿がいてくれれば確実にモンスターと遭遇することもない。これほど安全な力は素晴らしいと思うが」
なるほど。
そういう発想は出てこなかったな。
仕事としてやっていけそうな気がしてきた。
「教えていただきありがとうございます」
「大したことはしていないよ。それよりもつくづくゼノ伯爵はもったいないことをしたなと思う」
「もったいない?」
「キミを捨てたことがだよ。魔法を使えないものたちが魔法なしで生活を送るという辺境地自体は素晴らしい場所だとは思う。だが、ソフィア殿が今までいてくれたからモンスターなど皆無だったはずだ」
「そういえばモンスターの報告は今まで一度もありませんでした」
「それはソフィア殿が無意識にモンスターを寄せ付けない魔力を放っていたからだよ。いくら魔法が使えない結界とはいえ、結界の外まで魔素が流れてしまえばその力は有効になるだろうから。今頃モンスターが現れて騒ぎにでもなっているだろうよ」
公爵様はニヤリと笑みをこぼした。
もしも騒ぎになっていて領民に死者が出そうな状況なら助けたほうがいいかもしれない。
だが、辺境地には強力な結界が展開されているから、外へさえ出なければ大丈夫だろう。
そもそも、全員で私をゴミ扱いしてきたようなもんだったし、助ける義理はないのかもしれない。
でも、やはり気になってしまうし、王都へ帰ったら一度様子を見に行ってみようかな。
義父様には絶対に見つからないようにしないといけないが。
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